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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
邪教

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19/50

神官くんとの仕事アフター

 ゆさゆさ、と何かに揺らされている気がする。


 眠たくて、目蓋が重い。


「おい、寝るなって」


 誰かの声がした。僅かに、目蓋が開く。


 くすんだ灰のような色の何かが見えた。これは、髪か。その隙間から、水色の瞳が見える。


「がき?」


 バカみたいに、掠れた声が出た。少しずつ、意識が覚醒していく。


 シリルにもたれ掛かって、歩いている状態になってる。そうか、確か途中までは馬車で送ってもらったんだっけ。


 その後、眠気が収まらなくて眠りこけてしまったのを、なんとかシリルに運んでもらってるような状態だろうか。


「起きてんじゃん、早くどいて」

「ううん……」

「いや、起きなよ。酔っ払いじゃないんだから」

「待って、起きるから」


 うまく力が入らない。再生後はどうしても疲れる。事前に神聖力を使ってたせいかな。今日は普段よりも疲れてるような気がする。


 気だるげな体をなんとか、力を入れて立たせる。


「んで、ここどこ?」

「あんたの家の近くらしいよ。はい、ちゃんと帰ってね」


 ようやく肩の荷が下りたとばかりに、大きく息を吐くシリルに、申し訳なさとそこまで嫌そうにしなくてもよくない?という、少しムカッとした気持ちが混ざる。


「どうせなら寄ってく?」


 そのせいか、ついそんなことを口に出してしまった。

 ぽかん、とシリルは口を開けている。


「……あんた、危機感ないの?」

「いや別に、迷惑かけたからちょっとぐらいくつろいでもらうのもありかなと」

「大人ぶってるなら、まずそういうのやめてね」


 なんだ、大人ぶってるって。こっちはちゃんとした大人だっての。とは言えず、向こうから見たら同じぐらいの年の女の子だろうしな。


 ふと、シリルが何か思い付いたように口を開く。


「あんたって、その……聖女じゃないよね」

「――」


 驚いて、目が開いていくのを感じる。


 聖女ってのがなんなのか、俺はまだよくわかってない。称号のようなもので、別に役職とかではないってことぐらい。


 だから、逆に聖女という立場での仕事もあんまりなさそうで、そうなったらそこまで知られてないだろうなと思っていた。

 ディオネも、聖女って扱われてるのをあんまり好きじゃないみたいだったから、そういう仕事があったとしても、積極的に関わってはないだろうし。


 だから、こいつはなんでそう思ったのかが気になる。


「いやその、もしかしたらそうなのかなと思っただけだから」

「へえ、聖女のファンなの?」

「そう言うんじゃなくて、昔見たことがあるだけで。あんたがちょっと、似てたからつい」


 言い切った後に、シリルは顔を背けた。


 なるほど、聖女っていうのを完全に隠してるわけじゃないから、たまにそういうこともあるのか。


「じゃあ聖女っぽい俺から、サービスとしてハグぐらいしてあげようか?」

「……だからさ、そういうのやめなよ」

「照れちゃって」

「怒るよ?」


 呆れてる割りに、ちゃんと心配そうに見てくれるその様子に思わず笑みが漏れた。シリルの顔が不満そうに、ムッと顔をしかめている。これがディオネだったら、もうちょっとちょっかいかけてたけど勘弁してやるか。


「はいはい。ってか、お前強いね」

「あんたが、祓魔使えないのがおかしいだけだよ」

「だから、使わずに倒すようにしてるんでしょうが」

「……で、毎回あんな目にあってるの?」


 あんな目に?

 ……ああ、死にかけてるってことか。


「そういうときもあるかもね」

「それはっ……そうなんだ。庇ってもらって助かったけど、あんまあんなことしないでよ」


 シリルが、まるで心配するように俺の顔を覗き込んできた。

 何、その反応は。ああ、そっか。後悔してるんだ。そりゃ、目の前で死にかけたしな。


 よくないな、こういうの。普通、目の前で死んだらびっくりするし。狂信者たちしか周囲にいないから、そういう普通の感覚が薄れていた気がする。


「じゃあ、今度からは守ってもらうか」

「……もういいよ。すぐに茶化すし」


 はあ、大きく息を吐いてそのまま歩いて行ってしまう。


 と、思えば振り向いてから一言、


「今度は、あんなへましないから」


 それだけ言って帰っていった。真剣な瞳に少し気圧されたけど、子供らしいかわいい責任感だなと思って笑った。


◇◇◇


「で、新しい少年を誑かして帰ってきた、と」

「言い方なんとかならない?」


 疲れて、ベッドに座り込む。だらしなく、法衣を脱いだ。


「だって、肩組んだりしてベタベタしてたんですよね?」

「いや、疲れて肩を貸してもらっただけだけど」

「……あの、一応その体はディオネ様のものなので気を付けてくださいね」

「気を付けるって何?」

「距離感とかですよ」


 机の上にご飯が置かれた。


「まあ、ちょっと気を付けるよ」

「……本当ですか?ライさんって、なんかそういうところ適当そうなので」


 訝しげに、こちらを見てくる。


「え、そうかな。まあ、夢の中でディオネを撫でたりとか、イェルクにもパンチしたりしたけど」


 スープを飲み干す。疲労感が薄まってくる気がした。


「……あの、心配になる情報しかないんですけど。なんですか、ディオネ様を撫でてるって」

「あー、まあ夢の中だから内緒にしとくか?」

「……もしかして、ディオネ様のこと狙ってます?」


 そう言われて、ディオネとのやり取りを思い出す。ディオネとの距離感も、結構近いけどそれは魂の問題だとか、色々あるし。


「仲良くしてるだけだよ」

「……なんか、ライさんって人たらしな気がしてきました」

「いや、そんなことないよ。信仰序列1桁の連中とかさすがに仲良くなれないし」

「待ってください、そんな人たちと関わってるんですか!?」

「言ってなかったっけ。さっき言ったイェルクもそうだけど」

「パンチしたとか言ってませんでしたか……?」

「したけど、男同士で肩パンしてるようなもんだよね」

「ええ……」


 食べ終わって、置いた食器をアクイラが片付けていく。


 人たらしねえ。そんなわけないけど。


 好意的なヴァレンティナも、別にディオネではない俺に興味があるだけだし。

 イェルクは、まあどうだろう。態度は柔らかくなったけど、それぐらいだし。


「まあ、大丈夫だよ。私は、そんなに人と関わることないもんね」

「あ、また女の子になってる……」

「えっ、そうかな?」

「はいはい、早く支度して寝てくださいね」


 あれ、無理矢理お風呂に押し込まれてる。


 うーん、おかしくなってるのかな。私ってこうなってるとき違和感がないんだけどね。


 裸をあまり見ないようにして、お風呂に入った。

 お風呂ってぽかぽかする。お湯の中に髪が広がる。


 うー、疲れた。ぶくぶく、と泡を立てる。


 温かさに、少しずつ疲労感が飲み込まれていった。


◇◇◇


 蝋燭が辺りを照らす。石壁に集まっている中、気味の悪い像がいくつか並んでいた。


 その中を、イェルクが歩いていく。


 影がぐねぐねと動いて、イェルクに続いていく。


「あら、あらあら。ここ暗いわね。うふっ」


 その後ろに、流れる銀色の髪が揺れる。くすり、と妖しい笑みを浮かべてヴァレンティナが続いた。


「邪教のアジトらしき場所だが、特になにもないな」

「そうね、うふっ。それにしても、イェルクはこの前、ライと仕事したのよね?羨ましいわ」

「そうか?別に、悪いやつではないが、一緒に仕事したいとも思わないな」

「あら、そんなことを言うなんて珍しいわね。イェルクも気になるのかしら」

「そんなことはないが。思ったよりも、普通の女の子みたいに見えたことはあるが」

「……あなた、本当に気になってないかしら」


 話し合う二人の後ろには、切り裂かれて燃えていった人の影がいくつも見えた。


 そして、最奥にたどり着く。


「あら、酷いわね」


 ヴァレンティナが赤い目をスッと細める。


 その先には、法衣を纏った女性が倒れている。二の腕付近には、奇妙な模様が刻まれていた。


 その女性は口を大きく開けて、白目を剥いて倒れている。


「これは、神官が狙われたのか?」

「そうなりそうね。あらあら、怖いわ。でも、売られた喧嘩は、買ってあげないといけないわ」


 いつものように軽快な笑みを浮かべている、そのヴァレンティナの声色は少し固い。


「この模様は……呪いのようなものか」


 ぴくり、と一瞬倒れていた女性が動いた。口の中からもごもご、と何かが蠢いている。


 黒い煙のような何かが、中から湧き出してきた。


「寄生してるわね」


 フッ、とヴァレンティナが息を吹き掛けるとその黒い煙に燃え広がった。女性の中から急いで逃げようと飛び出たそれは、イェルクから伸びた影にすぐに切断された。


「意外と気持ち悪そうね、邪教」

「狙われてるのが、神官かもしれないな」


 呆気なく、敵を倒した二人の後ろで、蠢く影が遠くへと逃げていった。

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