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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
魔獣

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初めての名乗りとか、ちょっとした不安

「うふっ」

「……ん」


 なぜか、クラリッサとヴァレンティナに挟まれる形で歩いている。


 こいつらと一緒に仕事って流れだけどさ、仲が悪いから俺が間に入らないとやばいんだよな。


 グレゴリーさ、お前絶対わざとだろ。俺がいたら、なんとかできそうって思って組ませてるだろ。


 さすがにないって。


「……ん、どうしたの。ライ?」

「なんでもない」


 クラリッサの青い瞳が覗き込んできた。


 なんか、こいつもまともじゃなさそうな気配はしてるんだよな。ヴァレンティナほどわかりやすくはないだけで。


 というか、わかりにくいからこそ、怖いんだけどな。最初は、辛いなら凍らせようとか思ってたらしいし。

 ……つっても、意外とまともそうというか。共感性がないだけとか?


 人として、何か欠けてしまってるのかもしれんけど。


 にしても、俺の体ちっちゃいな。まるでこいつら二人がお姉さんだぞ。二人のお姉さんに連れられてる女児か?


 なんか、気に入らないな。……この体はまともじゃないから大きくなるぐらいできそうだけど、さすがにそんなに人外らしさを極めても仕方ないしな、やめとこ。


「それにしても、それらしきものはいないわね?」

「……そうだね。エオスが、ライに引っ付いてくるって、言ってたのに」

「そもそも、俺について来てるからって、それを辿れるもんなの?」

「向こうからくるのなら、察知できると思ったのだけれど」

「そういうもんなんだ」


 ちょっとだけ、自分からの繋がりを確認してみる。


 何かが伸びているように感じるけど、これは元々ディオネに繋がっているからだ。


 んで、それ以外にも何個か繋がっているのが見える。煙みたいに揺らめいていてうまく見えないけど、細い繋がりがいくつも繋がっている。


 なんか、結構広がっているな。どこかに色々繋がっているというか。これが、獣に繋がっているんだっけ?よーわからん。


「……何か、わかった?」

「なんか、遠くに繋がっている気配がある気がする」

「それできんの?」

「……ん、ライが見えるなら辿れると思う」


 そういうもんなのか。なら、ちょっとやってみようかな。


 目を凝らして様子を見る。


 繋がりが広がる遠くの方に、いくつか影のようなものが見えている気がする。こういうものか。えっ、意外とわかるもんなのか?


「見えてそうね?そっちの方を探しに行くわ」


 そっと、手を繋がれた。


「……手を繋ぐ必要ある?」

「迷子になったら困るでしょう?」

「俺は幼児かよ」

「あなたは、自分の体の状態を自覚するべきね」

「……私もそう思う」


 ……なぜか、クラリッサまで繋いでくるし。こいつら。


 っていうかさ、両手を繋がれているのやばいだろ。遊園地に来た家族か?


 俺がガキの扱いされているけど、お前らの方がガキだからな。


 ……そう思うと、どいつもこいつもガキなんだよなやっぱり。姪っ子に懐かれてるおじさんってこんな感じなんかな。

 いや、絵面は全然そんなことないんだけども。






 二人に連れられて、少し人のいる場所から離れた茂みがあるような場所に来た。

 木々も少し生い茂っていて、ここら辺なら獣がいてもおかしくないって感じ。


「……何か、いるね?」


 急に、周囲が冷えた。


 ふーっと、クラリッサが吐く息が白くなっていく。


「ちょっと、寒いでしょう?」


 くすくす、と笑う。すると、熱風が頬を撫でる。


「……お前ら、やる気だすのはいいけど、俺に攻撃来ないようにしてくれよ」

「うふふっ、そうね?ライも、一緒に倒しましょう?」

「……ん、同じように名乗るべき」


 ああ、名乗りとかあったな。○○局所属、信仰序列何位とか言うやつ。


 あれ、何か意味があるんだっけ。


 そんな俺の考えを読んだみたい、ヴァレンティナが話し出した。


「名乗りは、私たちがやってることは信仰に基づいた行いだって、宣言するためよ」


 なるほどな、そのためなのか。


 っていうかさ、お前らの場合はやってることがやってることだから、ちゃんとしないといけないみたいな感じ?


 ……はあ、面倒だけど乗っかってやるべきか?


 ――ぐるるる


 唸り声が聞こえる。


「異端殲滅局所属、信仰序列5位――ヴァレンティナ」

「異端殲滅局所属、信仰序列4位――クラリッサ」


 二人の名乗りと同時に、煙のように揺らめいた何かが姿を現した。


 それも、何匹も。


 それが、少しずつ大きくなっていく。俺たちよりも、何倍も大きな獣へ。


 まさしく、魔獣とでも呼んだ方がいいような。


 ……俺が見つけたんだから、俺もなんとかしないといけないか。


「異端殲滅局、信仰序列番外位――ライ」


 グレゴリーから聞いた。俺は、本来この世界の人間ではないから、信仰序列の中にちゃんと含めることはできないんだとか。


 だから、俺に与えられた順位は番外位。特殊な存在でもあるらしいし。


 名乗りは、本来の名前じゃないといけないかもしれないけど。こっちでの俺は、だいたいライで通しているから。


 きっと、これでいいだろ。


「今から、全て燃やすわ」

「全て、凍らせて砕く」


 二人の宣言に合わせるように、俺も戦い前に一言なんか言っておくか。


「さっさと仕事を終わらせる」


 こんなんでいいだろ。


 ……ディオネとの繋がりを意識した。

 そこから、汲み上げるみたいにして、あいつの力を借りる。


 体の中にスーッと、何かが通り抜けていく。


 ゆっくりと、指先が少しずつ力が満ちていく。


 ――グルォォォォ


 遠吠えを上げながら、近づいてくるそれの牙が俺に迫るけど。


「そんなもんかよ」


 その牙は、俺の肌に通らない。こいつらはきっと、力を込めてるんだろうけど。強化された俺の体には、傷を与えることはできない。


 その顔を、軽く弾いてやる。


 すると、光が溢れて獣が消えていく。


 ……この体、ちょっと強すぎるんじゃない?


 そんなことをぼんやりと考えながら、次の敵に狙いを定めた。


◇◇◇


「で、なんで来たの。ライ」

「うん?わからないけど。気付いたらシリルの部屋にいたから」

「なにそれ」


 俺の部屋に来たライと、とりあえず話すことにしたんだけど。


 どうやら、意図せずここに来てしまったんだとか。確かに、影の中を動いてるようなこともあったけど。

 どうなってるの?


「私はね、正直ちょっと怖いんだよね。向こうに戻って、前の通りに生きていける自信がないから」


 ぽつり、とライが漏らす。……やっぱり、ちょっと変だ。


「この体になってから、じゃなくて。それよりも前から、だいぶ女の子になってきてたんだよね」


 ……妙に距離感が近いときのライを思い浮かべる。確かに、たまに口調が変わっていたりはしたけど、それのことかな。


「それからずっと、私の意識は男と女の間をあやふやに漂っていて、少しずつ傾き始めてる。きっとこのまま、いつかは……ってことね」


 ふふっ、といつものライとは違って。儚げに見える笑みだった。どこか遠くにいってしまいそうな。


「そんな状態で、元通りなんてやれそうにないでしょ。だからさ、こっちでちゃんと女の子をするのも、ありじゃないかなって」


 ……たぶんこれは本心じゃないんだと思う。ライの、強がり。


「ねえ、シリル。こんな私をとさ、一緒に――」

「ライは、そうは思ってないんでしょ」


 ライの目が見開いた。驚いて、目をぱちくりと瞬かせている。


「ライはきっと、本当は諦めたくなくて。でも可能性が見えないから、そうしようとしてるんだと思う」

「……なにそれ」

「……別に俺は、ライが何かしたいなら付き合うけど。でも、今のライは少し変だろ」

「……ははっ、お前やるじゃん」


 少しだけ、ライの雰囲気が変わった。口元を緩めて、僅かに笑ってる。


「確かに、らしくない……か。でもねー、なんかこう……私ってさ。ガチでクソボケだからさ。責任とか絶対に取った方がいいんだよね」

「……何の話?」

「そりゃあ、君を散々からかったりした話だよ」


 ……なんか、元気出たと思ったらやっぱりライは変だ。


「まっ、お前らのことも嫌いじゃないから。両取りを目指すのが一番いいよな」


 ただ、このときのライが一番いままでのライと近くて。こっちのライの方が、きっと好きなんだろうと思った。

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