転生
暗いダンジョンの奥深く。それはあった。
年月を経て黒ずんだ重厚な木枠に、錆びついた鉄の装飾。
どこからどう見ても、『古い宝箱』だ。
中でじっと息を潜め、近づいてきたネズミや虫を食らって生きる。
毎日、ただ待ち続ける。
ネズミが来る。
食べる。
また待つ。
そんな単調で無機質な日々を、何年、何十年と繰り返していた。
――その日までは。
『レベルが上がりました。』
・獲得スキル:『悪食』
・レベルアップ:Lv.0 ➔ Lv.1
『筋力 2 → 3』
『魔力 0 → 1』
『知力 0 → 1』
……ん?
レベルが上がった?
その瞬間、頭の中に霧が晴れるような感覚が走った。
何だ、この感覚。
やけに頭が冴えている。
知力が上がったからか……?
考え始めると、次々と知らない記憶が浮かんでくる。
会社。
一人暮らし。
毎朝満員電車に揺られて――。
……あれ?
俺、会社員だった……?
名前は……。
駄目だ。
思い出せない。
断片的な記憶しか残っていない。
「……まあ、いいか。」
思い出せないものを考えていても仕方がない。
それより、今の自分だ。
生まれ変わったのか?
転生……というやつか?
それに、この身体。
どう見ても箱だ。
俺は宝箱の化け物になってしまったらしい。
分からないことだらけだ。
だが、一つだけ確かなことがある。
さっきまでの俺は、こんな風に考えることすらできなかった。
知力が上がったから思考できるようになった。
ということは――。
もっとレベルを上げれば、もっと賢くなれる。
前世のことも思い出せるかもしれない。
今はそれを信じるしかない。
目的は決まった。
レベルアップだ。
だが、このままネズミを待っているだけじゃ駄目だ。
次のレベルまで何年かかるか分からない。
まずは、この身体が動くのか試してみよう。
手を動かそうとして――気付く。
手がない。
足もない。
「そりゃそうか。箱だし。」
仕方なく身体を左右に揺らしてみる。
ゴトッ。
少し動いた。
「おっ。」
もう一度。
ゴト……ゴトッ。
進める。
ゆっくりだが、ちゃんと動ける。
それなら、このダンジョンを探索してみよう。
ネズミを待つだけの毎日は、今日で終わりだ。
「よし。」
「ここから、俺の冒険を始めよう。」




