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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
88/129

5-12:変わっていないだなんて

 パッと見ではそう感じたって。




 



 そうかも?

 いや、違う?

 俺の思考は、身体は、どうだ?


「・・・・・」


 ああ、そのはずだ。

 かの戦いを経て、俺はもう、心身ともに疲れていた。

 否、疲れていたはず。

 もう、戦う気なんて起きないくらいには。


「・・・っはは」


 なのに、何故。

 こうして、笑いが溢れる?

 どうして、俺の身体はこんなにも昂っている?


「ティア、下がれ」


 凄まじく簡単で、理解しやすいこと。

 俺は瞬時に目の前の女性の───妙に大人ぶった服装をしている、いつもの凛先輩の顔を見て、彼女の意図を理解する。

 そして、遮った腕にティアが従ったことを鑑みるに、俺の考えは間違っていないことを察した。

 彼女の思考は、かつての彼女と変わってはいないのだと。

 何故か、直ぐに結びつけることさえできた。


「・・・見た感じ、変わったのはガワだけかあ」


 ぼそっと呟いた彼女に対し、それはお互いだろうと思いつつも、俺は構わず準備する。

 身体操作による身体強化を行い、身体から黒い銀色の魔力を滲み出しながら、あの頃とは違う小さな身体で、あの頃と同じ身体をした彼女と向き合う。

 今からすることは、簡単だ。

 全てが済んだ今、俺は()()を、心置き無く楽しむことができる。

 この支離滅裂な思考回路をしている今だからこそ、何も、心配せずに。


「っはは・・・

 ああ、そうだ。アンタなら、そう来ると思ってたぜ」


 忙しさのあまりすっかり忘れていた。

 だが、先輩がわざわざこのタイミングを選んで来てくれたのは、独善の襲来を察知させるためという意図以外にも───それよりもっと、個人的な理由があるはず。

 それはきっと、難しいことじゃない。


「ねえ後輩クン。やっぱり私達はさ、言葉よりも───」


 楽しそうにこちらを見ながら刃を構える先輩は、その服装に似合わない複雑で綺麗なヘイローを浮かべ、純白に輝く四対の翼を生やしている。

 ならば俺はと、彼女の圧に呼応するように魔力を紛らせながら、俺は叫ぶ。


「こっちで、語り合うべきだよなあッ!」


 叫んで、地面を蹴る。

 バリアによって守ったために地面にダメージはなく、ただ単に、俺は瞬時に音速を超えて、同じく地面を蹴って加速した彼女とぶつかり合う。

 大きく振りかぶってから放たれた、魔力が籠った右ストレートと───最低限の動きで放たれた、純粋なパワーだけの掌底。

 そして、それらがぶつかり合って生じたソニックブーム。

 今頃、ユカリ達は何事かと慌てふためいている頃だろう。


「っはは!」

「くふっ!」


 互いに笑い、瞬間移動。

 流石に街中でドンパチをする気はない俺達は、一瞬で上空に転移して戦いを始める。

 完璧な空中姿勢制御からの瞬間移動によって先輩の懐に潜り込み、大きく振りかぶった下方向からの右ストレートを繰り出すが、左手であっさりと軌道をズラされ、同時に腹へ膝をくらいそうになったところで空いていた左手を使って膝を受け止め、それを支点にしてくるっと上下反転。

 勢いのままに横顔へ蹴りをぶち込もうとするものの屈んで回避され、腹に何らかの魔法を押し当てられたので、今しがた出現させた分身と位置を入れ替えて対処。

 魔法をモロにくらって消し飛んだ分身を尻目に、俺が彼女の背後から爆裂魔法を投げつけたところで彼女は反転し瞬時に急加速。

 投げつけた爆裂を弾き飛ばしつつ、突進に俺を巻き込んで空中へと押し上げると、腕をクロスさせて突進の衝撃を受け止めた俺の腹に、再び魔法を押し当ててきたが───すんでのところでひらりと身を横にかわして回避しつつ、回し蹴りを決めてやろうとしたものの翼にガードされ、軽々と弾き返されてしまう。


「ずるー・・・」


 馬鹿みたいな硬さしてるくせに四枚もある羽にちょっと嫉妬しながら、俺は瞬間移動で距離を取って彼女の斜め上あたりの位置に出現しつつ、両手の手のひらの中で爆裂魔法をいくつも構築して、起爆寸前の状態まで持っていく。


「ま、べつにいいか」


 何かに気が付き、再び急加速して俺を目掛けて突進をしてきたところで、俺は第一陣を解放。

 コントロールから解き放ちつつ、瞬間移動魔法によって適切な位置に起爆寸前の爆裂魔法を配置。

 俺自身も瞬間移動によって回避行動をしつつ、先輩の突撃した先にバッチリ爆裂魔法が出現したことを確認した時点で、第二陣も解放。

 発動した爆裂魔法を防御している彼女に向けて、同じように爆裂魔法を解き放ち、計十数個の爆裂魔法を至近距離で起爆させた。


「・・・・・」


 数秒後、爆発を見上げていた俺に見せつけるように、先輩は大きく羽を広げると同時に風魔法を全方位にぶちかますことで、爆裂魔法の爆風を跡形もなく消し飛ばす。

 ついでに放たれた風魔法によって翼の羽が舞い、なんだか若干の神々しさが混じっているのが小癪なところ。


「ニア、魔力を寄越せ」

『警告。マスターのバイタル───』

「リスクは承知だ。早くしろ」

『・・・了解』


 ニアの警告を無視して、魔力を補給する。

 もう二度とないチャンスかもしれない。

 既に戦いは始まっていて、退けはしない。

 否、退く必要は決してない。


「いいの? 顔、めっちゃ青いけど」

「だったら最初に気を使うべきだったな」


 そう吐き捨てながら構築したいくつかの爆裂魔法を、瞬間移動魔法を用いて解き放ち、回避の暇を与えないまま起爆。

 爆発に先輩を巻き込んだところで、俺は固有武器を槍の形にして召喚し、逆手持ちから大きく振りかぶって魔力を込め、思いっきりぶん投げる。

 加速魔法が付与された槍は一瞬にして爆炎の中へ突っ込んでいくと、重い金属音が空気にこだました。

 次の瞬間、俺が投げた槍を弾き飛ばし、同時に爆煙を斬り裂くように刃を振るった先輩が、視界の確保を兼ねて斬撃を飛ばしてくる。

 俺はそれを横にズレて回避するとともに、一瞬だけ停止して魔力を解き放ってから大きく加速することで瞬間移動魔法顔負けの加速をかます。

 そして、加速して迫りゆく刹那に固有武器を手元に引き戻し、いつもの短剣に変化させて下段から一撃を入れ込むが身をかわして回避され、その勢いで放たれたであろう回し蹴りを横っ腹にくらう。

 仰け反り、小さく吹き飛びながらも俺はニアの固有武器を用いて牽制のために五、六本の刃を飛ばしつつ空中制御で体制を立て直す。

 不安定な視界の中で刃を制御しながら先輩の動向を追い、魔法の準備。

 刃の本数が明らかに足りなかったために時間稼ぎは三秒と持たなかったが、それだけ確保出来れば十分。

 先輩がこちらに気付いた瞬間、俺は準備していた分身魔法を起動したと同時に位置を入れ替えることで、その場から動いていないと見せかけつつ先輩への奇襲を図った。

 すると一瞬遅れて先輩は気が付き、上から迫る俺の刃を受け止めるために長剣を両手で構えて、受け止めようと力む。

 ならやる事に変わりはないと、俺は瞬時に固有武器を収納して手ぶらの状態へと移行し、奇襲しようと直滑降していた勢いをそのままに、コンマ数秒は硬直して動けない先輩の腹に、瞬間移動によって起こる速度エネルギーのリセットを用いた蹴りを叩き込んだ。


「ぐっ!?」


 俺の脚が腹に突き刺さり、怯む先輩。

 すかさず刃を振り下ろすが、俺は分身と位置を入れ替え、わざと分身を斬らせることで予め仕込んでおいた魔法を発動。

 上段からの強力な斬撃によって真っ二つにされた俺の分身は、通常の分身のように霧散することなく唐突に白く輝き、次の瞬間には大きく爆裂魔法をぶちかます。

 そして俺はすぐさま瞬間移動で爆煙の中にいる先輩の背中へと移動し、間髪入れず魔力を全身に巡らせる。

 対する先輩は、俺の意図が少なくとも自爆ではないと悟ったのか、翼を内側に向かって折りたたみ、俺を押し潰す勢いで背中に押し付けてきた。


「・・・・・」


 凄まじい圧力が俺に襲いかかり、気を抜けば文字通りにペチャンコになる気すらして、額から冷や汗が垂れてくる。

 だが、もう準備は終わった。

 俺の全身に巡った魔力は許容できる内圧を超え、何時もより更に吹き出し、激しく稲妻を散らす。

 身体が弱い者に当てればきっと、無力化を飛び越え、一瞬にして殺してしまう程のエネルギー。

 単なる妨害では収まらなくなった力を、俺はあえて、思いっきり、この愚図で鈍感な馬鹿にぶち当ててやる。


「・・・」


 狭く、押さえられている俺の視界では何も見えなかったが、感覚的には今までで一番のストーム・プロテクションが炸裂した。

 炸裂した・・・はずなのだったのだが。


「ぅぐッ・・・!?」


 次の瞬間、俺の腹に今まで経験したことがないレベルの痛みが走る。

 点滅する視界を下げてみれば、そこには先輩が握っていた刃。

 どうやら自分ごと俺を貫いたらしい。


「ぁ・・・っ・・・・・・!」


 羽の力が増し、防ぎきれなくなる。

 このままジワジワと、押しつぶされてしまいそうだ。


「・・・やっぱり、そういう所も変わってないね。

 前世でもこうやって、大技で───」


 それに、なんだかペチャクチャとご高説垂れ始めた。

 本当にふざけないでほしい。

 俺がそんな話を大人しく聞くようなタチじゃないってこと、アンタが一番よく分かってるはずだろ。


「・・・ッぁ」

「───?」


 刃を掴み、しっかりと握る。

 手から血が出ようが、どんだけ痛かろうが関係ない。

 その手が通じないのなら、また別の手を選ぶだけ。


「があああッ! うあああーッ!!」

「ちょっと後輩クン、何を・・・」


 詠唱は魔法の補助、イメージの補佐。

 であれば、その場その場でリアルタイムに創造していく俺のやり方は、感情が乗る分だけ、声を荒らげた分だけ、魔力の出力が底上げされる。


ペルフ(臓を穿つ)───」


 簡単なことだ。

 俺はシンプルに、コイツを。

 この愚図で鈍感な馬鹿を。


ラミナ()ァーッ!!!」

「え、待っ」


 殺す気で、ぶちかますだけ───


「て・・・・・えっ?」

「───あ」


 ・・・視界が真っ青だ。

 それに、なんだか上を向いている気がする。


「そこまで。二人ともやりすぎ」

「あでっ」


 ああ、と、少し鈍っていた思考が戻る。

 それと、ティアにぶたれたおでこが痛いということも。


「・・・きみは満身創痍だってことを忘れないで。

 貴方も、この世界に慣れていないのなら無理はしないこと」

「あ、バレちゃってるのね・・・」


 なんて俺がボケっとしていれば、なんか俺のついでに先輩も説教を食らっている。

 そういえば、転生者としてここに来たけど、扱い的にはもっと上の存在なんだったか。

 詳しい説明はされていない気がするな。


「まあ、いっか。

 なんも警戒されずに説教されるなんて思わなかったけどさ」


 やれやれ・・・と、らしくないジェスチャーをしながら宣う先輩だが、どうにも視界外から引っ張ってきたインタフェースによれば「悲哀」と「納得」の感情を抱いているとある。

 理由は大方察することが可能ではあるものの、どうやら本人としては突かれたくない位置っぽいので何も言わないでおく。

 一番来て欲しくない時に来るという欠点はあれど、今までの傾向からすれば、何らかの目的があって俺に接触して来たのは確実だろうし。


「それだけ後輩クンがしっかりしてるなら無問題だね」

「・・・しっかり?」

「前言撤回。私も目ぇ悪くなったかな」


 とはいえ、思考が鈍っているのは確実らしい。

 ()()()()()()をされている俺に対して「しっかりしてる」だとか宣ったこともそうだが、態度というか、喋り方に少し違和感があるように感じる。

 具体的な表現は・・・今の俺にはあまり、良さげなのが出せそうにないが。


「・・・・・てか、何しに来たんですか先輩」

「え、聞いてないの?」

「聞いてない。異世界で浮気したから怒られるってことしか」

「あー・・・、いや、それはね? 私も反省してるから穏便に・・・・・」


 身体が問題なく動くようになってきたため、お姫様抱っこの状態から降ろしてもらいつつ話していると、意外や意外、あのクソッタレな先輩が死に際の行動を反省しているときた。

 理由を追求するつもりは無いが、あの先輩が落ち着いたものだ。

 身体もなんか、よく見たら健康体になってるし。

 あのガリガリの体つきをした先輩はどこへ行ったのやら。


「後輩クン怒ったら怖いじゃん・・・?

 だからさ。ちょっと会うの怖くて、神様相手に強がっちゃって」

「恥ずかしいですね。俺もアンタのこと言えないですけど」

「いひー・・・」


 なんて言いつつ、あの時の言動が恥ずかしく思えるのは俺も同じだ。

 でも、こうして再会できたのなら結果オーライだし、直にコミュニケーションができるって分かった時点で変に気にする必要も無い。


「ほら、先輩」

「えー・・・?」


 過去を忘れることはないから、ずっと思考の片隅に置いておく。

 だから、そのために、思考の隅にあるものを、決して悪いものとして置いておくことがないように。


「先輩が欲しがってたヒト、盗られちゃいましたよ?」


 先輩に近づいて、両腕を開き、いじらしく告げながら、ハグの意を示す。

 もう遠慮する必要はない。


「・・・君の方がよっぽど酷いよ」

「これでチャラです」


 静かに呟く先輩に対して、俺は優しく告げる。

 抱擁を解いて、空中で二歩ほど離れてみれば、俺の視界に、今までに1度だって見た事がないような───俺に迫られたあの時でさえ見せなかった、先輩らしくない表情が映った。

 とても儚げで、寂しそうな。

 何かを実感したような、噛み締めているような表情。


「ってことで、先輩も先輩で楽しんでください。

 目的については・・・また、次に会った時にでも」


 だけど俺は構わず、ティアの方へと戻り、差し出された左手を取って瞬間移動魔法を起動。

 グリムにフォーカスし、転移の準備を整える。


「じゃ、また」


 最後にそう告げ、瞬間移動魔法を使用。

 名残惜しそうな先輩を後目に、俺達はこの場を去った。




 ▽ ▽ ▽




 ぱしゅん、と魔法の音が響いた。

 あれだけ激しく戦っていた余韻すら既に消え失せ、この場には一人、ヒトではなくなってしまった女が佇むのみ。


「・・・・・」


 ただ只管に、彼女は安堵していた。

 異世界で過ごしていた彼が、自身が想定していたよりもずっと、先の言動について気に留めていなかったことを。

 何らかの理由はあれど、自分から抱擁を求めるくらいには、自身のことを悪くは思っていなかったという事実を。


「ふー・・・・・」


 そして、だからこそ身に染みる。

 自身が犯した過ちと、それによって失ったモノ。


「変わったのはガワだけ・・・なんて」


 だがしかし、彼女は踏みとどまった。

 未だに自分のことを「先輩」と呼び、あまつさえ敬語で会話してくれる後輩の心情を、他でもない自分の手で踏みにじる訳には行かないと。


「そんなわけ・・・ないよねえ」


 彼女の手に宿る「想起の権能」は、依然として用いられることはなく、消えゆく間際に強い光を放った。

 まるで、今際の際に踏みとどまった彼女の選択を、大きく頷いて肯定するように。


「・・・ちゃんと気ぃ使っちゃってさあ」


 自分の目的すら伝えられぬまま、想い人に心情を振り回され、空中に佇んで呆ける彼女。


「ズルいよ。ほんと・・・」


 予想だにしなかった天気雨が、やってくる。










 Q,グリムは何をしていたか?


 A,ティアの判断で待機。たぶんクッソ拗ねてます。

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