お願い
「あ、サクラちゃん。悩み事は解決した?」
仕事終わりに廊下を歩いていたら、モブ君に声をかけられた。
「モブ君! 丁度探しに行こうと思ってたんだ。モブ君のお陰で無事解決出来たんだ。助かったよ」
「それなら良かった」
穏やかな笑顔を浮かべるモブ君。
癒されるわ……。昨日、蜘蛛軍団に追い回されたのが嘘みたいに感じる。
昨日は帰ってから眠い目をこすりながら院長に手紙を書いた。
ジェードの件と一緒に『一対一で話し合いましょう』って書いたので、きっとそのうち来てくれるはずだ。所在地不明な院長にはこちらからは会いに行けないので。
院長宛の手紙はアンバーとジェードに預けておいたので、どちらかが会えば渡してくれるだろう。
私が出来るのはここまでだ。悔しいけれど、後は院長の判断を待つしかない。
「サクラちゃん? 難しい顔してるけど、大丈夫?」
「あ、大丈夫大丈夫」
モブ君が心配そうに顔をのぞき込んでくる。しかしこんな事情を話すわけにはいかないし、慌てて笑顔を作る。
そのまま何となしに二人そろって歩き出す。
「新しい生活で疲れてるのかもしれないね。休みの日に散策でもしてみれば? 王都は色々な物が売ってるから、見てるだけでも楽しいよ」
「王都の外れに住んでたから、中心街のお店全然わかんなくて。広いからうっかり迷っちゃいそうだし」
「それなら俺が……」
「サクラ!」
モブ君が何か言いかけた時、背後から声が響いた。
見ればジェードが私とモブ君の間に文字通り割って入ってきたところだった。そのままモブ君を睨みつけている。
何で?
ポカンとしてる間にモブ君は私とジェードから数歩分距離を取る。口元を抑えて何とも言えない顔をしているモブ君は無視して、ジェードは私に向き直った。
「サクラ、今度の休み暇? 良かったら僕と出かけない?」
「え、なんで急に」
「今の話が偶然聞こえたから。……昨日のお礼もしたいんだ。ダメ?」
う、上目遣い。あざとい! どこでそんなの覚えてきたの!?
弟にこんな顔されたら頷かない訳にはいかない。久しぶりにジェードが私にお願いしてくれたのだ。何年ぶりだろう。ちょっと感動してしまった。
「勿論、いいよ。でもジェードの方は大丈夫?」
「大丈夫。何とかする」
ジェードがいつになく気迫に満ちた顔で宣言した。仕事とか院長の件とか心配なんだけど、ジェードが言うなら信用するしかない。
改めてモブ君に向き直る。
「ごめんね、モブ君。会話の途中だったのに。何か言いかけてたけど……」
「あ、俺の方は大した事じゃないから気にしないで。ちょっと……いや、かなり後が怖いから」
モブ君が恐れおののいたような顔でジェードを見ている。
私がジェードを見ても、特に変わった所は見られない。
「何かあったらまた相談して。またね、サクラちゃん」
モブ君はそういうと逃げるようにこの場を後にした。
残されたのは私と妙に上機嫌のジェードである。
「ちゃんとエスコートするから楽しみにしててね、サクラ」
「うん……」
結局不完全燃焼のまま、その場は解散となった。




