本気
『ウィステリアを助ける雪の妖精よ、その道を示せ』
私の唱えたセリフ。これはこの国に伝わる、子どもでも知っているお伽話が元なのだろう。
『空には虹の女神と、その子どもたちが住んでいました。
ある日、女神の子ウィスタリアが地上に降りてきて、地上も空と同じくいろんな色で満たしてあげようと力を使いました。
しかし、色を重ねたせいで世界は真っ黒になってしまいました。
嘆くウィスタリアの所に雪の妖精がやってきて、世界を雪で白く染めなおしてくれました。
でも力を使い果たしてしまった雪の妖精はそのまま溶けて消えてしまいました。
雪の妖精が溶けると世界の雪が解け、そして大地から色とりどりの花が咲きました。
反省したウィスタリアは花の繁栄を守るために地上に残りました』
そしてこの話の『ウィスタリア』が王家の祖先である、らしい。
本当かどうか知らないけど王族が神の子の子孫であるとか、元の世界でもよく使われてるしなぁ。
このお伽話もあってか、昔から『王家に危機が訪れると雪の妖精が助けてくれる』とも言われている。
まぁ私には何の助けもないんですけどね! ただの孤児は自力で頑張ります!!
そんなことは置いておいて、二人して意を決して通路に足を踏み入れる。私達が通過すると、蜃気楼のように揺らいでいた壁が元に戻る。触れても元の硬い壁だ。
「一方通行みたいだ。これなら侵入されることはないね」
ジェードはそういうと先を進み始める。
つまり出口までは必ず進まなきゃいけないって事か。
ここは序盤で通る操作説明の場所で一本道だし、戦闘のチュートリアルはこの後だから何も出てこないはずだ。
はず、なんだけど。
上からの気配を感じてとっさに前を歩くジェードを付き飛ばす。
降ってきたのは人の頭ほどもある蜘蛛だ。視力が強化されてるおかげで毒々しい体の色合いまで良く見える。嬉しくない。
「な……!?」
「走って!」
驚くジェードの手を取って引っ張り起こし、わき目も振らず下り坂を走り出す。
あれ、ゲームの中盤で出てくる雑魚敵では!?
「サクラ! あれって……」
「私たちじゃ倒せないから!」
中盤で出てくるから倒せるのであって、序盤で出ていい敵ではない。こちとらチュートリアルも終わってない初期レベルだぞ。
しかもあれは雑魚敵。つまり複数いる可能性がある。
一応まだ城の中なのにどうなってるんだ!
死亡フラグ本気出し過ぎ!!