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孤独な戦い


 里絵は刀を洗い流し、さっと拭き取り、鞘にしまう。


 さらにストラップを右手に巻き、居合の姿勢をとる。照明を消してゆっくり扉に近づく。扉のすぐ近くに気配はなかった。

 音を立てずドアノブを回し、1cmほど開く。里絵は片目でのぞくが、見てる方向に音の原因がわかる物はなかった。

 里絵はそっと体が出られるくらいドアを開け、一歩ほど研磨室を出る。反対側の廊下を覗く。


 音の原因が判明した。20m向こう側、施設廊下の天井に穴が開いていた。ぽっかりと直径2mくらいの穴から暗闇が覗いていた。



 侵入者。コンクリートの塊やガラスの破片などは建物内に散らばっているから間違いないが、当の侵入者の姿は見えなかった。


 しかし、外から銃声が聞こえてくる。里絵はそっと窓に近づき兵舎棟の方向を見る。

 いる…。建物の上にミリタリーローブを着た影。あっち側の戦闘員。顔面には…何も描かれていない赤色の仮面。


 「赤」は今、友軍と戦闘している。赤相手なら単体で当たるのはリスクが高い。里絵は極秘任務前だから、極力姿をさらしてはいけない状態になっている。しかし、そんなことも言ってられないと里絵は感じた。

 友軍を支援しに行こうとした瞬間、遠く後ろに気配を感じ、すかさず振り向く。だが、そこに何もなかった。



 里絵は一つ疑問に思った。

 それは赤が外にいるのに建物に穴があること。


 赤以外の何者かが侵入した可能性が高い。里絵はそう判断すると赤の方向を見ながら後退する。いつの間にか赤に対して二人の能力戦闘員が当たっているのを確認した。


 5mほど後退した後、背を向け注意しながら走り出す。元の部屋まで急ぐ。

 里絵がしばらく走っても、何の異常も見当たらなかった。侵入者はこっちの方向に来ていないのだろうか。



 元の部屋まであと少しというところの廊下の曲がり角で、里絵は緊急ブザーを見つける。

 それに近づき、真っ赤なボタンを押そうとしたーー





 その瞬間、ブザーは壁ごと破壊され、残骸が里絵の方向に飛んできた。




 とっさ《排他》で里絵は自身の身を守るが、残骸の中から現れた刀が排他領域を浸食し、刃が右腕をかすめる。


 すかさず《加速》し5mほど距離をとり、抜刀する。埃で敵の姿がぼやける。


 廊下の曲がり角ごと攻撃された。無茶苦茶な攻撃方法に唖然とする里絵。


 埃煙が晴れていく。敵はミリタリーローブを着用しているのがわかった。しかし……。

 里絵は言葉が出なかった。敵の顔面にある仮面の色が青色だったからだ。青仮面はこちらを向き、動かない。


 

 里絵は青と遭遇するのは初めてだ。


 軍学校の教官や上官は口をそろえて

「青を発見した場合、逃げることだけ考えろ」

と言う。


 理由は、敵の一般戦闘員や赤仮面戦闘員に比べて圧倒的に数が少ないのにもかかわらず、味方の兵士は半分以上青仮面戦闘員に殺害されているため。その絶対的な強さと、他の戦闘員が持たない残虐性を持つためだ。その強さの理由の一つに青仮面は身術、動術、刀術全てを使えるからだった。


 赤仮面も同様に、三つの術を有する戦闘員である。しかし、赤仮面には青仮面の残虐性はなく、能力自体の強さ以上に、能力を使いこなせてなく、青仮面よりはまだ戦える敵兵であった。



 ここは逃げることだけ考えるのが賢明だが、この先に司が仮眠をとっている可能性があることを考えると里絵は逃げることを考えられなかった。


 基地が強襲されている状況で逃げるわけにもいかない。非能力者だって多く勤務している。ブザーも壊された。味方は赤に陽動されている。青の目的も判明していない。



 里絵に選択の余地はなかった。


 隙が感じられないこの敵をどう攻撃するか……。そう里絵が思案していると、青は里絵に背を向け廊下を進み始めた。




 青の目的は里絵ではない。


 里絵は刀を青に向け、思いっきり《加速》し突き刺す。案の定、《排他》で防がれ青に刃は届かない。ここでさらに《侵食》を発動し、青の《排他》をこじ開ける。しかし、青の排他領域はほぼ浸食されなかった。



 青の《排他》の強固さに里絵は眼を見張った。


 青はゆっくり振り返り、向けられた里絵の刀を左手で掴み、引く。里絵は抵抗し、足元の排他領域が床をへこませる。刀を引く力も尋常じゃない。この力で引いても刃で傷を負わない手にまとう青の排他領域も同じく尋常じゃない。


 青は左手で刀身を握ったまま、右足で里絵の左側面を蹴る。里絵は《排他》で蹴りを防ぐが、その勢いに隣の壁ごと吹き飛ばされた。


 追撃はない。が、里絵は刀を放してしまった。ストラップをしていたが、勢いで手からすり抜けてしまったため、手首を若干痛めた。


 焦りを感じ、すぐ廊下へ戻ると、刀は廊下に落ちていた。青はさっきと同じように背を向け廊下を進んでいる。

 

 《排他》が強力な相手に対しては、消耗を目的とする複数回の突撃しか手段はない。



 里絵は刀を握り、《加速》し、もう一度突撃する。しかし、青の排他領域の力は先ほどと変わらず、刀は青の体の20cm手前で停止してしまう。


 里絵はここでまた《侵食》を発動し、排他領域をえぐるが、刀身は前に進まなかった。



「くっ……消耗もない……」



 言うと同時に里絵は後ろに吹き飛び、壁にめり込む。 

 また蹴られたことに里絵は気づく。


 もう一度立ち上がる里絵。同じように刀を構え、《加速》する。


 青の排他領域と刀が衝突する。


 さらに里絵は右手で刺突を続けながら、腰にある銃を左手で握る。青の排他領域にゼロ距離でマガジンに入っている銃弾30発を全て撃ち込んだ。



 その時、青の《排他》が少しだけ揺らいだのを感じた。



 その瞬間、青の足が里絵の両手を刀ごと蹴り上げる。里絵の体がのけ反った。里絵はその勢いを利用して刀を持ちながらバク転して距離をとる。

 蹴られたときに銃は吹き飛んでしまった。


 青がゆっくりこちらを向き抜刀する。


 青仮面相手に対しては後手にまわれない。すかさず《加速》して青の小手を狙う里絵。がしかし、青の刀に防がれつばぜり合いの形になる。お互い刀を介して押し合う。


 里絵は青の刀を右にいなして、右手首に切り込むが、《排他》に防がれる。


 青は刀を横に振り、攻撃するが、里絵は屈んでかわす。屈んだところに青の蹴りが来るが、《排他》で受け止め、同時に後方へ加速して難を逃れる。すぐに刀を構え直す。


 息が上がり、里絵は疲弊していた。里絵はここまで能力差のある敵と戦闘しことはなかった。そのせいで能力の源である精神力がごっそり削り取られている。


 青が里絵の方へ歩み寄る。里絵は体を動かさず、青をじっと見つめたまま大きく深呼吸する。



 (もう一度…もう一度当たろう。騒ぎが大きくなれば、非能力者が避難する時間も稼げる。援軍も来るかもしれない)



 里絵が《加速》しようとした瞬間、青が先に《加速》し、突進してきた。青の斬撃を刀で受け止めるが、勢いを止められず、背後の壁に激突し、青と壁に挟まれる形になる。


 里絵は身動きができない。両腕も両足も必死に青の猛攻を押さえている。距離も取れない。



 唇を噛み締める里絵。絶体絶命だった、その瞬間ーー




 青の背後に怨花のツルが里絵の目に入った。ツルは青を囲むように広がり一気に攻撃した。

 司の支援だった。里絵は安堵した。


 ツルの奇襲は青の強力な《排他》でやはり防がれた。青は背後からの攻撃に気づく。さらに里絵を蹴ることで横に追いやる。


 里絵は廊下を10mほど吹き飛ばされる。青は追ってこないで、司の方へ歩いていくのを里絵は視界にとらえた。



(はやく戻らないと…)



 里絵はそう思うが、体が動かず立ち上がれない。立ち上がろうと込めた力が脱力する。


 

 そして里絵は自分が気絶するのを感じた。






司の合流で戦況は変わるのか? 青仮面を倒すことはできるのか?


次回 22話「無言のコンビネーション」

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