第二十二話 精算屋のモーニングルーティン②
午前中の案件を予定通り「即早」で片付けた二人は、事務所に戻り、遅めの昼食を摂っていた。
リコが満足げにハンバーガーを頬張っていると、不意に玄関の郵便受けがカタンと音を立てた。
「あ、郵便。リコが見てきますね」
リコが持ってきたのは、数通の請求書と、一通の白い封筒だった。
「九条さん、これ。……差出人、セーラさんからです」
九条の、コーヒーを運ぶ手が止まった。セーラ。かつて同じ場所で背中を預け合った同僚でありながら、今は影を奪い、熟成させ、力に変える闇のネットワーク『徴税人レヴィア』の犬に成り下がった女性。レテへと向かう九条の前に現れ、冷酷な言葉を交わした因縁の相手だ。
九条は封筒を受け取り、その重みを確かめるようにしてから丁寧に開封した。中には、上質な便箋が一枚だけ入っていた。
「……何か、特殊なコードでも隠されてるんですか? 『徴税人』の連中なら、文字に影の毒を仕込むくらいやりそうですけど」
リコが即座に端末を構え、影の回路(Shadow Circuit)の異常検知を走らせながら身を乗り出す。しかし、九条は静かに首を振った。
「いや。……ただの、手紙だ」
そこには、簡潔に、しかし彼女らしい鋭利な筆致でこう記されていた。
『無事に自分を取り戻せたようで、何よりです。』
嫌味も、警告も、組織からの接触を匂わせる裏の意味もない。それは、かつて同じ道を歩んだ者として、あるいは今もなお対極の立場にいる「敵」として送られた、あまりにも淡白で、純粋な安否確認だった。
「本当に……それだけなんですね。あんなにバチバチにやり合ってたのに、意外と普通っていうか」
リコが拍子抜けしたような顔で呟いた。九条は手紙を読み終えると、それを大切に、しかし無造作に見えないよう引き出しの奥へと収めた。
「ああ。僕がレテで消えれば、彼女にとっても都合が悪かったのだろう。……それだけで十分だ」
九条は立ち上がり、デスクに置かれた銀の万年筆を手に取った。セーラとの決着はまだついていない。彼女がレヴィアという闇に身を置く限り、いずれまた交わる日は来るだろう。
「リコ、午後の案件に移る。次は……街外れの古い時計塔の清算だったな」
「はい! 次もサクッと終わらせて、帰りにドーナツ買ってきましょうね、九条さん!」
九条は答えなかったが、その背中には迷いも揺らぎもなかった。二人は再び、徴税人たちが潜む都会の喧騒へと足を踏み出した。
「『犬に成り下がった』なんて酷いこと言っておきながら、手紙一通で九条さんの空気を変えちゃうセーラさん……。正直、リコとしてはちょっと複雑です! 毒も暗号もない、ただの安否確認が一番怖いんですよ。でも、九条さんの背中がシャキッとしたのは、ドーナツの糖分じゃなくてあの手紙のおかげなんでしょうね。……ま、今はそれで十分です。午後の時計塔もサクッと清算して、美味しいご褒美を勝ち取りますよ!」
―リコ―




