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1.からまれています助けてください

季節は春。


「ふー、やっとついたぁ」


場所は駅前広場。

一人の少女がこの地に降り立った。

彼女の名は神崎なつみ。 

17歳、この春から高校二年生。

驚くべきはその容姿、道行く人は皆彼女を見た。


「すっげぇ美人…」


「ホント…」


皆が口々につぶやいた。しかし当の本人は自分が注目されていることに気づいていない。

なぜなら彼女は今、今日から始まる新しい生活を考えていて、思考がほかのことに向かなくなっていたからだ。

そのせいで昨日の夜は一睡もできなかった。

ふいに二人の男登場。


「ねぇ、君一人?」


二人はこんな決り文句で彼女に声をかけた。

しかし彼女は気づかない。


「ねぇ。無視しないでよ」


肩に手を置かれて初めて彼女は振り返った。


「どうかしましたか?」


「君一人?俺らと遊ばね?」


よく見ると片方は金髪で耳にピアス、もう片方は坊主頭で耳と鼻にもピアスをつけている。

いわゆる不良だ。


「ごめんなさい。私、知り合いと待ち合わせしてるんです」


「それ男?君みたいなコ待たすような奴、ロクな奴じゃねえよ。放っておきゃいいって」


彼女はその言葉にムッとした。


「あなたたちが周ちゃんの何を知っているか知らないけど、あなたたちみたいな顔面凶器よりも彼は何倍も素敵ですよ」



―周平視点―



僕の名前は大木周平です。

どうぞヨロシク。

僕は今バスに乗って駅に向かっている。

理由は、従兄妹が来るというのでそのお迎え。

…めんどくさ。

バスから降りると駅前の広場でちょっとした人だかりができていた。

なにやら一人の女と二人の男が口喧嘩をしているらしい

嫌な予感がバシバシする。

第六感が告げている、これ以上あの人だかりに近づくなと。

関わったら最後面倒なことに巻き込まれることは間違いない。

行くな僕。

あ、足が、足が勝手に動きやがる!

なぜダメと言われていることをあえてしようとするんだ。

これが人の真相心理か恐ろしや。

僕は人だかりのすき間から中心にいる人物を覗き見る。

くそうっ!なんてこった!

なんでこんなに人がいるのに彼女は僕の瞳をじっと見ているんだ。

彼女は僕を見つけると顔を輝かした。


「周ちゃーん!」


ダレノコトデスカ?


「ちょっとー無視しないでよー」


彼女は人だかりの中心から僕に向かって手をふっていた。

そりゃあもう手がちぎれるんじゃないかって程に。


「何やってるんですか?なっちゃん」


「私、今からまれています。助けてください」


二人のナンパ男がなっちゃんを睨んでいた。


「どうせなっちゃんが余計なことを言ったんでしょう」


「イッテマセンヨ?」


「何で片言になってんですか、バカなっちゃん」


「ひどい!私はこのナンパ男さん達に周ちゃんの素敵さを説いていたところなのよ?」


それが余計だって言ってんだよバカヤロウ。

僕はなっちゃんの方をチラッと睨んでから、ナンパ男達の方を見る。


「すいません。彼女に何を言われたか知らないけど、許してやってください」


僕は横でぶーたれている彼女の代わりに頭を下げた。


「お前バカ?許すはずねぇじゃん。こいつ俺らになんて言ったか分かってんの?」


「なっちゃん。この人たちになんて言ったんですか?」


僕はなっちゃんに諭すように言った。

すると彼女は親に叱られている子供みたいに上目遣いで僕を見てつぶやく。


「顔面凶器…」


…確かに。


「あっ!今周ちゃん、確かにって思ったでしょう」


なっちゃんは鋭かった。

ってか普通この場面でそれ言うか?


「あぁ?」


ナンパ男Aが僕を睨む。


「お前らふざけてんのか!」


ナンパ男Bが片手で僕の襟をつかむ。

そしてもう片方の手でおもいっきり殴った。


僕…まだ何も言ってない…


「ッ!!」


なっちゃんが息を呑んだのが分かった。

殴られた拍子に眼鏡がカラカラと音を立てて地に落ちる。

僕はナンパ男を見て言った。


「気はすみました?」


二人は舌打ちしてただのヘタレじゃねえかと言い放って去っていった。

一発殴っただけで見逃してくれるとは、いやいや最近の不良は心が広い。

横を見るとなっちゃんは目尻に涙をためてこっちを見ていた。


「ごめんね、周ちゃん。ホントにごめんね」


彼女は何度も僕に謝った。


「別に気にしていませんよ」


涙を流して謝る彼女を見て許せないはずが無い。

彼女はふと気づきかばんからピンクの愛らしいハンカチを出して、僕の口の端にあてた。


「ああ。殴られたときに口が切れちゃったんですね」


僕は笑って言った。

それから会話は途切れた。

人だかりが消えてからなっちゃんの手を引いてバスターミナルに向かう。

その間彼女はまだ涙がとまらないようで、何も言わずにうつむいて僕の後に従った。

僕の手を強くつかんで。

家に向かうバスの中でふと思う。

そういえばまだちゃんと挨拶もしてないなぁ。

そして横を見る。

となりに座る彼女はやっと泣き止んだが、目の辺りが赤くさっきまで泣いていたことが丸分かりだ。

ふいに彼女が顔を上げた。

そういえばまだ挨拶もしてないな。ってことは挨拶か?


「ねぇ、なんでやり返さなかったの?」


違った。


「なに?」


「さっき、…なんでやり返さなかったの?」


僕は小学校のころずっと空手をやっていた。

その時の黒帯は確か今も家にあったと思う。

彼女はそれを知っていた。

だから聞いてきたのだろう。


「怖かったんですよ…喧嘩するのが」


そして沈黙。


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