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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:自由は奔る流れを拒んで
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1-3:爆弾みたいな扱い方

 言うなれば、転生者とは便利な手段である。

 背の高い人間が、高い場所にあるモノを取りたい時にだけ呼ばれるような、そんな甘え。







「・・・じゃあ、まずは自己紹介からかな」


 そこまで重くはないが、そこそこ緊張してはいるという空気感の中、次の会話は彼女の方から切り出してきた。

 自己紹介をすると宣言した彼女は正座のまま、表情を少し緩ませてから口を開く。


「わたしの名前はサクラ。ここの支部の頭をやってるよ」

「虚無の寵愛者、グレイアだ。

 今は合縁の寵愛者の依頼を受けるため、この国の首都を目指してる」


 情報の開示も兼ねて、俺も簡易的な自己紹介をする。

 俺の目的やらなんやらは合縁の寵愛者やナギ・・・正義の寵愛者づてで伝わっている可能性も無くはないものの、伝えておくに越したことはない。

 彼女の反応は悪くなく、少し頷く仕草を見せると、がっちりと視線を合わせたままで言葉を続ける。


「すっごく怪しい案内に着いてきてくれてありがとう。

 ほんとはこんなつもりじゃなかったんだけど、ちょっと想定外があって」

「・・・それは、俺が早く到着しすぎたことか?だとしたら申し訳ない」

「いいのいいの。それより、わたしの部下がなにか粗相をしなかった?」

「いいや、とくに何も」

「うん。じゃあいいね」


 これは方便。

 わざわざ指摘するほどでもなし、ここで余計な会話が起こるのは面倒だ。


「それで? なんの用があって俺をここに呼び出したんだ?」

「話すと少し長くなるんだけどさ、聞いてくれる?」

「もちろん。そのために来たんだからな」


 起爆寸前の危険物を処理する時の爆弾処理班の隊員くらいの気概の彼女は、言葉の裏で色々なことを考えたんだろうなという思考の痕跡のようなものを隠しきれていない。

 やはり、一定以上の力を持った転生者というのは相応に警戒するべき対象なんだなと実感する。


「・・・・・ありがとう。そしたら、まずはあなたに頼みたいことがあるっていうのを伝えなきゃね」

「頼み事?」

「そうだよ〜。わたしたち、最近ちょっと困ってることがあって・・・」


 正直な話をすれば、俺はこういった情報を小出しにしてくるタイプの会話スタイルが嫌い。

 先に結論から言ってほしいと感じる。

 余裕を演出したい自分と板挟みになっているが、結局は我慢すれば場がスムーズに進むのだから我慢。

 イライラはするものの、仕方がないと割り切る。


「近頃、この町の周辺で冒険者のパーティーが行方不明になる事件が発生しててね。それが厄介で・・・」


 ───行方不明。

 暇だからと余計な思考をしていたら、かなり責任重大になるだろう依頼を任されそうになっている。

 先程までの流れからして、中規模から大規模までの魔物の掃討依頼かと思っていたのに。


「わたし主導で依頼の発行とかもしてはいるけど・・・何より厄介なのが、事件発生の時間帯や行方不明者の傾向がバラバラで、かつ犯行の痕跡も巧妙に隠されてるということ」

「・・・単独犯じゃなさそうだ」

「そういうこと。だからあなたに依頼をしたい」


 組織的な犯行・・・ということは、対処する側も相応に人員などのコストを投入しなければならない案件。

 俺に依頼する理由は人員不足か、はたまた人員の消耗を渋ったか。


「・・・・・受けてくれる?」

「把握はした・・・」


 俺の相槌を聞いた後、真面目な表情で返事を待つサクラ。

 はっきり言って受けない理由が見つからないもの、かと言って素直にYESとは言い難い。

 なぜなら、俺には今現在、この依頼を()()()()()()()がないから。

 報酬はもちろん、義理も、恩も、何も無い。

 何より、根本的に説明が足りていない。


「受けよう・・・と言いたいが、先に報酬の話を」

「そっか・・・」


 俺は少し言葉を我慢しつつ返し、彼女の反応を待つ。

 すると、彼女はあからさまに肩を落とし、また顔を上げて俺の方を向くと───少し後悔しているかのような表情をしながら言葉を続ける。


「いやね、ほんとはあなたが町に来た時に食と住を用意しておいて、その代わりに依頼を・・・って算段だったの。

 でも、わたしはあなたの移動速度を見誤っちゃったんだ」

「空を飛んできたからな。そりゃあ見誤るだろうよ」

「・・・それを聞いたら、尚更依頼を受けて欲しくなったんだけど、なにか報酬になるようなものがあったかな・・・・・?」


 ()()()()()()と思いながら、彼女の次の言葉を待つ。

 そして暫くの間、彼女はそれっぽい仕草をしながら考えを巡らせ、唸り声を上げながら記憶を辿っているようだった。


「─────」


 次に会話が再開したのは、彼女の左にいた男が耳打ちで何かを伝えた数秒後。

 悩んでいた時間は2分ほどだろうか。


「・・・・・家?」

「・・・は」


 そうして悩んだ末の彼女が放った一言は、俺の思考を停止させるのに十分だった。

 家。

 家か。


「・・・・・どうしてそうなる」


 俺は頭を抱えたい衝動を押さえながら、限りなく言葉を選んで問う。

 すると、彼女は申し訳なさそうな素振りを見せながら説明を始めた。


「だって・・・下手したらわたしの部下が何人か()()()()()だってあるわけだし、それを考えたら報酬としては妥当な気がするんだけど・・・・・」


 やっぱり人員の消耗を渋っていたかと納得しつつ、人の命の価値を考えれば妥当だという言葉にも同意する。

 ただ、根本的な問題は別にあるのも事実。


「・・・べつに不動産を報酬とすること自体は構わない。

 問題は、俺がそれを使う気が一切ないってことだ」


 端的に言えば、俺たちは根無し草であるわけだ。

 家の譲渡という提案を受けた時、俺は真っ先に価値や価格に目がいったが───冒険者として見るのであれば、最も注意すべき所はここかもしれない。

 もし俺が使わないまま「グレイアが所持している家」という事実が残った場合、目立ったメリットを得られるのは俺じゃないし、貸し出すにしたってカルの回収はどうするんだという話。

 メリットというメリットは、後々のための別荘が確保できるという点と、宿代が浮くという点くらい。


「それなら、あなたが合縁さんの依頼を終わらせるまでギルドが管理しておくよ?」

「・・・なら、その言葉に甘える。

 依頼の報酬としては些か変化球ぎみな気がするが」


 詳しいことは合縁の寵愛者の件が解決してからでも構わないだろう。

 幸い、時間ならたっぷりある。


「・・・あまり起こるような事件じゃないから、ギルドとしてもマニュアルなんかを用意する余裕がないんだよね。だから報酬の相場なんかもないし」

「仕方ないことか・・・」


 あまり起こるような事件じゃない・・・か。

 よかった。この世界全体の治安は、俺が思っていたよりもずっと高い水準にあるらしい。


「それじゃあ、依頼の話はこれで以上だな?」

「そういうことになるよ。あなたは犯人グループを探しに行く感じ?」

「探しに行く。可能なら早いうちに捕らえたい」


 スケジュールを調整することは可能ではあるものの、それをするのはニアだし、俺は可能ならスケジュール通りに事を運びたい性格をしているし・・・というわけで、一応はタイムリミットがある。

 だから解決できることは早めにやっておきたいのだと、そういう意味で伝えたところ、どうやら彼女にも準備はあったようだ。

 彼女は俺の言葉を聞くと、右にいた男の方に手を出し、何かの書類を受け取る。

 それを机に置くと、俺の方にスライドして差し出してきた。


「そっか。それなら、この資料を受け取って」

「・・・これは」

「被害者の特徴とかがまとめられた資料群と、その日の行動や依頼から見積もった被害者の行方不明地点を記した地図だよ。

 犯人か組織かは不明だけど、対象の特定に役立ててほしい」

「・・・確かに受け取った。ありがとう」


 これは良いものを貰った。

 存分に使わせてもらおう。


「見送りは?」

「必要ない。直ぐに出るしな」

「了解したよ。じゃあわたしは退室までで」

「わかった」


 これで話は以上か。

 そしたら、あとは誘拐犯をとっちめて連れてくるだけだ。


「ティア、行こう。仕事だ」

「わかった・・・」


 ティアを呼び、立ち上がって扉に向かう。

 そして扉を開け、退室の挨拶を口にする。


「それじゃあ、失礼する」


 そうして、俺とティアはサクラたちの視線を背中に受けながら、緊張で満ちる部屋を出た。




 〇 〇 〇




 暫く後、町の出口あたりまで来た俺たちは、歩きながら色々と話をしていた。

 べつに前もって打ち合わせしていたわけではないが、ああいう場では俺が表立った会話を行い、ニアが俺をサポートし、ティアが自己証明を使って相手の思考を見る・・・という役割分担をしている。

 仮に俺が会話をミスった時でも、相手の思考を見ているティアがリカバリーしてくれると思われるので、そういう点でも安心して会話に集中できて非常に良い。

 積極的に面倒な会話に首を突っ込むつもりはないが、備えあれば憂いなしというわけで。

 それと、いざと言う時にボロを出さないためにも、この分担には慣れておく必要があるだろうし。


「私とニアさんが自己証明を使って把握した情報をまとめると、まず、支部長が発していた言葉に嘘はなかった。

 偽りの依頼できみを釣ったりだとか、そういうのはまずないと判断していいかも」

「可能性が限りなく少ないとはいえ、それは安心か」

「うん。きみのことを警戒してはいたけど、危害を加えるつもりは全くないみたい」


 家を報酬にすると言ったのも、彼女が当初予定していたプランが壊れた故の苦肉の策みたいなものだったように思う。

 内見というか、先に家を見ておくべきだったというのは悔やまれるが・・・どっちの判断が正解だったのだろうか。


「・・・とりあえずは今の選択のままでいいと思う。

 悠長にしている間に犯人に逃げられた駄目だし」

「そう」

「それに、報酬として渡すような家を粗末なものにするなんてこと、きみを警戒していた支部長に出来ると思う?」

「・・・・・確かに」


 そうか。俺は報酬がなければ依頼は受けないという旨を伝えたのだから、元より俺を警戒している相手であれば、それ相応に機嫌を損ねないようなモノを用意する可能性が高いわけか。

 なら気にするだけ無駄かもしれない。


「ありがとう。おかげで心のモヤが晴れた」

「うん、どういたしまして」


 これで心置き無く依頼に集中できる。

 犯人を見つける手段が課題だが、見つけさえすればあとは楽だ。


『・・・マスター。先程の資料についてひとつ、気になる点が』

「どした」


 すると、タイミングを見計らったニアの通知が飛んできた。

 対して俺が説明を求めると、ニアは淡々と話を続ける。


『マスターから預かった資料を分析した結果、行方不明者が失踪した地点に一定の法則性があることを発見しました』

「早速か」


 俺の返答を聞いたニアは、さらに言葉を続ける。


『失踪地点の分布が、ある地点を中心とした円形の中に収まっている可能性が指摘できます』

「ある地点とは?」

『山の麓、崖と森の境目とされている地点です』

「なら、そこの周りを偵察すれば・・・」

『効率的な偵察になるかと』


 良い情報を得てくれた。

 上手く行けば、今日中に依頼を完了できるかもしれない。


「・・・ニア、範囲を絞ってHUDにエリアを表示してほしい」

『了解しました』


 俺はニアに命令をして、HUDに表示された情報を確認して目的地を確認しておく。

 すると、ニアとの会話が気になったティアが俺の肩をポンポンと叩いてきた。


「ニアさんはなんて?」

「対象の活動予想範囲を割り出してくれた。これで効率的な偵察が可能になる・・・っ」


 ティアにそう伝えながら、俺は伸びをして、先程の座っていた時間で固まった体を柔らかくする。

 そしてティアの方を向き、自然体な表情をしている彼女の瞳を見つめながら笑い、口を開く。


「・・・よし。そうと決まれば、手早く済ませるぞ」


 相手がどうであれ、早く解決するに越したことはない。

 今日中に終わるといいな。




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