2.この子どこの子男の子
バスからおりて家に着いてもなっちゃんは何も話してこなかった。
…家に着いてからもだけど。
なんか怒ってる気がしたけどあえて聞かなかった。
面倒くさいし。
玄関を開けると俺の両親が彼女を迎えいれた。
「いらっしゃい、なっちゃん」
「よく来たわね」
二人はまずなっちゃんに挨拶をし、それから僕に言った。
「おい、そこの君。なっちゃんを彼女の部屋にお連れしろ」
お連れしろって…
「こちらですお嬢様」
いささか不当な扱いを受けた気がしたが、反抗しないでノッておいた。
なっちゃんはクスクス笑った。
なんだ怒ってないのか。
僕は彼女の顔を見る。
目が合うと彼女は笑うのをやめてプイと顔をそらした。
やっぱ怒ってた。
けど、なんで?
階段を上がって部屋に案内する。
なっちゃんの部屋となる場所は二階の僕の部屋の向かいだ。
彼女の部屋にかばんを置く。
「着替えてから下に行ってやって。うちの両親なっちゃんと話したいだろうから」
そう言ってから彼女の部屋を出ようとしたら、彼女に呼び止められた。
「ねぇ、喧嘩が恐いって言ったよね?なんで?」
いきなりですか。
「…なんでって、喧嘩が恐くない人なんていないと思いますよ?」
「そういうこと言ってるんじゃない。私が言いたいことわかってるでしょ?」
「さっぱりです」
そう言って逃げるように彼女の部屋を出て向かいの自分の部屋に入った。
「しんど…」
ベッドに倒れこむ。
しばらくすると向かいの部屋の扉が開いた音が聞こえた。
……彼女は僕に失望したのだろう。
(なんでやり返さなかったの?)
つまりそういうことなのだ。
僕からしてみればなんで彼女は僕に喧嘩させたいのか分からないけど、確かに普通の黒帯
取得者ならやり返す場面だろう。
けど僕はしなかった。
彼女の思い描いていた僕ならあの場面で格好良くナンパ男を撃退しているはずだった。
けど実物は喧嘩が恐くてやり返せないようなヘタレだったのだ。
…めんどくさ。
正直彼女の僕に対する評価なんてどうでもよかった。
まぁ、同じ家の中で気まずいってのもどうかと思うけど。
あいにく僕は自分が必要以上に口を開かないということを知っている。
相手が話しかけてこなければ僕も答えないでいいし。
そう思うと楽か。
「はー」
思わずため息が出る
考えるのも嫌になってきた。
ベッドの上にいるとだんだん瞼が重くなってくる。
まだ夕食には二時間ほど早い。
「寝よ」
僕は意識を手放した。
目が覚めたのはぴったし二時間後。
僕は体内時計の存在を確信した。
「ご飯できたわよー」
下の階から母が呼んでいる。
「はいはい」
ベッドから腰をおろして扉を開けて一階のダイニングに向かった。
なっちゃんはキッチンで母と料理を作っていた。
楽しそうな話声が聞こえる。
父はダイニングでその様子をニヤニヤして見ていた。
「…いい」
…なにがだ。
「美少女のエプロン姿、新鮮だぁ」
僕は父に犯罪者の面影を発見してため息をついた。
「なぁ、なっちゃん美人だよなぁ。お前もそう思うだろ?」
「確かに彼女は美人だね。そしてあんたは変態だね」
キッチンにいるなっちゃんの後姿を見る。
少し耳が紅潮しているように見えた。
ダイニングテーブルを見るとピザやフライドチキンやパスタがずらりと並んでいた。
こんな豪華な食事はクリスマスでも食べたことが無い。
それほどまでに両親は彼女を歓迎しているのだ。
彼女もさっきまでの不機嫌オーラはどこかに隠したようだ。
「「「「いただきます」」」」
みんなの声がそろったところでなっちゃん歓迎会は始まった。
「これからよろしくお願いします」
いただきますと順序が逆の気もするが、彼女は僕たち大木一家にお辞儀をした。
「いいのよ、そんなことは」
「そうだぞ、堅苦しい。私は子供ができた気がしてとてもうれしいよ」
「けどお二人にはお世話になりますので」
……ん?
「おっとそこの君、タバスコを取ってくれないか?」
僕は父にタバスコを手渡す。
……んん?
「ねぇ、そこのあなた。キッチンからシャンパンを持ってきて」
母にそう言われて素直にキッチンに向かう。
……んんん?
なんだ?
この違和感、ってか疎外感。
キッチンから戻るとなっちゃんと目が合った。
逸らされはしなかったけどなんだかかわいそうな目で見られた。
僕の目には何故か得体の知れない液体がたまっていた。
「あー、君。今日はもうあがっていいから」
父が俺に言う。
「はーい。お疲れ様デシター。お先に失礼シマース」
食事をすまして部屋に戻る。
一階ではまだ談笑が続いている。
僕はヘッドホンを耳に当てて寂しさを紛らわそうとした。
くそう!なんだこの仕打ち!!
一時間ぐらいたつと、下の階がいつのまのか静かになっているのに気づいた。
結局なっちゃんとは何も話さなかったなぁ。
そんなことを考えながら最後の曲を聞き終える。
ヘッドホンをはずしてベッドの上に放って部屋の扉をひらいた。
ごんっ!
「いったぁい!」
部屋の外にはなっちゃんがいて額をおさえていた。
「何してるんです?」
「こっちのセリフよ!」
彼女は涙目になりながらこっちを睨んだ。
あっ、おでこが赤くなってる。
「今から風呂に入ってこようと思ったんですが」
「そうじゃなくて!」
「?」
首をかしげる僕。
「なんで私に話しかけてくれないの?」
なんのことだ?
避けていたのは彼女のほうじゃないのか?
「ずっと待ってたのに!これからよろしくお願いしますって言おうと思ってたのに!!」
さっきまで僕に対して不機嫌だった君がなにを言う。
「えっと、ゴメンナサイ?」
とりあえず謝っとく。
「ばかやろー!」
そう叫んで彼女は向かいの部屋に入っていった。
今のは僕が悪かったのでしょうか?
階下を見ると父と母がこっちを睨んで中指を立てていた。




