第十七話 出陣
「仲睦まじいって言うのはいいなぁ」
突然声がして驚いて振り向くと、家の窓枠に手をついている、ガスイとヒコウがいた。
「おはよう」
「おはぁ~」
「おはよー」
双輝とガスイ、ヒコウは普通に挨拶していたが、銀葉はふつふつと沸騰の音を立てていた。
「いつからいたの!?」
「いまさっきさ。珍しいまでの双輝の取り乱した声が聞こえたから覗いただけ」
ガスイが言った。
「会って1日でそこまで仲良くなれるのなら大したもんだよ」
ヒコウがからかう様に言った。銀葉はトコトコと、二人の前まで歩み寄ると二人のあごに一気にアッパーを食らわせてみせた。二人は見事に後ろへと吹っ飛んで、後ろで静かに座っているスイセツの前で止まった。
「・ ・ ・ ・」
それを見て言葉を失った双輝。そして、確かに、この世界の女性とは違うんだと改めて実感した双輝だった。
「いっだっ! 何だ、あの女! 本当に女か!?」
「だらしが無い。たかが女性の一発で」
傍から見ていたスイセツが冷静な声でガスイとヒコウに向かって言った。ヒコウがそれに怒り、反論した。
「なら、お前も食らってみろって!マジ痛いから!吹っ飛ぶから!」
「知らん。俺はお前らみたいな馬鹿はしない」
「う゛・・・」
反論できない正答。ため息を吐いてヒコウは座りなおした。ガスイは白くなって落ち込んでいるようだった。
「あの・・・私、まずい事した・・・?」
「本来、四季剣とは、見た目こそ人間だが剣に変わりは無い。あんな簡単に吹っ飛ばせるものじゃないんだよ。俺だって特にあの二人を一気に吹っ飛ばすのは容易な事じゃないな。不意打ちって言ってもね」
「あらま・・・・。なんか申し訳ない・・・」
「気にするな。 さて。じゃぁ、行くか。ガスイ、付け」
「はいよ」
白くなっていたガスイが復活し、家から出てきた。
「あの、私・・・」
「着いて来ていいよ。だからガスイを連れて行くんだ。念のためって」
双輝はその足を運び始めた。銀葉もそれに続いた。
「どこに行く?」
スイセツが聞いた。双輝は森に行くと応えると少し警戒した表情を見せたが、クレハの行ってらっしゃいの声でかき消されていた。ヒコウはガスイを恨めしそうに見ているようにも思えた。
森の前で双輝は足を止めた。ガスイを一歩後ろに下げ、双輝は森に向かい、肢体から何かを放った。それが何を意味するのかを理解するには今の銀葉にとってはまだ早かった。
「行くぞ」
双輝はそう言って、森に足を踏み入れた。
森の奥で、にやりと笑った妖怪がいた。
「くくくく・・・・」
「どうしたの?」
笑った妖怪に話しかけた妖怪。見た目は少女のようだった。ふさっとした髪をゆるく後ろでひとつに縛り、短い袖と裾は寒さを感じさせるが、妖怪である彼女にはそれは無い。
「護人だよ。どうやらまた入ってきたらしい」
「まぁ」
「今回はこの奥まで入ってくるつもりらしいなぁ。よほど俺に会いたかったんかねぇ」
暗がりでクックと笑う妖怪を見て、少女の妖怪は嬉しそうな顔をして目の前の妖怪の隣に座った。そして、肩に頭をつけて呟くように言った。
「同じじゃない」