短くて長い
「起きられたら面倒くさいし、昏睡処理しとくか」
気絶した敵兵の口を開け、錠剤を一つ飲ませる里絵。
12時間は目覚めることはない昏睡処理。敵戦闘員を安全に捕獲する方法の一つだ。
「青仮面が相手ならこんなことできないだろうなー。薬を飲ませたり、関節外したり、骨折させることなんて怖くてできないわ」
「殺さず捕獲できるのであれば大きな手柄ですが」
「わかってるけど、自分の命は惜しいよ」
敵兵は里絵によって縄でぐるぐる巻きにされ、バイクに載せられる。バイクに対して垂直に、腹を下にして後部へ載せられる敵兵。里絵は引き続き運転。司は敵兵を尻と足の間に入れた形の体育座りをする。
さっきまで戦闘していた場所には、一本の刀だけが刺さっていた。
「いいんですか。刀を回収しなくて」
「拒絶刀だったからしゃーなし。ツルでは触れられたけど、ずっとツルを出現させるのも疲れるし」
「なるほど」
「その道のプロが回収してくれるから大丈夫」
バイクが発進する。
「大雑把ですね」
「大胆と言え。……大胆とは違うか……」
22日2144時
前線基地の指揮をとる鐻奏総中佐はオペレーターから連絡を受け取る。
「今、捕虜の受け取りをして欲しいとの連絡がありました」
「急だな、だれからだ?」
「それが、極秘であるため差し出し人の情報は一切教えられないと」
珍しい返答に総は眉を潜める。だがこういう事例は全くないわけではなかった。
「了解。捕虜の受け取りを許可する」
「加えて、捕虜が使用していた拒絶刀の回収と軍用バイクの受け取り、修理の要望も出ています」
「拒絶刀に関しては本部に連絡して、その道のプロを派遣してくれ。バイクについては敵兵の捕獲時に破損したんだろう。そのことも許可する」
「了解。連絡します」
遮断結界崩壊作戦前に極秘任務でもやっているのか? そうだとしたら上は何を考えているんだ? まあ、考えたところで答えが出るわけでも、情報が開示されるわけでもない。だが、見えないところで何者かの思惑が蠢いているのは、至極気持ちが悪い。
そう考えながら、総は前方の暗闇に目を向ける。
22日2203時
「バレないかな」
「なんのことですか?」
「バイクのこと。引き取ってもらったけど、所々壊しちゃったじゃん?」
「はい」
「聞かれないとは思うけど、もし聞かれたら、戦闘中に転倒したことにしちゃえばいいか」
「インカムに記録が残ってます」
「そうだった。極秘任務だからそれごと極秘になるんじゃないかな」
「軍警にばれたら減給ものです」
「他人事だと思って!」
「現に他人事です」
そんな他愛ない会話をしながら、前線の少し手前、敵にも味方にも見つからないように 司と里絵は待機を続けていた。
そして、日が変わるのと同時に森へ入った。
ここから2人は、21時から27時の6時間のみ行動し、1日20kmのペースで北上する。行動しない時間は、赤外線を遮断するシートをかぶり、やり過ごす。睡眠と見張りしかやることがないためか、司と里絵は小さな声で色々な話をした。
23日0235時
「そういえば宿題やった?」
「刀の命名ですね、はいやりました」
「なんて名前にしたの」
「ふしあかね、と命名しました」
「ふしあかね……良い名前だね。どんな意味なの?」
「意味ですか。……教えたくありません」
「なんで」
「黙秘します」
「こちょこちょするよ」
「ダメです。こんなところで敵にバレたら笑い事じゃありません。減給じゃすみませんよ」
「その言い方だと私が減給したみたいじゃない」
「そうは言ってません」
「似たようなもんだよ」
「そういえば、たちあおいってどういう意味ですか」
「花の名前だよ」
「なるほど」
「名前はある人につけてもらったの。なんで花の名前で、なんでたちあおいなのかは聞きそびれちゃった。調べてみると、たちあおいって暖色系の色の花をつけるんだよね。青く色づくこの刀っぽくないよね」
「たしかに」
「そういえばふしあかねもあかねって名前が入ってるけど」
「そうですね。ただ、あかねは赤い根という意味で、花自体はうすい緑色です」
「刀はあんなに赤いのにね」
「そうです」
「で、なんでふしあかねって名前にしたの」
「またですか」
「いいじゃん。たちあおいと何か関係あるの?」
「……」
「黙るなああああ」
「やめてください……ふふ……あははははは……」
「21時になったし、そろそろ歩きだしますか」
司はシートをのけるとゆっくり立ち上がった。
「はぁ……ふぅ……また急ですね」
「息荒いよ」
「誰かがくすぐるからですが」
「話戻るけど、たちあおいって拒絶刀なんだよ」
「話を逸らさないでください」
「ほれ」
司が鞘に収まったたちあおいを里絵に近づけ、里絵が手をかざす。
「……本当ですね。触れられない。触れることを刀が拒否しているようで、不思議な感覚です」
「体術士の《排他》に通ずるところがあるね。実際、この刀に触れられるのは私だけ。他の人が触れられたところは見たことがない」
「拒絶刀はそういうものだと聞いています。まして、自分で打った刀なら」
「うん……」
次回「これからのことを一緒に考えてくれる人」




