表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
9/314

第八話「まず初めに行く場所は」


 言語の違和感に気付いた瑠璃と紅葉はそうしてしばらく歩きつつ長い商店街を巡り、互いの知る情報を交換し合う。


 そうして分かった事として、お互いに言語の用法が違う場合がたまにあるものの、物品などに対する認識はほぼ同じであり、物理法則などを始めとした互いの世界に対する情報や政治機構の在り方、経済観念、そして認識する文明LVの高さなどもある程度は共通認識を得られる程度のものであるという事が理解できた。


 これに対し、瑠璃はしばし思案した後に歩きながら言葉を綴る。


「ふむ、しかしそうですか……。どうも私の理解している言葉は主要言語じゃなさそうなので、この世界の言葉をある程度理解してから役所に行こうと思ってましたけど、翻訳言語などという便利な機能がこの世界の方にあるのならもう役所に出向いて行っても良いかもしれませんね。どうやらこの世界の言葉は相当複雑みたいですし……」


 瑠璃はそう言って店々を回りながら熱心に何かを書き記していた手帳を閉じて、鞄の中にしまう。どうやら、瑠璃はその手帳に品物の名前などを書き込んでこの世界の主要言語を理解しようとしていたらしい。紅葉の視界に多数の品物の名称が書かれた手帳の中身がちらりと映る。


「えー、と。信じるの? 自分で言っときながらかなり荒唐無稽で信憑性に欠けると思うんだけど……」


 紅葉は自分の知る世界と瑠璃の知る世界の在り様がかなり違った為に、また自身にのみ見える中空の文という自身の知らない何かの情報を瑠璃が判断材料として有益であると仮定した為に、今一度瑠璃にその信憑性に対する疑いを投げかける。


 当然だ。そもそも紅葉が認識して話す事柄というのは、瑠璃からすれば記憶が無い相手の記憶情報とその相手にしか見えない閲覧情報なのだ。普通は信用ならないし、信用してはいけない類のものである。


 しかし、それに対して瑠璃は口元に人差し指を当てて再度思考するものの、やはり変わらず結論を出す。


「んー、まぁ大丈夫だと思いますよ? 現在の状況下で紅葉さんが私に嘘を付くメリットはありませんし、その情報は少なくとも紅葉さん視点では真実なものでしょう? それに先程の情報交換の中で私が出したブラフにも引っ掛かりませんでしたしね」

「……むぅ」


 紅葉としても商店街を巡る最中の瑠璃の言葉に幾つものブラフが仕込まれていた事には気付いていたし、それを見抜いた上でなるべく正確に答えていたので特に問題は無いが、それでも中空の文章を信用するのは少し戸惑われる。紅葉は得体の知れないものが苦手なのだ。


 しかし、そんな紅葉の心情を知ってか知らずか、瑠璃は紅葉に声を掛ける。


「ま、それで何か問題が起ればそれはその時に解決すればいいんですよ。具体的に言うと紅葉さんを見捨てるとか」

「うげっ、見捨てないで~」

/※特別意訳(私が信用しないって言った場合は紅葉さん見捨てられる事になっちゃうゾ☆)

     (それは困る。じゃあ形だけでも信用した体でよろしく)/


 その言葉により、瑠璃がここで形だけでも信用しなければ紅葉の側に問題が出る事を察知し、紅葉はその言外の協力体制に感謝しつつ、その提案に乗り、ややオーバーアクションに行動して瑠璃に物理的に伸し掛かる。


 そんな紅葉をするりとかわしつつ、情報交換と作戦会議が一息ついたので、瑠璃は次の行動を開始する。


「はいはい。そうと決まれば、ちょっと役所が何処にあるのか聞いてきますよ」

「ん」


 行動を起こそうとした拍子に伸びをして、手でくしくしと顔を洗ったのは猫の習性だろうか? そんな紅葉の考えをよそに瑠璃は近くのベンチで何かの書類を読んでいた赤で縁取られた純白の鎧に緋色の髪をした見るからに騎士か剣士といった装いの真面目そうなお姉さんにとてとてと近付いて道を聞きに行く。


「あの、すみません、少し道をお尋ねしたいのですが……」

「うん? あぁ」


 瑠璃が話しかけると緋色のお姉さんはすぐに書類を置いて顔を上げた。どうやら話を聞いてくれる様だ。


「なんだ? 敵か? 何処にいる? すぐに始末してやろう」

「違います」

「なんだ違うのか」


 が、優し気に笑う緋色のお姉さんの口からまるで世間話でもするかの様に物騒な言葉が聞こえた。瑠璃がにこやかに即否定するが後ろの紅葉は冷や汗が止まらない。


(なに今の会話……)


 しかし、そんな紅葉は無視して瑠璃は何事もなかったかの様に会話を続ける。


「あの、道を尋ねたいのですが……、この辺りで役所って何処にあるかわかりますか?」

「役所? それならば商店街を抜けた外だが、学生がなぜそんなところに……」


 そう言いつつ緋色の剣士は何かの赤いカードを目の前にかざして二人を見る。何かの道具なのだろうか? 瑠璃と紅葉はその緋色の剣士の行動に疑問符を浮かべていたが剣士の側はそうした後すぐに納得した様子でカードを懐にしまう。


「あぁ、お前達も<来訪者>なのか。それで役所に手続きに行きたいのだな」

「そうなんですけど。あの、<来訪者>とは?」

「異世界人の事だ。この世界では異世界人を総称して<来訪者>と呼ぶ」


 そこで紅葉は彼女の言葉の違和感に気付く。


「あー、っと、失礼ですが、「も」って事は貴女も?」

「鋭いな。そうだ。といっても私は定住してから既にそれなりの年月が経っているがな」


 そうして話す緋色の剣士はこちらの世界に来てもう100年近くになるらしく、同じ来訪者の瑠璃と紅葉を快く役所へと案内してくれる。


 また、その最中、街中を移動する際の転移門と呼ばれる瞬間移動装置の使い方や地図記号の見方などの、この世界で生きる上では必須の情報をピンポイントで教えてくれた。


(……これも中空の文章が警告してた「何者かに仕組まれた必然」だったりするのかな……?)


 そうして手際良く知らされる情報群を記憶しつつ、紅葉がそんな事を思い浮かべたところで、緋色の剣士の足が止まる。


「ここだ。と、私はもうすぐ仕事なので手続きには同行してやれそうにない。すまんな」


 移動中、緋色の剣士は何度か時間を気にしていたのか、携帯端末を取り出して時計を見ていたが、そろそろタイムアップらしい。仕事に行くのを引き留めるわけにもいかないので二人はお礼を言って緋色の剣士とはここで別れる事にする。


「あ、いえ、ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」

「そうか? まぁ手続きそのものはそう難しいものではないし大丈夫だとは思うがな」


 緋色の剣士は少し安心した様にニコッと笑顔を浮かべ、「それじゃ」と赤いマントを翻して何処かに去って行く。


 ……控えめに言って良い人物であった。しかし、案内された場所には少し疑問が残る。


 彼女に役所と言って案内された場所、そこは……。


「神社?」

「ですね」


 そこにあったのは惑う事なき神社であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ