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【10/7コミックス①巻発売!】婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない【書籍化・コミカライズ】  作者: 西根羽南
恋人編

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笑顔が直撃しました

 ゆっくりと顔を上げると、そこにはエリアスの笑顔があった。

 かなり眩しいので少し笑みを控えてほしいと思うが、言えない。

 恐らく、言うと更に事態が悪化する気がする。


「……あ、あの」

「うん?」

 首を傾げるのも麗しいので控えて欲しいが、言えない。


「今更ですけれど……私の、何がいいのでしょうか」

 かなり恥ずかしい質問ではあるが、意を決して問いかけてみる。

 すると、エリアスは不思議そうな顔でノーラを見つめた。


「すべてだよ」

「――ええ?」

 まさかの即答に思わず心の声が大きく漏れてしまい、自分でも眉間に皺が寄るのがわかった。

 そんなノーラを見て、エリアスは更に微笑む。


「でも、それじゃあノーラには伝わらないか。……そうだな。一番は、一緒にいて幸せだからだね」

「幸せ……」

 曖昧なようで、結構凄いことを言われているような気がする。



「初めてノーラの歌を聴いた時も、そうだったよ。心が温かくなる歌だ」

 そう言えば、小さい頃に迷子になったエリアスは、ノーラの歌を聴いたと言っていた。

「ノーラは覚えていないだろう?」


「え、ええと。貴族の男の子の迷子がいたというのは、何となく憶えていますが」

 さすがにその子の特徴などは憶えていないし、大きくなってから気付くのは無理だろう。

 そう考えると、エリアスの記憶力は相当なものだ。


「いいよ。それだけノーラにとって、迷子の世話も歌うのも日常だったということだろう。その温かさが好きなんだ」

「あ、ありがとうございます」


「それから、まっすぐで歪んでいないところも安心する。そういうのばかり見ていると、やっぱり疲れるからね。……ノーラといると、癒されるんだよ」

 ノーラの方はエリアスの笑みで落ち着かないが……これは別に嫌なものではない。

 ただ、心がいたたまれないというか、耐えられないというだけで。


「それに、ノーラの髪と瞳の色も好きだよ。深い夜の色。だけど、温かい色だ」

「……なるほど。リラックス用のぬいぐるみのようなものですね?」

 腑に落ちてうなずくノーラとは対照的に、エリアスは少し困ったように笑っている。


「ちょっと違うかな」

 そう言うなり花束を持っていない腕を伸ばしてノーラを抱き寄せ、額をこつんと合わせた。

「ぬいぐるみに、こんなことはしないよ」


「た、確かにエリアス様がぬいぐるみにこんなことしていたら、周囲がざわめきますね!」

 ドキドキしながらどうにか距離を取ろうと胸を押すと、頭上でエリアスが笑うのがわかった。


「照れるところも、可愛い」

 そう言うが早いか、ノーラの頬に唇を落とす。

 抗議しようと顔を上げるが、至近距離の眩い笑みに敗北し、慌てて顔を背けた。



「ノーラは俺の顔が好きなんだっけ?」

「顔はいいと思いますけれど。別に、それだけでは……」

 エリアスの顔はいい。

 だが、それだけならただの遠距離観賞用であって、一緒にいたいとは思わない。

 そう言おうとして、これはこれでなかなか恥ずかしい気がしてきた。


「うん、そうだね。俺の顔は変わっていないのに、始めは冷たかったからなあ」

「あ、あれは」

「――わかっているよ。それに、ちょっと嬉しい」


 冷たいのが嬉しいとは何だろう。

 もしかして、エリアスは被虐趣味があるのだろうか。

 心配になって再び顔を上げると、空色の瞳と目が合った。


「俺の身分や顔だけが好きなわけじゃないってことだろう? それが、嬉しい」

 ――笑顔、直撃。

 がっくりと頭を垂れたノーラは、ため息をこぼす。


「……エリアス様は、自分の顔の破壊力を自覚した方がいいと思います」

「そう?」

「はい」

 着飾った貴婦人でさえも霞む美貌なのだから、もう少し色々控えめにしてもらわないと困ってしまう。



「なら、ノーラも自分の魅力を自覚した方がいい」

「私ですか?」

 あまりにも突拍子もない言葉に、ノーラは顔を上げる。


「魅力なんて、ありませんよ? 容姿ならエリアス様の爪の切れ端よりも下でしょうし、身分もギリギリ貴族で、金銭的には平民の商人以下です」

 自分で言っていて少し情けないが、まぎれもない事実なので淀みなく答える。

 だが、エリアスはゆっくりと首を振った。


「そういうことじゃないよ」

「では、歌でしょうか」

 真剣に答えているのに、何故かエリアスはため息を返してきた。


「ノーラの歌声は素晴らしいけれど、それだけじゃないよ。それに、ノーラは謙遜しているけれど、十分可愛いよ」

「謙遜ではなく、客観視です」


 聞き捨てならない台詞に、すかさず反論する。

 自分で言うのも何だが、ノーラは特別に不細工というわけではないと思う。

 だが、アンドレアのような上品さも、マルティナのような華やかさも、レベッカのような色香も、ヴィオラのような迫力も、ソフィアのような可愛らしさもない。


 こうしてみると、ここ最近出会う女性は美女だらけだ。

 何が恐ろしいって、この美女軍団にさえエリアスは普通に勝てそうな美貌だということだ。

 お化粧をして着飾っている女性に失礼なので、誠心誠意謝ってほしいくらいである。


 ……本当に、エリアスは何故ノーラなんかと恋人なのだろうか。

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