第十六話 覚悟
巫女が村を出て行った。入れ替わるように、またこの村に巫女が来る。ほかの村の護人が護衛しながら。
「へぇ~。そういうことだったんだぁ~~。いやぁ、良かったなぁ~」
「本当だよ!双輝を無能だと思っているのかと、心配したよ!」
「銀葉・・・・まさか、そんなことを巫女様に・・・・?」
ヒコウと、ガスイが嬉しそうに語る中、硬くした表情で双輝が聞いてきた。
「うん」
自信満々で銀葉は答えた。
「いや・・・巫女様にそんなくだらない事を聞くなんて・・・・」
「くだらなくない!! 大切なことでしょう!! 双輝はちゃんとした護人なのに、4本持っているのに、それより質の無い護人が有能だと思われているのは、私もヤダ!」
「我だな」
スイセツの言葉を否定できない。それでも、双輝はわずかにだけど、勘違いかもしれないけど、どこか嬉しさで表情を埋めた気がした。
夜、広い部屋に二つ布団が敷かれた。四隅の対角線上に二つ。女である銀葉に気を遣ってのことだが、なんだか寂しさを感じた。みんなは剣になって寝るようだった。
目が覚めると、朝日が差し込んでいた。いつもは、目覚まし時計で目を覚ますのに、陽光で目を覚ますなんて、なんだか、野生的なものを感じていた。緊張していたのと、やはり見知らぬ土地であるから寝るのもだいぶ苦労したし、朝日も、まだこの地を光で埋めたばかりのようだった。
外に出ると、まだ朝焼けが残りぼんやりとしていてどこか風情を感じた。
「眠れたか?」
唐突にした声に驚いて声のしたほうを見ると、そこには双輝がいた。
「は、早?!」
「いつもこの位だ」
双輝は軽く伸びながらそう言った。銀葉は驚きながらその姿を見ていた。なんだか、昨日と目の宿る光が違って見えたのは気のせいか。果たしてそうだろうか?そればかりが気になった。
「何?」
銀葉の視線に気づき、双輝が答えた。しかし、銀葉はふっと、目線をはずしてなんでもないと答えた。双輝は何かを少し考えたそぶりを見せ、そっと銀葉の傍まで来ると小さな声で言った。
「銀葉はさ。俺が思うに、巫女様の力を少しだけ宿しているんじゃないか、と思うんだ」
「え?」
「でも、銀葉はその力に己で気づいていないし、コントロールも出来ない。だから、俺の傍にいるように四季神様はおっしゃったんじゃないかと思うんだ」
「私が・・・・?」
「あぁ。だから、俺から何かを感じたならそれはきっと、巫女様の力の一種だと思う。隠さず言いな」
「・・・・うん」
銀葉は頷いて双輝の目を上目遣いで見た。やはり昨日と何か違う。
「双輝の、目が・・・昨日と違う・・・って、言って通じるかな?」
「・・・・解る。今日は少し覚悟を決めて森に行こうと思うから」
双輝はその目を柔らかくたらして笑った。どうやら、銀葉の勘は当たったようだった。
「森に行ってどうするの?」
「普段は、仕事の一環、護人として危険が無いかを見回るんだが・・・。今回は、人間として森に入る」
「・ ・ ・ ・ すいません。もう一度・・・」
双輝の言った意味が理解できず説明をもう一度促すと、双輝は申し訳なさそうな表情をしてあたりに人がいないことを念のため確認すると小さな声で語った。
「俺はどうしても妖怪が悪いものとは思えないんだ。そりゃ、各村から妖怪からの被害は多数出ている。でも・・・」
「少なくともこの森の妖怪は悪くない?」
銀葉の発言に双輝はとても驚いていた。銀葉は双輝の目をしっかりと見た。この世界に来て間もない。だから、妖怪のことも知らない銀葉にとって全てが情報。だから、最初に出会った、最初に教えてくれた双輝の感情がどうしても情として銀葉の中に入るのは仕方の無いことであろう。
「私の世界に妖怪なんていない。でも、そういう存在は知っている。この世界の妖怪がそういうものかどうかはわからないけど。物によっては化け物と扱って怖い存在でもある。でも、ものによってはいい妖怪として扱われている。訳解らない! だから。私は最初に知識をくれた双輝を信じる」
「・・・・?! 俺の言ったこと、間違っている可能性だってあるんだぞ?」
「なら、どうして私にその話をしたの? 信じているはずの四季剣達にも言わないで」
「・・・!!」
銀葉のこの発言にも双輝は驚いていた。正直、銀葉自信も驚いてはいた。なぜだか、双輝の気持ちを理解している。双輝がどんな気持ちでいるのかがなんとなく理解できる。
「で? 護人としてじゃなくて、フツーの人として妖怪に会いに行くって訳。どうして?」
「この森で、もっとも強い妖怪。それに会いに行こうと思っている。そして、直に話がしたい。それだけなんだ」
「村を襲わない理由?」
「え?!」
双輝は驚きをついに声に出した。銀葉は自分でも解らないこの『勘』に確証は無いが、確信があった。だから、双輝を見ないでまっすぐ前だけを見て双輝に言った。
「・・・。まぁ。そう。なぜ村を襲わないのか。それが一番の目的だね。後は、本当にただ話がしたいだけ」
双輝はそう言って立ち上がった。
「だから、俺は四季剣を持たずに森に入る。だから銀葉は家で・・」
「いやよ。私も行く」
双輝は銀葉を見下ろした。座っている銀葉の目はしっかりとしたものだった。
「妖怪を解っていない!銀葉には危険すぎる!」
「神様からのご命令ですもん! 護人と片時も離れるなって」
「な・・・・!?」
言葉を詰まらせ、双輝は一歩足を引いた。




