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これからのことを一緒に考えてくれる人

24日0255時



「どうかした?」


「いえ、明るい状況で眠れないだけです」


「最初は落ち着かないよね」


「司はこれが当たり前の生活を続けてたんですよね」


「今回の作戦みたいに昼夜逆転での潜入はあまりしてない。敵の市街地に入ることもあったし。ただ、いついかなる時に敵からの攻撃がくるかわからない状況なのは変わらないね」


「土の上で寝ることもすぐに慣れますか?」


「慣れるよ。でもリラックスして寝るのには時間がかかると思う。リラックスできないと眠れても良いパフォーマンスも発揮できない。仮眠にしかならないからね。里絵はベッドの上じゃないと寝れない人?」


「どうでしょう……。あまり考えたことがありませんが、現時点で眠れないのは、そういうことなのでしょう」


「眠れない時は頭の中で、青仮面の数を数えるといいよ。青仮面が1体……青仮面が2体……って」


「夢に出てきそうですね。起きて目の前に青仮面がいたら、一瞬夢かと思ってしまいそうです」


「その一瞬で首が飛ぶね」













25日0046時



「今気づいたけど、目の色は黒なんだね」



 体、動、刀術士のような能力者で、とくに能力値の高い者は目、つまり虹彩が色づく。能力を発動した時だけ色づく人もいれば、常時色づいている人もいる。後者の方が前者よりも能力値が高い傾向がある。



「そうみたいですね、あまり気にしたことはありませんが。そういう司は薄い青色ですね」


「そう。たちあおいと同じ色で両方縁起が良さそうでお気に入り」


「……そうでしょうか?」


「……? ああ、そういうジンクスもあったね。青い目の能力者はロクな死に方をしないってやつ。まあ、あまり信じてないけど、間違ってはないかもね」


「……」


「現に、呪術をもらう前までは目は黒かったよ。だからこの目の色は怨花由来の色」


「青い目の良いジンクスは確か、死後の世界で大切な人と再開する……というものでしたっけ」


「そっちだけ信じてる」


「都合が良いですね」


「いいの。そういうのは都合の良いことだけ信じて、都合の悪いことは信じない。そこで一喜一憂することじゃない。一喜零憂イッキゼロユウしないと」


「一喜零憂……。良い言葉ですね。座右の銘にします」


「赤い目の知り合いは、そのジンクスの死ぬまで苦労するっていうのを信じなかったし、後悔せずに死ねるってジンクスの方だけを信じてたっけ…」


「なるほど」


「ちなみに能力者の黒い目もおなじようにジンクスがあるんだよ」


「!! 知らなかったです。どんなものですか」


「たしか……長生きするだったかな。それと……出世できないだったはず」


「じゃあ、一喜零憂の言葉に習い、長生きする方のみを信じます」


「そうしなさい」









26日2355時


「司、前にしてくれた話の続きを聞かせてください」


「あれ以上話すことはあまりないんだけどね」


「なぜ敵を倒すことに執着されるのですか?」


「師匠が強くなるためには手柄を立てろって教えてくれたから」


「手柄というのは青仮面を倒すことですか?」


「いまだに青を倒したという報告は少ない。出会うことが少ないってのもあるけど、やっぱりあの強さが一番の要因。手柄を立てるにはもってこいの相手って考えた。考えちゃった」


「手柄を立てて、そのあとに何をするつもりなんですか」


「何かしようとは思ってない。師匠に言われた手柄を立てるって言葉はただの目標を達成する上での過程にすぎなかった。だけど、呪術をもらって、数年で自分の命が尽きることが確定してしまった……。手柄を立てることに意味なんてなくなっちゃった。それでも私は死ぬまで手柄を立てるために走り続ける。人の生き様ってそんなもんだよ。理由なんて無くなってもそれまでしてきたことをやめられない」


「そんなもんですか」


「そう。そんなもん。答えになってますかな?」


「はい…………」


「どうしたの?」


「いえ…なんでもありません」


「そういえば里絵って夢あるの?」


「また唐突ですね」


「あ、でも前みたいに『従軍を全うすることです』って答えるのはナシね」


「…………」


「確か宿題だったはずだけどぉ?」


「申し訳ありません! まだ考えていません!」


「やっぱり……。本当はちょっとだけ……里絵の将来が心配」

「自分の将来ですか?」


「だって自分について何も考えてなさそうなんだもん。やりたいことも、好きなことも実質ないと言っていいんじゃない?」


「…………」


「そんなことだと、いざ従軍ができなくなったら、何を目標にして良いかわからなくなるよ?」


「従軍できなく……?」


「私たちは死と隣り合わせのことを日常的にこなしてるんだもん。腕の一本、足の一本がなくなったら多分、戦闘員としては復帰不可」


「戦闘員以外にも兵站などの業務が……」


「できる? そのための勉強や、業務参加はしてきた?」


「い……いえ……」


「多分、戦闘員としての訓練や勉強しかしてきてないんじゃないの?」


「そ……その通りです」


「なにもそれらが間違ってるって言ってるわけじゃないよ? ただ、知識やスキルをどう生かすかを考えないと、考えていないと、自分の道を見失っちゃうよってこと」


「…………」


「明確な死が決まってる私が言うのも説得力がないのはわかってる」


「いえ! 司は自ら考えて、恩師の元へついていくことを決断したじゃありませんか!」


「そう言ってくれると……ありがとう」


「…………」


「だから……考えないと! 必死になって頭を使って、自分に何ができるのか。自分は何がしたいのかを。知識やスキルを磨くのはそれを達せいするための手段でしかない。だから……」


「考える……」


「そう。里絵しずくにはまだ未来があるんだから……無駄にしちゃ……後悔しちゃ……ダメだよ?」


「はい……」


「え? 聞こえない」


「了解しました! 司結少尉!!」


「よろしい」

次回「一喜零憂」

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