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剣も魔法もない異世界でギャルと帝都を歩く  作者: 如何那


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第1話:白い部屋でギャルと死んでいた

連載開始しました。

よろしくお願いします。

「なにそれ、ウケる」


「えー、バカじゃん」


 夜の繁華街も、終電が終わる頃になると空気が変わる。


 大学生の青砥タクミは、バイト帰りに家路を急いでいた。


 信号が青になる。

 横断歩道へ足を踏み出す。


 反対側から歩いてきたのは、派手なギャル二人組だった。


 甘い香水と汗の匂いがすれ違う。


 その直後――


 世界が、白く弾けた。



 ■深夜の繁華街で暴走車、歩行者3人死亡

  酒気帯び状態の車が横断歩道へ突っ込み、

  大学生一名と女性二名が死亡――



 目を開けると、

 そこは真っ白な世界だった。


 そして。



「マジありえねんだけど」

 どこかで聞いた声。


 横断歩道ですれ違ったギャルが二人、

 そこにいた。


「あー……マジイライラするわ」


 金髪ピンクが、小さなカバンから紙巻きタバコを取り出した。

 気を紛らわせたいのだろうか。


 特に禁煙の張り紙もないようだし、そもそも咎める存在がいるのかどうかもわからない。


「ひっっっ! マジ?! 何これ……こわっ!」


 タバコを取り出した金髪ピンクが、突然悲鳴をあげた。


「うっせーよハルミ、何? こっちまでビビるじゃん」


 床に寝そべっていた背の高い銀髪のギャルが気だるそうに起き上がり、ハルミの元に向かった。


 横断歩道ですれ違った時も少し思ったが、このギャル、モデルみたいに背が高い。


「見てよジュリ……コレ」

 ハルミが、震える手でジュリと呼ばれた銀髪にタバコの箱を手渡した。


「げっ……何コレ……血だらけじゃん! 引くんだけど」


 銀髪ギャルも、さすがに嫌そうな顔をして身を引いた。


 横目で見ると、二人が手にしているタバコの箱が赤黒く汚れているのが見えた。


 血……なんだろうなぁ……


「あっ、でも中は大丈夫みたい」


 ハルミがコロッと態度を変え、嬉しそうな声をあげる。


「ラッキー。ジュリアにも一本ちょうだい」


 血に塗れた箱のことは一瞬で棚に上げ、とりま一服することを優先したらしい二人が、顔を寄せながらライターでタバコに火を灯した。


「ふー…………生き返るわー」


 ハルミが独り言を紫煙と一緒に吐き出した。


「だね」

 人差し指の付け根でタバコを挟み、顔の下半分を手で覆うようにして吸っていたジュリアが応える。


「まぁ……細かいことはなんも分かんないけど」


 ジュリアが大きく伸びをして、それから──

 ようやく俺の存在に気づいたかのように、視線を落としてきた。



「あんた、ダレ?」



 紫煙の向こうから、ジュリアの冷ややかな視線がオレを射抜く。


「え?! あ……オレっすか?」


 急に美人のギャルに声を掛けられて、口をパクパクしていると、ジュリアの奥から、ハルミが顔を出した。


「あぁ、ホントだ、いたね。普段何してる人?」


「あ、大学生してます」

 オレが言うと、


「ふーん、そっか、頭いいんだね」

 ハルミが屈託のない笑顔を向けた。


「へー、そうなんだ。で、名前は?」


 ジュリアの気だるげなしゃべりに、少し気圧されながら、

「タクミって言います。青砥タクミです。ども……よろしくです」

 精一杯の笑顔を浮かべて、オレは名乗った。

 少しでも好印象で迎えられようとしたのかもしれない。


「よろしくね、ジュリアは、ジュリア。黒崎ジュリア。新片町のガールズバーで働いてるよ」

 そう言ってジュリアはようやくわずかに笑顔を向けてくれた。


「ウチはね〜、ハルミ。赤石ハルミ。ジュリと同じガルバで働いてる。えっと、タクミだっけ? 何歳?」


「えっ……21歳っすけど……今年22で」


「マジ?! えーっ年上かよ〜、ウケる」

 ハルミがケラケラ笑った。


「ねぇジュリ、この子年上だって。なんか若いよね」


「そうね、童貞だからじゃない? なんかそんな感じ」

 ジュリアの冷たい視線が頭上から降り注ぐ。


「え……あ……その……」

 オレが口ごもると、


「なんかその感じわかるかも〜」

 と、ハルミもジト目を向けてきた。


 この二人が、キモがっているのか、バカにしているのか、それとも興味があるのか……それは残念ながら童貞で経験のないオレには計りかねる代物だった。


 その時だ。


 白い空間に突如ドアが出現し、中から背の低い女の子が出てきた。

 黒いゴスロリ? みたいな服をきた黒髪の美少女だった。

 

 少女は辺りを見渡して、開口一番こう言った。


「ごほっ……なんですかココ。煙たいですね」


 そう、言うや否や、取り出した指示棒のようなものを、ひょいと振り回す。


 ボムっという音がして、頭上に換気扇が登場する。


 ブウウゥゥゥゥゥゥン、という羽根の回る音がしてギャルの吐いた煙が吸い取られてゆく。


「えっと、みなさんおそろいですね」


 天使か悪魔かわからないゴスロリ少女が、淡々と感情を交えないセリフを続けてゆく。


「えっと、赤石ハルミさん、享年20歳。黒崎ジュリアさん、享年20歳……」


「ちょちょちょ……えっと、ちょっと待って」

 ハルミが声を上げた。


 無理もない。


 急に現れた黒ずくめの見知らぬ少女に、いきなりフルネームを呼ばれただけでなく、年齢を享年と伝えられたのだから。


「ちょっと待ってよ、ねぇ……【キョウネン】って何?」

 

 オレは思わずハルミを見た。

 いや、享年って死んだ歳だろ。

 心の中で叫んで、ふと我に帰る。


「あっ……えっ? オレ、死んだんですか?」


「はい」

 少女は手元の書類から視線を外すことなく、淡々とした口調でつぶやくように言った。


「交通事故ですね」


 眉尻の一つも動かさない。

 これでは「宣告」ではなく単なる「処理」だ。


「は?」

 問い返す。


「本来の対象者は、横断歩道脇でスマートフォンを操作していた二十代女性でした」


「その女性は……」

「ご無事です」

「…………?!」


 少女は書類を1枚めくる。

「神様が横断歩道を渡っていた二十代女性のお二人と取り違えました」

 ちらりとその間違われたギャル二人に目をやる。


「なお、あなたは巻き添えです」


 間違えた上に、巻き添えも作っただと?

 頭がクラクラする。


「運が悪かったですね」


 運が悪かった……だけ?!

「ついで?! 運が悪かった? こちとら、死んでんだよ!  

 わかる?」

 思わず少女に詰め寄るオレ。


 それをハルミが制した。


「やめなよ、小さい子かわいそうじゃん。この子のせいじゃないみたいだし〜」


 ハルミがオレの方を軽く睨んだ。

 いや、オレが悪いみたいになってる?


「だ……だったら、その神様とやらが、謝りに来るべきじゃないですか?」

 ハルミに睨まれた手前、若干の敬語を取り戻し、少女に再び尋ねた。


「それはですね。別の重大インシデントの対応で、神様ご本人にはそっちに謝りに行ってらっしゃいます」


 別のインシデントって何?!

 あ、いや……聞くの怖い。

 そういうのしょっちゅうあるんですか?! ねぇ。

 などとオレが言えるはずもなく、モヤモヤしている間に、少女が顔を上げて言った。


「……というわけで、あなたたちはとてもかわいそうなので、別の世界で暮らしていただいて良いと、神様からハンコをもらって来ています」


 少女の手には、オレたちの名前が書かれた書類があって、【神様承認しました】というハンコが押されていた。


「生き返らせてくれるの? ラッキー」

 ジュリアが手を叩いた。


「はい……お詫びみたいなもんです。なので転生していただく際に何かお好きなものを差し上げることになりました」

 そう言って少女は書類を1枚めくった。


「では、赤石ハルミ様、なんなりとお申し付けください」

 ハルミの足元に魔法陣が現れる。



「えー……何か欲しいものか……」


「あっ!」


「タバコちょうだい」

お読みいただきありがとうございました。


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