第42話 安全保障
本郷の妻は双海に答える。
「だからです。
向こうの世界は鉄資源が少ないんです。その他の金属もです。簡単に採掘できそうな金属はみんな金に変わってしまったので、錬銀術師がいる世界なんです。
そんな中で、こちらの世界で買った武器だけで、戦争できるわけないじゃないですか」
「……なんという」
さすがの菊池が絶句した。人類史には例がない事態である。これにより、同時に正規の形での貿易もできないことまでわかってしまった。2つの世界で、最高の価値と最低の価値が同じものだとしたら、取引きなど成立し続けられるわけがないではないか。
だが、これは朗報でもあった。
鳴滝と本郷のいる世界が、蒼貂熊を送り込んできた異世界とは別のものであると確定したからだ。向こうから見たこちらの世界は、工業製品や農業資材の供給元である。破壊してはならない場所なのだ。
そして、工業生産品を得るために、金を売りすぎると金の価値がなくなるというジレンマの中にいる。やれるならやりたいのは経済侵略だろうが、それもままならないということだ。
「ただですね、魔法で戦うなら資源は要らないのでは?」
そう横から口を出してしまったのはヨシフミだ。
双海と菊池は表情を変えることなく、ヨシフミの発言を許容した。質問者が誰かではない。質問された者が真実を語っているかどうかが大切なのである。同席させた以上、想定内だ。
「魔素を扱うテクノロジーはものすごいものがありますが、世界間を越えて運ぶことができないんだそうです。特定の服というか布地に包めば運べるらしいですが、その服自体がロストテクノロジーになってしまっていて、何着もない、と」
「鳴滝さんと本郷さんでも、その複製はできなかったんですね?」
「はい」
内心で安堵したのは、ヨシフミだけではなかっただろう。
再び菊池が問う。
「なるほど。その鳴滝と本郷がいる異世界への通路は、どうなっているのですか?
我々が調べた範囲では、倉庫を借りてますね。でも、そこに東北地方にあるような開口部はなかった」
その問いに、本郷の妻は素直に答えた。
「向こうの世界には、円形施設というものがあります。そこで魔素の流れを制御しているのです。そこから、召喚と派遣という形でこちらの世界に物資や人を移動させることができるのです。東北地方にあるような、常時開いている口はありません。また、向こうからは召喚と派遣ができますが、こちらからはできません。こちらには魔素がないからです」
本郷の妻の言葉に矛盾点はない。すべて納得ができる返答である。
話の論理だけではない。双海は、その飛び抜けた嗅覚で、本郷の妻の体調の変化をモニターしている。嘘をついたときの微細の変化を逃しはしない。
だから、質問は菊池に任せ、聞き役に回ったのだ。
そして、その嗅覚をもっても嘘は感じ取られていない。
「あなたや、あなたの息子さんは、その世界に行ったことがあるのですか?」
「はい。数日ですが、滞在しました。ですから、向こうがいい世界だったというのは実感です」
「それを鳴滝氏が作りあげた、と」
「はい」
古くから菊池を知る者が見たら、その目が笑っていることに気がついただろう。おどおどしているからオッドマン、その鳴滝が成し遂げたことに対して、自然と称賛の思いが浮かんで生じた笑みなのだ。
第43話 持ち回り決裁
に続きます。
挿絵は花月夜れん@kagetuya_ren さまにいただきました。
感謝です!!!!




