人の運び方
青を怨花のツルで引っ張り上げ、天井に激突させる。その次はそのまま二階の床、その次は壁といたる所に青を、まるでけん玉を振り回すようにぶつけていった。
二階の天井が崩れ、横の壁が崩壊し青も司も屋外へ出る。戦闘が建物内から室外になった瞬間から、さらに攻撃が酷くなる。青を攻撃してるというより、基地の建物や地面を青を使って壊しているように見える。
これだけ攻撃してもまだ青の《排他》は解除されなかった。
「これでどうだ」
青を20mくらいの高さまで持ち上げる。そのままツルで思い切り地面に衝突させた。鈍く、低い音とともに地面のコンクリートは浮き、その下から土埃が舞い上がる。
さらにその一瞬、司たちたちの後方から二つの影が青に高速で接近し攻撃、そして勢いを殺すことなく離脱した。
辺りが急に明るくなる。基地の照明は青がいる場所をライトアップしだすが、砂埃で姿ははっきりしない。
「縱仙基地防衛能力戦闘員二名、ただいま現着しました」
「遅れたお詫びに二撃」
その影は、軍服に身を包み私たちと同じく刀を持った男女の兵士だった。遅い援軍だが、あっちはあっちで戦闘してたのだろう。軍服は埃と傷をともなっていた。
里絵と司はいつのまにか隣にいた。二人と二人で青を挟む形となる。
「さあどうする化け物」
そう司の口から漏れる。ツルで青を捕らえているアドバンテージもある。ダメージも与えられた。司は青仮面を倒せる自信があった。
そう思ったが、青は再び排他領域を一瞬で膨張させた。四人は爆風と砂埃で気圧される。先の爆発の数倍威力は大きかった。
司はツルを離さんとしたが、この爆発のスキを突かれて、青の持つ刀で切断されてしまった。そして青が《加速》し、逃げるのが一瞬目に入った。
「どこ行く!」
司が青仮面を追おうと前のめりになる。
しかし、追撃の一歩を里絵は止めた。里絵は司の方を向き、右手で進路をふさいだ。二人の目が合う……。一人は睨み、一人はじっと見返す。
「また止めるか」
「止めます」
「なぜ止める」
「青の追撃は目的ではありません。本部に連絡して命令を待ちましょう」
司は思う。青をここまで追いつめたのに……。仕留められたら手柄を立てるチャンスだった。ここまで基地を破壊されたのも気にくわない。
「だけど……へっくしっ!」
くしゃみが司の言いたいことを遮る。
里絵は改めて司の格好を見る。赤く濡れたバスタオル一枚のみを胸元に巻いた格好は、いくら夏に近いこの時期でも、鳥肌の立つ格好だった。司自身もそれに気づく。
「戻りましょう」
里絵は戦闘服を脱ぎ、司に羽織らせる。司は少しの暖かさを感じる。
「…………」
司の体の力が抜けていく。青の追撃を諦めたように見えた。
里絵は司が裸足であることも気づいた。コンクリートやガラスの破片を踏みつけ、出血がひどい。司も足裏に多少の痛みを感じる。
「お手伝いします」
里絵は突如司を抱き上げ、いわゆるお嬢様抱っこの形となる。
「ちょっと! おろしなさい!」
「ダメです」
司の顔がみるみる赤くなる。
「足のことならいいの! 二十分もすれば治るから!」
「二十分経つまではダメじゃないですか」
「命令だ、下しなさい」
「ダメです」
里絵は断固として運ぶつもりだ……。このやり取りも司は恥ずかしく思い、早く部屋に戻りたくなった。
「せめて、肩に担いで……」
「了解」
里絵は司の腹を右肩に担ぐ。司の頭が里絵の背中側、司の足が里絵の前側になり、里絵は右手で司の太ももを押さえて移動し始めた。
司からは里絵の背中しか視界に入らない。歩くたびに体が上下して、司は少し苦しさを感じた。
(これでいいや……)
司は考えるのをやめた。
縦仙基地での事件は終結。
一方、記憶を取り戻していく里絵は、縦仙基地に到着していた。
次回「バイクチェイス」




