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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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1-2:失礼な案内人

 うーん。







 個人的な考えだが。


 べつに公言するほど好きではなかったが、いざ食べる機会を失うとなると、それはそれで悲しいものというのはありがちで。

 俺としては焼き鳥や川魚の塩焼きなどがそれに当てはまっていて、ラーメンやハンバーグなんかが当然のように存在しているこの異世界でそれらがないことを知った時は、わりと気分が落ち込んだ。

 まあ、とはいっても、料理としては単純なものばかりなので、有名ではないが存在はしているのかもしれない・・・と、わりかしポジティブな思考でいたのだが。


「代金、確かに40カル頂いたぜ!」

「あざーす」


 だからこそ、改めて遭遇して嬉しくなるわけである。

 それと、こういった好きでもないけど無くなったら悲しいヤツは、精神衛生上とても良い代物であるかもしれない。


「・・・おかえり。それは?」

「焼き鳥。今回はつくねとねぎまを2本ずつ買ってきた」


 そう説明しつつ、俺はつくねの串を一本、ティアに手渡す。

 ティアは俺から受け取ったつくね串をまじまじと見たあと、小さく一口分を口の中に放り込んで、「!」という表情を浮かべた。

 どうやらお気に召したみたいだ。


「美味しいか」


 俺がそう問うと、ティアは口に手を当てつつ、首を縦に振った。

 食事をするたびに思うことなのだが、ティアのその上品さは一体どこで培われたものなのだろう。

 貴族の出というわけではなさそうだし、やはり両親の教育か?


「・・・・・私は貴族の系譜だから。幼少期はあまり余裕がなかったけど、せめて礼儀作法だけはって」

「なるほど」


 これは、深くは詮索しないほうが良いな・・・と思っていると、ティアはいつのまにかつくね串を食べきってしまっていた。

 随分とまあ食べるのが速いこと。


「これって、どっちか選んでいいの?」

「ああ。そのために待ってた」

「・・・そんな気を使わなくていいのに」


 とは言うが、俺はべつに両方とも好きだしな。

 ティアがどちらを選ぼうと構わないし。


「ん、きみがそういうなら・・・次はこっち」

「王道のやつだな」


 俺の言葉・・・というか思考に甘えたのか、ティアはねぎまの方を指さした。


「んじゃ俺も。いただきまーす」


 すぐに手渡し、俺も食べ始める。

 つくね串のつくねは玉が3つあるタイプのやつで、横からすっと引き抜きつつ口に放り込む。


「・・・・・」


 久しぶりに食べたが、まあ、美味しい。

 最後に食べたのはいつだったか。


「・・・♪」


 あとはどこを巡ろう。

 主食をまだ食べていないし、おにぎり屋なんかを探してみるのもアリだな。




 〇 〇 〇




 さて、時間と場所は変わり───街をあらかた回り終え、昼食もとりおわった俺達は、食後の運動も兼ねて依頼を受けようと冒険者ギルドの支部を目指していた。

 ニア曰く魔物が多い土地ではあるようだが、まだ依頼周りの状態は調べてすらいないので、その辺は支部に到着してからのお楽しみという感じ。

 ただ、異世界転生が故の優位性というべきか、討伐系の依頼に限った話ではあるものの、今のところは難易度のことを気にする必要は無さげだ。

 留意すべき点というのも、あまり鼻を伸ばしすぎるなという自制だけだし。


「ねえ、グレイア。やっぱりギルドの建物も、街並みに合わせたもの・・・だったりするのかな?」

「・・・そうだったら面白いな。他の国の建築様式とかにも合わせてあるだろうし」

「・・・・・そっか。この国に合わせてるならそうだもんね」

「ナギの口ぶりから考えるに、どうせあいつ(ナギのやつ)が設立か改革に携わってたりするんだろ」


 日本人ならどうせ、本国の権力のアピールとかよりも、現地の見栄えの方を大事にするだろうと。

 建築のコストなんかを現代基準の価値観で考えたら当たり前だが、国と国の関係がしっかり中世や近世しているで()()()この世界で、そんなことを考えるのはあいつ(ナギ)くらいだろうと。

 まあ、そういう偏見である。

 いささか買いかぶりすぎな気がしないでもないが───正義とかいう、なんとも認識を歪ませられる名前を冠しているあいつが悪いのだということにしておく。


「・・・実際、正義の寵愛者はきみの考えよりもずっと大雑把な人みたい」

「ちゃっかり見てたのか。抜け目ないな」


 俺は笑いながらそう返しつつ、HUDを見て支部への道順を再確認しようとした。

 すると突然、俺は何者かに肩を何回か叩かれる。


「はい───」


 俺は繋いでいた手を離し、何か落とし物でもしたかなと思いながら振り返ると、そこにいたのは可愛らしい雰囲気を纏った少女───否、美青年だった。


「グレイア様、ですね?」

「そうですよ。何か用が?」


 青年は凄まじく無感情な声でそう言うと、俺の返事を聞くなりわざとらしく左手の人差し指と中指を耳に当て、通信魔法を使用し始める。

 ついでに右手を鞘に収まっている武器の柄にかけ、暗に「逃げるな」と言わんばかりに圧を発してきた。

 なんか普通に失礼だ。

 せめて名乗れよ。


「1-4より一方通信。VIPを発見したため、そちらへ案内する。以上」


 俺がVIPなのは理解したが、目標の前で通信は一番やっちゃダメなやつだろ。

 流石にド素人の俺でも・・・・・と、思ったが。

 冷静に考えてみたらそうだな。

 多分こいつ、ド素人なんだろう。

 めっちゃ失礼だし、名乗りすらしないし、どう考えたってダメだろってことやらかすし。

 そういうことにしておこう。

 いちいちカリカリしていては寿命が縮む。


「・・・グレイア様。ボスがお呼びですので、よければ案内を」

「把握した。頼む」


 だからまあ・・・今は、大人しく従おう。

 俺の言葉に反応して、普通に歩き出してくれたし、仕事そのものは問題なくやってくれるようだ。


『通知。現在マスターを案内している彼ですが、どうやら感情や一部の精神機能が欠如しているようです。恐らくは何らかの自己証明による効果かと』

「・・・・・」


 ついでに、ニアの報告によって、この青年がめちゃめちゃ触れづらい疾患を抱えていることがわかった。

 自己証明による身体機能の欠如を疾患と言っていいのかは分からないが、とにかくバッドコミュニケーションをする確率が減ったのはそうだ。

 まあ、本人が全くもって会話をする気がなさそうだから、これを知ったところでそれほど意味はないだろうが。


「─────」


 とまあ、そんな感じで沈黙は続く。

 これでも警戒はしているので、逐一通行人の視線やらを気にしているのだが、概ね大丈夫そうだ。

 ちらちらと見られているような感覚はしないし、なんなら「おっ、なんか連れてんなー」くらいの感覚で青年に挨拶をするおっさんも居たりする。

 挨拶は返してもらってなかったけど。

 ・・・とにかく、これから連れていかれる場所が、なんか俺たちに危害が加わるような怪しい場所である可能性は限りなく低いと言っていい。

 この青年が認識阻害系の自己証明を持っている可能性もなくはないものの、ぶっちゃけ「どうやって知るんだよ」案件なので、心配するだけ無駄というものだ。


「・・・こちらへ」


 と、そんなことを考えているうち、何やら大通りから路地へと誘導される。

 どんな建物に入るんだろうか・・・なんて思いつつ歩いていると、少し歩いたところで、この青年と同じ服装をした男性が扉の横に立っているのを見つけた。

 その男性は青年とアイコンタクトをとると、扉を恭しく開けて俺たちを中へと入れる。

 アピールなんだろうなと思いつつスルーすると、ニアが急にHUDへ情報を添付してきた。

 なんかの地図と、もう1つは人物情報のようだ。


『マスター。私が地図とマスターの現在地を照らし合わせていた所、今しがた入ったこの建物は冒険者ギルドの支部で間違いないということがわかりました』

「・・・・・」

『だとすれば、この青年が言う「ボス」がどいう存在かというのも推察できます。情報はHUDに添付した画像から確かめてください』


 はてさて、ニアは有能すぎて困るな。

 俺が薄々知りたいと思っていたことを、正確に把握して通知して、挙句オマケまで付けてくれる。

 不確定要素ではあるものの、この状況であればニアの推察は正解にかなり近いものとなるだろう。

 ニア自身、かなり確証に近くなければ通知はしないだろうし。


「・・・この部屋で、ボスがお待ちです」


 そして、どうやら目的地に到着したらしい。

 相も変わらず無感情なままで俺たちにそう告げた青年は、まるで人形のように扉の横で待機している。


「案内ありがとう」


 最低限の礼だけ伝え、目の前の扉を開ける。

 するとその先には、両脇にボディーガード(?)を控えた和服姿で小さな角を生やした女性が、田舎によくある低めの机を挟んで鎮座していた。

 部屋は和室だが、どちらかと言えば和室味が強め。

 自分でも表現の仕方が合っているかはわからないが、言葉として表すなら「わりかしカジュアルな和室」というのが適切だと判断する。


「・・・・・あんたが件の「ボス」か」


 部屋に入った俺は一言、そう口にした。

 相手から話し始めるのを待つのは面倒だという理由からである。

 すると、彼女は元気いっぱいな仕草を見せたのち、手を差し出しながら口を開く。


「ようこそ。はい座って座って」

「ああ、ありがとう」


 彼女の言葉通りに座布団の上に正座で座る。


「色々と気になることもあるかもしれないけど、今はとにかく・・・・・遠路はるばるご苦労さまってところかなぁ。ねえ? 虚無の寵愛者サマ?」


 口調が軽々しいことを除けば、ちゃんとボスと呼ばれるに相応しいオーラみたいなものを纏っているような気がしないでもない。

 ただ、どちらにせよ、思っていたよりはずっと元気な人だった。


「・・・手厚い歓迎、感謝する」


 本当にな。

 わざわざ通信網まで構築して俺を探すなんて。

 そんなに俺を呼びつけて何をしたいんだ?

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