一件落着?
話している間に蜘蛛たちと鉢合わせした通路まで戻ってきた。
戻ってみてわかったことだが、私とジェードが向かったのは本来下水が流れていて危険なため通行止めの鉄柵が下りているはずの場所だったらしい。
「蜘蛛たちが地下の探索に邪魔だからと力任せに壊してしまったのかもしれませんね」
アンバーがいけしゃあしゃあと宣うが、作為的な物を感じるのは気のせいだろうか。気のせいではないだろう。これも絶対に院長に抗議してやる。
では本来の通路はどこかといえば、横幅はあるが高さが腰の下あたりにまでしかない不自然な形にになっていた。
確かにチュートリアルで『しゃがんで移動することも出来る』って説明で不自然に潜らされた所があったな。それがここだったらしい。
ついでにいうとここ、蜘蛛たちの身体でがっちり隠されてた気がする。うーん、わざとだな? まんまと誘導されてしまった。本当に頭のいい蜘蛛たちである。
しゃがんで通路を進み、暫くすると再び通路の高さが元に戻る。
そこで前方に薄明かりが差していることに気が付いた。
久しぶりの光に駆けよれば、その光は天井から差しているようだった。その光に続くように、壁には鉄の梯子が続いている。
「やっと出れる……」
思わず息を吐き出すと、横にいたジェードが申し訳なさそうに切り出した。
「サクラ、僕のせいで大変な目に合わせてしまってごめん」
「私が首を突っ込んだだけだから気にしないで。ジェードが無事で良かった。……問題は院長なんだけど」
院長は普段どこで何してるのかまったく不明だ。孤児院にも一週間に一度いるかいないかだし、どうやって接触すればいいのやら。
ここまで来てジェードが殺されるなんてごめんだ。
「手紙でも書いてくれれば私が渡しておきますよ」
「……本当ですか?」
アンバーが進言してくれたが、思わず疑いの目を向けてしまう。
「本当ですよ。貴女の手紙を隠すなんてしたら、それこそ後が恐ろしい」
肩を竦めるアンバー。
そこまで言うなら書いてみようか。念のため2通用意してジェードにも渡しておこう。
鉄の梯子を上る直前、アンバーが再び口を開いた。
「それにしても大蜘蛛を倒してしまうなんて、流石ですね。どうです? 『王の影』で働きませんか? あの方だって『王の影』が後ろ暗い事をしてるから貴女を誘わなかっただけで、貴女が望むなら歓迎してくれますよ」
「パワハラが横行してる職場は遠慮します」
「おや、残念」
ジェードの話を聞く限り、職場環境が最悪である。やっぱり今の職場が一番だよね、忙しいけど。
梯子を上って外に出るとすでに夜更けだった。かなり時間が経過していたらしい。
「ここは……城壁の外かな。壁の形が隠し通路から出てくる場所を見えないように作られてる」
ジェードがぐるりと周りを見回して解説してくれる。
確かに一方通行で下から呪文を唱えないと出れないし、扉があるわけでもなく魔法で蜃気楼のように揺ら出でる間の出入り。更に出た後は入るときと同じくまた地面に戻ってしまうので気づかれることはないだろう。
「二人とも明日も早いんでしょう? 帰った方がいいのでは?」
呆れたようにアンバーが諭してくる。
忘れてたけど平日真っ只中だった。社会人辛い。
「ああ、サクラさんは送ってさしあげますよ。女性の夜歩きは危ないですから」
「! 僕が送るよ。アンバーはまだ仕事でしょ」
「サクラさんより弱いジェードに任せるのは不安なんですが?」
「いや、一人で帰るんで……」
横で言い合いを始めた二人には私の言葉は届かなかった。
早く帰りたいんだけどな。汚れた服も着替えたい。借りた服だから弁償しないとダメかな。
今日一日大変な目にあったけど、もうこんなことは起こらないだろう。
起こったとしても、巻き込まれないように全力で回避させてもらう所存だ。
ジェード編はこれにて終了です。
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