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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり
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第31話 ヒトの集団の優位性


 瑠奈は、心の中で白旗を揚げた。

 人間は組織を作る。そして、組織の仕事とはこういうものだ。瑠奈の正体を突き止めるのに、2日と掛からなかっただろう。完全に丸裸にされてしまっている。同じことを瑠奈が個人としてやろうと思っても、まったくできる気がしない。できたとしても、年単位の時間が必要だ。

 いきなり見知らぬ赤の他人が訪ねてきて、「あなたの中学の時の卒業アルバム見せて」と頼んできたとしたら、警戒しない人間などいないのだから。

 瑠奈からすれば、考えれば考えるほど、ヒトというのは集団を作らせたら怖い生き物だ。


 そして……。

 たとえ今からこの2人を瑠奈とヨシフミで殺したとしても、もうこの男たちの組織には情報が共有されているに違いない。もう、この男たちとは融和策を採るしかない。なんとしても、この交渉での決裂は避けなければならない。

 瑠奈がジェヴォーダンの獣としていかに強くても、遠距離からの大口径ライフルでの狙撃には耐えられない。ヨシフミも同じことだ。いくらヴァンパイアだとしても、傷つけられた身体の治癒には一定の時間がかかる。同じく遠距離からの大口径ライフルでの狙撃を連続して受けたら、さらにその時間は延びることになる。その隙に、心臓に杭を打ち込まれたら終わりだ。

 人間が作る組織とは、そう言ったことまでを可能にする。


 瑠奈は頭を軽く振って、そんな怯えを伴った考えを打ち消した。今までの秘密主義に瑠奈の心は縛られていて、なにかと「最悪」を想定してしまう。

 こういう癖は、すぐに切り替えられるものでないのは仕方がない。

 だが、蒼貂熊(アオクズリ)の問題がある以上、この男たちの組織と協力するのが一番いいのは自明のことだ。でないと、蒼貂熊が日本から出たときに取り返しがつかなくなる。

 それに、この男たちが裏切るとは考えにくいことだ。永遠に裏切らないとは思わないが、すぐに裏切ることも、また、ない。


「では、お話します。

 私たちの知識、生気(プネウマ)について」

 瑠奈はついに口を開いた。

「ありがとうございます」

 双海と菊池は揃って頭を下げる。瑠奈の目から見ても、その言葉に他意はなさそうだった。


 瑠奈は話しだした。

 C.R.C.のこと。人ならざる自分とヨシフミのこと。生気(プネウマ)について。そしてその、生気(プネウマ)を扱う秘儀について。最後に、今まで瑠奈とヨシフミが関わった戦いについて。もちろん、蒼貂熊との戦いについても話した。

 瑠奈が自分の記憶の中から順番に話し、まだ20代前半のヨシフミに口を出して付け加えられるようなことはなかった。


 すべてを話すのに、3時間ほどもかかっただろうか。

 瑠奈が話し終えて口を閉じたとき、双海と菊池の顔は今までになく深刻なものとなっていた。


「……ヤバいな」

 双海がつぶやき、菊池が頷く。

「どういうことですか?」

 ヨシフミが質問したのは、単に瑠奈が話し疲れていて質問のタイミングを逸したからにすぎない。


「蒼貂熊がこちらに来ている目的だ」

「えっ、どういうことですか?」

 ヨシフミが同じ言葉を繰り返す。


「我々には、生気(プネウマ)という概念がなかった。だから、蒼貂熊を送り込んできた相手の目的を考えるとき、この仮説を立てることはできなかった。我々も最悪をそれなりに想定していたが、どうやら最悪のレベルが違うようだ。考えが甘かったらしい……」

「もしかして……」

 ヨシフミは、双海と菊池の脳裏に浮かんだ考えに思い至り、自分の想像したことのおぞましさに口を閉じた。

 ヴァンパイアのアイディンティティを持つに至っているヨシフミにしても、耐えられない地獄絵図だったのだ。

第32話 生気プネウマから見た蒼貂熊の生態

に続きます。

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