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亜空間商店  作者: たこね
序章
3/18

第三話

 これからのことを決める前に、昨日までの行動を振り返る。

 もともとバイクでの一人旅をやっていたのはそれまでの人生が吹っ飛んでしまったせいである。


 趣味のサバイバルゲームで使うエアソフトガン関連のアイテムを買うついでに始めた個人輸入代行業。

 順調に売り上げを重ね、いっぱしの会社といえる規模に成長していたのだが、注文先が取り違えて送ってきた品がよりにもよって輸入禁止品目だった。


 もちろん個人輸入をしていればたまにあるトラブルではあるのだが、この時は創業以来最大規模の大口取引だったため、巻き添えになった商品の数が多く、税関とのやり取りも例をみないほど難航した結果、大赤字となってしまった。


 このトラブルをきっかけとするように公私にわたってごたごたが発生した結果、自分の興した会社は人手に渡り、借金を清算して残ったのはある程度の現金とバイク一台だけになった。


 十六の時に親は離婚し、アメリカから自分を連れて日本に戻ってきた母は十年前に鬼籍に入った。

 父とは離婚以降全く連絡が取れないままである。

 恋人も友人も一連のゴタゴタの中で離れて行き、気が付けば一人になっていた。


 世界に見放された。


 そんな気分を紛らわすために残ったバイクで当てもなく旅をしていたのだ、元の生活への未練はない。


 Crという通貨がドルとおよそ等価であり、用意されていた資本金らしきものを契約金とみなすならば、日本円で契約金千二百万、月給十八万。

 住み込みであり、浪費するような使い道もないこの場所であれば破格といってよい待遇であろう。


 やたら高額に思える契約金だが、これは強引極まりなく、かつ問答無用で連れてきた事に対する迷惑料という側面と、取り扱っている商品は武器に主軸を置いているのだからある程度習熟のために購入せよ、という意図があるのではなかろうか。


 もともとガンマニアが高じて前の仕事を始めており、何度か南の島へ実銃射撃ツアーを組んで撃ちに行ったこともある。

 そしてこの仕事ではそれを売買し、習熟のために所有し、撃つこともできるだろう。


 よし、この商店の店主としてやってみようじゃないか。


 決断を下したマシューは満足げな表情を受けべ、二本目の煙草に火をつけた。


 そよ風が草原を柔らかく波打たせる光景を見ながらゆっくりと煙草を楽しんだ後、先ほどと同様に携帯灰皿に吸殻をしまう。

 ビールの空き缶を腰にぶら下げていたポーチに、サンドイッチを包んでいたビニールをジャケットのポケットにねじ込み、大きく伸びを打ち深呼吸して肺に残った煙草の煙を追い出してから店内に戻る。


 食堂のテーブルの上に放り出していたタブレットを手に取り、先ほど中断したメニューのチェックを再開する。

 とりあえずテストがてらいくつかの商品を購入する。

 煙草と薬っぽい味で有名なソフトドリンク、スナック菓子にインスタント食品をカートに入れ、決定。


”商品は倉庫の受け取りボックスに送付されます”


 リンク付きのポップアップが表示され、リンクをタップするとマップが開き、店内の倉庫部屋の見取り図の一部が点滅している。

 受け取りボックスの場所を示しているようだ。


 倉庫に行くと、見取り図通りの場所にロッカーのような受け取りボックスがあり、その扉を開けると先ほど選んだ商品がそのまま置かれていた、さすがに某通販サイトのように段ボールに詰め込んだりはしないようである。


「カゴとかカートも買っておくか、あると便利そうだ」

 少量だったので苦労することなく持つことはできたが、いろいろ買った場合はここから取り出す際に持ち切れないこともあり得るだろう。


 食堂に戻り、テーブルにドリンク以外の荷物を置き、ドリンクは冷蔵庫にしまっておく。

 代わりにすでにしまわれていた冷えたソーダの缶をひとつ取り出し、いったんキッチンカウンターに置く。


 キッチンカウンターの横にファーストフード店にあるようなゴミ箱が備え付けてあったのを見て、先ほど回収したごみの存在を思い出したのだ。

 中を確認すると分別するような構造ではなかったため、ビニールごみだけ放り込んで空き缶はゴミ箱の上に置き、ゴミ出しについては後で考える事にした。


 テーブルに戻り、注文した商品を検分する。煙草は以前好んでいた銘柄だが、代理店が撤退した為に日本市場からは姿を消していた銘柄である。

 しかし手元にあるのは当時日本で売られていたパッケージのままで、現在も本国で売られている物は肺がんの危険性喚起の為にパッケージの一部に肺や歯茎周りの写真が貼り付けられたちょっとグロいパッケージとなっているものではない。

 警告としての効果よりも自分の懐にグロ画像を忍ばせて、場合によっては人目にさらすことになるようなプレッシャーのかけ方は本末転倒なようにも思うのだが、ひとまずそっちの方向の心配をしなくていいのはありがたい。


 それはともかくとして、絶版した商品が買えるという事は時間も微妙にねじ曲がっているようである、さすが亜空間。


 スナックは今でも普通に購入できるタコス味のコーンスナックで、見慣れたパッケージ、味もいつも通りなので、荷物の中から取り出した輪ゴムで口を閉じておく。


 インスタント食品はこれも最近見かけなくなっていたインスタントのジャンバラヤ、仕事で遅くなった時に手間なく適度に腹を満たしてくれていたのだが、量が少ない割には高く、あまり売れずに消えてしまったらしいが、これも懐かしさもあり買ってしまった。

 先ほどサンドイッチも食べたし、ちゃんと食べるのであれば食材も設備もあるので普通に料理すればいい、という事でこれはしまっておく事に決定。


 確認を兼ねた休憩も済んだのでメニューのチェックを再開、商品を閉じ、支給品のアイコンをタップする。


 すると商品と似たようなカテゴリが展開されるが、内容は異なっている。

 生活必需品や食材などがメインとなっており、その商品の一つに先ほど購入を検討していたカゴがあったのでタップしてみる。

 すると先ほど同様の商品説明が表示されるのだが、金額が書かれておらず、購入のボタンが、支給となっている。


 要は無料である。という事は生活費が掛からないのだ、月給と思しき金額を見たときはちょっと安い気はするが、生活費もある程度割り引かれているのだろうからこんなものか、と思っていたが、まさかの生活費ほぼゼロ。


 なにこの好待遇。後足りないものと言ったらネットやテレビとかの娯楽だけではないか。


 念のため検索ボックスにゲーム機、家電などのキーワードをいくつか入力してみると”特殊支給品”というカテゴリに有料となるものの、ある程度一通りのものがヒットした。エロ関係も含めて。

 三十五歳という年齢ゆえ、まだ枯れてはいないものの微妙にどこに監視の目があるのやら判然としないこの環境でそっち方面が耐えられなくなる状況は来るのだろうか。


 スライダーを未来に動かせるとメイドロボットみたいなものも手に入れられるのだろうか、しかし高級車が買えそうな値段を請求されそうである。


 そこで重要な問題に気が付いた。客、どうやって来るの?

序章にあたる4話まで投稿することにしました。

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