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亜空間商店  作者: たこね
序章
1/18

第一話

念のためR15と残酷な描写タグを入れましたが、当分出番はないと思います。

 拝啓、今は亡き母上様、貴女の不肖の息子である私、桜井摩周は齢三十五にして人生が積みました。

 立ち上げた会社は人手に渡り、結婚を考えていた彼女に振られ、友人には見捨てられました。

 借金は精算したものの、住んでいた部屋を引き払い、新たな部屋を借りる予算もありません。

 唯一手元に残ったバイクで旅に出る事に致しました、あてなどはございません。


 そんな感じで傷心旅行をしていたのだが、これは一体どういうことなのか。


 昨日一晩の宿としてチョイスしたさびれた田舎のバス停に隣接したオートスナック――最近ではめっきり見られなくなった自動販売機を大量に配置した無人の販売所――のベンチで眠りについた筈。


 しかし目を覚ましてあたりを見渡すと建物の広さだけは似ているものの、みっしりと並べられていた自販機の姿はなく、コンビニのようにガラス張りの素通しだった壁は窓のない一面の壁に変わっていて、ここまでの旅の相棒であるバイクの姿も確認できない。


 バイクの安否を気にしながら、ガラスが嵌めこまれた引き戸であったはずの入り口に向かうと、頑丈そうな木製の両開きドアになっていた。


 ドアを開けて表に出ると、トラックが数台は余裕で停められるはずだった駐車場も、その先に走る国道も存在していなかった。


 目の前に広がるのは草原であり、そのすぐ先、というよりも周辺すべてを森が取り囲んでいた。


 振り返りながらドアから距離を取り、今までいた建物を見てみると、目の前は岩。

 切り立った壁に今出てきたドアが嵌めこまれたように存在している。


 見渡す限り、バイクはない。

 昨日走ってきた道も、オートスナックの建物も見当たらない。


「何がどうなってんだよ」

 狐か狸にでも化かされたというのか。


 そういえば荷物を中に置いてきた、取りに戻らねば。


 先ほど出てきたドアに手をかけようとした時、ドアに書かれている文字が目についた。


 ”亜空間(Subspace)商店(Store)


 亜空間?商店?なんだそりゃ、訳が分からない、そもそも商店って言っても中は空っぽじゃないか。

 疑問は尽きないが、まずは荷物を確保するため、ドアを開け、中へ戻ることにした。


 荷物は寝袋の足元に置いたまま――正確にはベンチの下に放り込んでおいたのだが、ベンチが消え、地べたに寝袋が移動していた関係なのか場所がわずかに移動されていた――となっていて、中身も無事だった。


 荷物の無事を確認したところで、改めて店内を見渡す。


 コンビニでいえばドアを入って右手側にあるレジが存在するであろう場所で寝ていたのだが、その周辺には何もない。

 奥に目をやるとカウンターがあり、その後ろ、丁度入口のドアと対角の場所にドアがある。


「コンビニというか携帯電話屋か?」

 携帯電話ショップから展示機を並べた棚や机を取り除くとこんな配置になるかもしれない。


「とりあえず外に出る前に中を調べたほうがいいな」

 自分に言い聞かせるように呟き、カウンターに向かう。


 カウンター周辺を探すと、タブレット端末が一つだけ置かれていた。

 手に取るとこの手の端末と比較して明らかに軽く、同時に軽く投げたり落としたりした程度では壊れそうにない硬さとしなやかさを兼ね備えたような感触を覚える、似たもので思い当たったのは学生時代に教師が持っていた出席簿だ。

 操作してみるとホーム画面が表示され、見慣れたものと似ているものの、別のデザインのアイコンが並ぶ。


 そこではたと気づき、タブレットを置いて自分のスマートフォンを取り出してみる。

 通信回線は圏外、GPSマップを開けば”現在地が確認できません”という表示とともに、昨晩夜を明かした場所周辺のマップが表示されている。


 再びタブレットを手に取り、マップアプリと思しきアイコンをタップする。

 すると表示された光景は先ほど見た光景と一致しているようだ。


 いろいろ操作してみるが半径二百メートル程度しか表示されないようで、ズームアウトもスライドでの移動もその範囲しか行えない。

 もどかしさを覚えつつ、ズームインすると画面にドアのようなアイコンが表示され、タップしてみるとマップが室内に切り替わる。


 今いるであろう部屋が表示され、ズームアウトするとこの建物全体が表示できたのだが、奇妙な構造をしている。

 建物といえば大きな四角を壁で仕切って部屋を作っていくものだと思うのだが、この地図に映っている各部屋のサイズはバラバラで家の設計というよりは”街を作るゲームでとりあえず道路を引き、その道路沿いに必要な施設を設置した”という感じで各部屋が並んでいる。


 各部屋をタップすると今いる部屋が店舗、ドアの向こうに廊下を挟んで食堂、風呂、宿泊室、個室、倉庫が真っ直ぐな廊下にそって並び、店舗側にはガレージ、工作室と表示されている。


「……とりあえず見て回ってみるか」


 ドアを開け、廊下に出ると食堂は仕切りがなく開放的な空間が広がり、正面には大きな楕円のテーブルに椅子八脚、奥に四人用テーブルが二セット、右手には低いテーブルを囲むようにソファーが配置され、左手にはカウンター付きのキッチン、そして冷蔵庫に大型のオーブン、電子レンジなどが設置された棚が並んでいる。


 冷蔵庫を開けると新鮮な野菜に肉、卵、飲み物各種が収まっていた。

 扉を閉め、改めて周りを見渡すが自分以外の人の気配は感じられないし、人がいた形跡もない。


「誰かいませんかー!」

 大声で呼びかけてみるが返答はない。


 キッチンに手をつき、ため息をつく。


 再度声をかけながら他の部屋も時計回りに探索していくが、最後に入ったガレージでも人と遭遇することはなかった。

 しかし、正面から消え失せていた愛車がガレージに置かれており、チェックしたが異常は見受けられなかった。


「さて、これからどうしたもんか……」

 食堂の一番大きなテーブルに腰掛け、腕組みをした状態で悩む。


 とりあえず荷物とバイクは見つかったため、旅を続けることが可能である、もともと起きたら出発するつもりだったのだが、問題は現在地が昨日いた場所ではないということだ。

 通信回線が圏外なのは場所によってはある、しかしGPSがカバーしていない地域が日本、いや地球上にどれほどあるだろうか。


 もっとも荒唐無稽かつ納得いく可能性は、異世界、または結界みたいなもので隔離された場所。

 そういえば入り口のドアに亜空間と書かれていた。

 ならば後者、しかしドアを出ると前者の可能性が上がる。


「まさか外は異世界で中は謎空間?」


 口をついて出た言葉に答えるかのようにタブレットがポーンと音を発する。


 タブレットを見るとメールの着信でも示すかのようにランプが点滅していた。


日本国内のGPSカバー率って90%らしいと調べてわかりましたが、彼はもっとカバー率が高いと思っております。

1/30章管理設定に気づいたため、サブタイトルから序章を削除しました。

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