表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
邪教

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/51

駆け落ちもできるならワンチャンあるよなってこと

 いつものように、薄暗い場所にいる。今日も、ディオネの夢の中にいるらしい。


 前とは違って、周囲に光がたくさん浮かんでいるように見える。


 それから――周囲に踞るたくさんのディオネたち。


 そのいくつかが、俺を掴んでいる。手を、足を、色んな所を掴んでいる。まるで、拘束されてるみたいに。


『ねえ、ライさん』


 一人が口を開いた。それに続いて、他のディオネたちが続く。


『私は誰も救えない人なんです』

『このままだと、ライさんも失ってしまう』

『だから、どうか私に救わせてくれませんか』


 どう返していいかわからなくて、押し黙った。それを否定と捉えたのか、またディオネたちが話し出す。


『私はライさんと、まだ一緒にいたい』

『でも、世界はそれを許してくれない』

『だから、私を消してでもライさんを無理やり助けます』


 ……消す?消すって、どういうことだ。


『一つの体に二つの魂があるから、ライさんは私に影響を受けてしまう』

『それなら、私が消えればどうなると思いますか』

「そういう解決方法は好きじゃないな」


 思わず口を開いた。ディオネたちが一斉に顔を上げた。虚ろな瞳がすべてこちらを見る。


『ライさんが嫌がっても、ライさんを助けてみせます』

「子供に助けられる大人ってのも、格好がつかないだろ」

『じゃあこのまま消えるつもりなんですか?』


 そこなんだよな。魂が混ざってるとかそういうことしか聞いてないんだけど、実際にどうやら俺は女の子みたいになってる瞬間があるらしい。


 それも、その頻度が上がってる気がする。ただ、ちょっと違う気がするんだよな。ディオネに影響されてるんだけど、別にディオネっぽくなってるわけじゃない。


 だから、もしかしたら。


「女の子みたいになるだけで済むなら、ワンチャン消えなくても済むんじゃない?って」


 強がって、もしかしたらあるかもしれないぐらいの可能性の話をした。


 周囲にいたディオネたちが消えていく。


 そして、奥から一人のディオネが歩いてきた。


『やっぱり、ライさんはそういう道を行くんですね』

「今のシリルの面倒見るぐらいの仕事だけやるなら、ディオネに任せて帰る道を探してもよかったけど」

『……いいなあ、あの神官。ライさんと毎日気軽に話せるの』

「お前、そんなことに憧れてんの?」

『そうですよ。私には、こうやって叱ってくれたり甘やかしてくれる大人は、いなかったんですから』


 曖昧にディオネは笑う。その顔はどこか悲しそうだった。


「子供扱い止めさせるって言ってたのにな」

『それとこれとは別です』

「そっか。じゃあたまには、大人っぽくなってみたらいいんじゃない?」

『ええ、ではやってみましょうか?』


 僅かに、ディオネは微笑む。きっと、聖女としてのガワを被ってる時はこういう風なんだろう。


 確かに、こうしてみればいつもに比べると大人っぽくはあるけど。でもあまり人間らしい表情ではないんだよな。


「聖女モードの状態で甘やかされたいってことか」

『なんか、それだとわたしが甘えたがりみたいじゃないですか』

「違うの?」

『素で話せる人が欲しいだけです』

「じゃあ、やっぱり消えてやるわけにはいかないな」

『……消えたら恨みますから』


 ディオネが一歩、歩き出した。少しずつこっちに近づいてくる。


 目の前まで来たディオネと目が合った。瞳が不安そうに揺れている。


『……絶対、私がライさんを助けて見せますから』


 それでも、そう強く宣言した。


「やだね、ガキには救われてやんないよ」


 でも、俺は別に助られたいわけじゃないしな。だから、そう返すと困ったようにディオネは笑う。


『……やっぱり、ライさんはそういう人ですよね』

「お前がただのそこら辺ですれ違ったガキでも、助けてやるよ」

『"見知らぬすれ違った魂であっても、その全てを救いたいのです"、ですか?』

「なにそれ、また聖典?」

『ええ。ライさんが、たまに預言者みたいなことを言うので、無理やり似てるものを持ってきました』


 何、預言者みたいなことを言うって。……魔王の時にそんなことがあった気がするな。


「どうせならさ、駆け落ちでもする?」


 ぱちくり、とディオネはただ瞬きした。そのまま固まってる。


『……かけ、おち』

「おーい、ディオネさん?」

『それって、恋人同士が逃げる時のやつですよね?』

「まあ、そんな感じではあるか」

『ライさんと、駆け落ち……?』


 ぼやけた視界の中で、固まったままディオネは動かない。なんか、変な想像してやがるな。


「聖女様ってもしかしてチョロい?」


 だから、薄れていく前に軽くいじってみると、声は聞こえないけど口が動いてるのが見える。


 それが、『あなたにだけですよ』って言ってるんだと、なんとなくわかったから、不思議だ。


◇◇◇


 ディオネのやつ、ずっと俺のことを気にかけてくれてるらしい。


 まあ確かに、消えたくはないけどさ。ディオネが消えるのを許容してまで、生き残りたいってのもなんか違うよな。


 この袋小路をなんとか脱出する術はないかな。


 というか、神官って辞められないんかな。聖女って称号があると無理か?


「……ねえ、何余所見してんの?」

「ああ、ちょっと考え中」

「俺の面倒見るのが仕事でしょ」


 ムッと、不機嫌そうな視線が抗議してきた。


「なんだ、最初は"これ"とか言ってきたのに見てほしいの?」

「……あんた、根に持つタイプ?」

「いや別に。懐かない動物みたいだなって」

「あんたの話をまともに聞こうとした俺がバカだったよ」


 はあ、とシリルはため息をつく。


 今日も、シリルとの仕事だ。というか、当分はシリルと一緒の仕事になるみたいだし。


 というわけで、二人で現場まで歩いているんだけど、昨日に比べて、あんまりシリルが生意気じゃない。なんでだろう。


 せっかくだからちょっと絡んでやるか。


「拗ねんなって。ちゃんと話聞いてやるから」

「そういうのはいいよ。っていうか、あんまり前に出ないで」

「なんで?」

「……なんかあったときに守れないからだけど」


 ぷいっ、とそっぽ向いた。


 なるほど、そういうことか。昨日、こいつを庇って死にそうだったから、それを気にしてるんだ。


「彼氏面?」

「……はあ、もういいよ。あんなへま二度としないし」


 なんか、ずっと呆れられてる気がするな。


「そっか、頼むよナイト様」

「口が減らないとかって言われない?」

「そういうのは言われたことないな。守ってくれるらしいし、ナイト様じゃない?」

「……昨日、あんな感じだったのに元気だね」


 これ、眠そうにしてもたれ掛かってたの起こられてる?しょうがないじゃん、眠かったんだから。


「まあ、お前じゃなかったら今日もテンション下がってたけど」

「……そう」

「シリルとのお仕事は楽しいなあ」

「からかうのに全力過ぎでしょ」


 呆れたように目を伏せるシリルを、なんとなくからかいたくなって、軽く肩を組んだ。

 散々、肩を貸してもらったりしたせいか、無理やり離されることはなかった。


◇◇◇


 肩に体重を掛けられる。触れてる部分が暑苦しい。


「今日も悪魔退治か。悪魔って昨日初めて見たしな」


 呑気にそんなことを言う、聖女様に似た不思議な女の子がいる。


 ライ、俺――シリルの新しい上司のような人。


 最初は、やけに構ってくるよくわからない人だった。なんか急にくっついてきたりしたし。危機感はなさそうだけど。


 こんな人と仕事か、と思っていたけど瘴気も知らないし、本当に神官なのか疑いたくもなった。


 効率の悪い悪魔の倒し方をしてたときは信じられなかった。神聖力を直にぶつけて倒していた。

 祓魔が使えないって聞いてからは、理解したけど、そんな人をわざわざ悪魔祓いに連れていく教会もよくわからない。


 ……それよりも、驚いたのは俺を庇ったときのこと。


 ――完全に、体を貫通してた。どう見ても、一撃で死ぬような致命傷。


 それなのに、その傷はすぐ治っていた。


 最初は、治癒(レストレーション)で回復させたんだと思った。でも、少しおかしい。


 その瞬間、神聖力が爆発的に増加してた。普通、治癒(レストレーション)で神聖力を使ってたなら減るはずなのに。


 この人は、一体なんなんなんだろう。そんな疑問が頭の中をぐるぐると回っていった。


 ……でも、それ以上にその後だ。やけに疲れていたのか、肩を貸さないと歩いてくれないし、そのまま疲れて寝始めるし。


 さすがに、危機感無さすぎじゃない?


 もたれ掛かった体温、寝息。それを無理やり覚えさせられた。今でも、ふと思い出してしまいそうになる。


 こんな、人を雑な扱いしてくる割に、少し細い手足と軽い体が、なんだか変に意識させてくる。


 放っておいたら、変なことにならないように、せめて少しぐらい守ってやろうとしたのに茶化してくるし。変な人。


「ん、何?」


 なんとなく横目で見てると、ライが小首を傾げた。その首も酷く細く見えて、それから目を逸らす。


「せめて、勝手に死なないようにしてよ」


 なんとなく、それだけ言ってみる。やっぱり、危機感がなさそうに見えるから。


 結局、けらけらと笑ってまともに受け取ってはくれなかったけど。


 ……普段、この人の世話をしてるらしい人も大変なんじゃないかな、とそう思わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ