1 お菓子の店
「あそこが、お菓子のお店です」
ボーガンさんは、防風林を抜けると一気にひらけた景色の中にある一軒の建物を見るとそう言った。
「そこは、少し離れていますので」と、ボーガンさんは朝食後に馬車を自ら出して案内してくれた。
晴れた空の下、俺は、旅の途中と同じようにボーガンさんの隣に座っていて、見えてきた建物に目をこらす。
昨日行った、厩舎や畑を通り過ぎ、目隠しのような林の中にそれはあった。
浅い小川を馬車で渡り、着いた二階建ての赤茶の屋根の建物は、窓が大きく開けられていた。
「従業員に、風通しと掃除を頼んでおきました」
「かわいいっ!」
幌を外した荷車に座っていた姉ちゃんは、後ろから感嘆の声をだした。
馬車を止め、ボーガンさんは降りると、建物を見上げ、ほうけたようになっている姉ちゃんをエスコ―トするかのように手を伸ばし、降りるのを手伝った。
俺はぴょんと飛び降りると、色ぼけたレンガが敷き詰められた敷地に入る。
お店というだけあって、一階の真ん中には重そうな両開きのドアがあり、左右には水色の格子がついた大きな窓が取り付けられていた。
ボーガンさんがドアへの三段の階段を上がり、ポーチにつくと、ゆっくりドアが開けられた。
「お待ちしておりました」
カインさんが待っていてくれたようだ。
「久しぶりに来たけれど、変わってないね」
ボーガンさんは入って中を見回すとそう言った。
ホールはガランとして何も置いていなかったが、板張りの床は外からの光を反射してつやを出し、白いタイルを貼ったカウンター奥の開けられたドアからは厨房が見え、お店の名残は確かにあった。
「住むのは二階の方がいいでしょう」
そういって、カウンターの後ろへ行き、開けられたドアの逆側にある階段を上り始めたので俺も後ろを追う。
階段を上がりきると、三つの部屋のドアが開いていた。
ボーガンさんはなれたように一つの部屋に入り、確認するかのように部屋を眺めると、俺たちを振り向いた。
「ベッドの用意も間に合ったようですね」
そう言って、窓へと近づき俺に言う。
「あそこにある山は、従魔協会と魔術学校の境目をはたしているんです」
ボーガンさんが示したのは、一日あったら登れるような高さの山だった。
緑の木々が覆い、こんもりとしたやわらかさを持っている山が連なっていた。
「ご先祖様は、辺り一面を含めた山を買ったのですが、最近、王都は、このような野原がなくなってきたせいなのか、鍛錬場として貸してほしいと言われ、山の向こう側は、山を傷つけない約束の元、立ち入りを許可しています」
だから、従魔協会からの帰り道が短く感じられたのかと俺は思った。
「山には、もちろん獣が生息しているのですが、こちらへ降りてこないように結界をはっています。まぁ、完璧ではないかもしれませんが…」
あれ、ちょっと、怖いこと言ってないか?
俺は、山を見ていた目線をボーガンさんへ動かす。
「でも、ルート君達なら大丈夫でしょう」
ボーガンさんは、何かを分かっていたかのように、空を見上げた。俺もつられて見上げると、
「おぉ、すごい収穫ですね!」
バッサ、バッサと音が聞こえるかのような大きな翼を広げて朝から姿が見えなかったパラがこちらへ飛んできているのが見えた。
そして、足のかぎ爪でしっかりと、獲物をつかんでいるのが見える。
「あれは、なんでしょうねー、イノシシかな?グリズリーかな?」
嬉しそうにボーガンさんは言うのだった。
結果、グリズリーだった。
パラは、その獲物を建物の前にどすんと置くと、胸を張るように俺たちを見た。
近くでみるとすごい迫力だった。
「すばらしいですね、パラさん!」
ボーガンさんは興奮したように言った。
「毛皮も、あまり傷ついていませんね。どうやって仕留めたんでしょうか」
カインさんは、冷静に商品を吟味するかのように感想を言う。
『お世話になるんだったら、あんたたちの食い扶持も確保しなきゃだめなんだろ。私たちは、もう食べたからね。あんたたちが食べるといいよ』
「…うん、ありがとう」
俺は、パラたちを世話しなきゃと思っていたけれど、パラは、逆に俺たちの面倒をみなければと考えているようだった。
「パラが、俺たちにって狩ってきてくれたようです」
「なんて、飼い主おもいなんでしょう」
感激したかのように、ボーガンさんは言う。
「グリズリーの肉は、おいしいって言うわよね」
姉ちゃんも俺の隣で、初めてみる大きさのグリズリーに喜んでいる。
「おいしく食べるには血抜きや水で冷やすなどありましてね…」
カインさんは、パラを従業員のように言い聞かせているようだ。
パラは、俺以外の言葉が分かるのかな?
『分かるよ。私の言葉は通じないだろうけれど、相手が言っていることは分かるね』
メディンがパラの首元からぴょこんと頭を出した。
「メディンも食べたの?」
『うん。あの山は果物もあるね。気に入った』
俺は、よかったなと思った。
「狩った後に、高く空をとんでいたんですか?グリズリーの体がひえていますね。まさか、そこまで気づいているとはー」
『たまたまだね』
パラの声は聞こえないが、ボーガンさんとカインさんは共に誉め言葉を続けている。
『まぁ、褒められて悪い気はしないね』
少し、毛づくろいをするように羽を整えながらパラは言う。
「ベリーソースと絡めると、またおいしいんですよねー。でも、パラさん、申し訳ないのですが、ここでは大物の調理は出来ないのです」
『どこかへ、運べばいいのかい?』
「ボーガン様、素晴らしい毛皮になりそうですので、解体を頼んでもよろしいんじゃないでしょうか」
『いいよ、どこへでも運んでやるよ』
なんだかんだ会話が通じているなぁと思った。
「どこへでも運んでくれるそうです」
俺がそう伝えると、ボーガンさんとカインさんは、また口々にパラを誉めたたえるのだった。




