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【強欲】


 学校が終わり、武は家へと歩きながら「ムーンプリンセスの再放送に間に合いそうだね」と言った。異魔人は「今週は封印された魔王の娘とプリンセスが闘うんだよな」と言った。武が「うん!」と答えると、異魔人は「魔王の娘にしてみれば、どんなに悪い親父でも助けたいよな……」と言った。そんな話しをしていると、前をクラスメートの橘美希たちばなみきが歩いているのを見つけた。武が美希に声を掛けようとすると、美希の横に1台のワゴン車が止まった。


 ワゴン車の後部座席のスライドドアが開くと、中から男が降りて来て美希の腕を掴んだ。美希が「何ですか!? 離して下さい!」と言うと、男は「痛い思いしたく無かったら、黙って車に乗れ!」と言った。美希が「嫌! 離して!」と言って抵抗すると、男は美希の口を押さえ強引に車に引きずり込もうとした。それを見ていた武は「橘を離せ!」と言って、持っていた鞄を投げつけた。鞄が男に命中し、男が武の方に振り向くと、既に跳び蹴りの体制に入っていた武の姿が見えた。次の瞬間、武が放ったaliveばりの跳び蹴りが男を捉えた。


 男が崩れ落ちると同時に、腕を掴まれていた美希も引っ張られる様にして倒れ込んだ。それを見ていた異魔人が「あらら……」と言うと、武は「橘ごめん! テレビだと悪役しか倒れないのに……」と言った。男は立ち上がると「痛いじゃねーか!」と言って武に殴り掛かった。武は男の繰り出した左ストレートをかわしたが、次に男の繰り出したボディーへのパンチを喰らってしまった。男は手応えを感じ、武が膝から崩れ落ちる事を想像した。男はボクシング経験が有り、普通の大人でもこのパンチを喰らったら立っていられる筈が無かった。


 男が「さっきのお返しだ!」と言おうとした瞬間、男は脇腹に鈍い痛みを感じた。武のカウンター気味に放った中段蹴りが、男の脇腹を捉えていた。すると男の背後から「誰か! 誰か助けて!」と美希の叫ぶ声がした。男は脇腹を押さえながら、急いでワゴン車へ乗り込むと「出せ!」と言った。車はタイヤを鳴らしながら急発進して、美希と武を残し見る見る小さくなって行った。


 武が倒れている美希に「大丈夫か?」と言って右手を差し出すと、美希は武の右手を掴み「新井君こそ大丈夫なの?」と言った。武が「こんな時の為に日頃から鍛えてるから」と言うと、美希は「こんな目に合うなんて普通考えないと思うけど……」と言って武を見つめた。武が「そう!? ヒーローは何時悪いヤツと遭遇しても良い様に備えるのが普通だと思うけど」と言うと、美希は「ぷっ」と吹き出すと「新井君て本当面白いね」と言った。武が真面目な顔をして「面白い?」と聞き返したので、美希は笑いながら「新井君て強いんだね」と言った。


 武が「それにしても危なかったな」と言うと、美希は「新井君が笑わすから忘れてたけど……」と言って、思い出した様に小刻みに震え出した。武が「もう大丈夫だから!」と言うと、美希は「うん、今になって怖くなってきた……」と言った。武が「帰る方向も一緒だし、送ってくよ」と言うと、美希は「うん、お願い」と言って2人は歩き始めた。


 歩きながら武が「でも誘拐なんて、やっぱり金目当てかな?」と言うと、美希は「家はお父さんいないし、私なんて誘拐してもお金なんて無いのに……」と言った。武が「家も父ちゃんいないんだ、橘の父ちゃんも死んじゃったの?」と聞くと、美希は「私のお父さんは生きてるみたい、近所の人が私はおめかけさんの子だって言われたし……」と言った。武は「お妾さん?」と聞くと、美希は「調べたら、お父さんには家族がいるのにお母さんと浮気して出来たのが私なんだって」と言った。武が「近所の人が橘に言ったの?」と聞くと、美希は「小学生だったから分からないと思ったんじゃない?」と言った。武は「意地悪な大人もいるんだね……」と言った。


 美希の家の前まで来ると武が「お母さん家に居るの?」と聞くと、美希が「まだ仕事から帰ってないと思う」と言った。武が「家までは来ないと思うけど、念のため戸締まりした方が良いよ!」と言うと、美希は「そうだね……」と言った。武が「じゃぁ帰るね!」と言って帰ろうとすると、美希が「新井君!」と言って武を呼び止めた。武が驚いた様子で「どうした!?」と言うと、美希は「あの…… お願いが有るんだけど……」と言った。武が「お願い!?」と言うと、美希は「暫く学校まで一緒に行って欲しいんだけど……」と言った。武が「お願いなんて言うから何かと思ったよ」と言うと、美希は「駄目かな……」と言った。武が「そんな事ならOK! 明日迎えに来るよ」と言うと、美希は嬉しそうに「ありがと」と言った。武が「じゃぁ明日!」と言うと、美希は「明日ね、バイバイ」と言って手を振った。それから翌日も、その翌日も武は美希を学校まで送り迎えした。


 誘拐事件から2日後の夜、夕飯を食べ終えた美希が「ご馳走さま」と言って食器を流しへ運び部屋へ行こうとすると、母の愛美まなみが「大事な話しが有るんだけど」と言った。美希が「何よ、大事な話しって!?」と言うと、愛美は「美希のお父さんの事なんだけど……」と言った。美希が小さい頃に父親の事を聞いて愛美が困った顔をして話しをはぐらかして以来、美希は父親の話しをするのを辞めていた。そんな愛美の口から「お父さん」なんて言葉が出た事に美希は驚き「お父さんが何!?」と言って愛美の向かいに座った。


 美希が椅子に座ると、愛美はどう切り出して良いか悩みながら「美希はお父さんに会いたい?」と聞いた。美希が「急に何で?」と聞くと、愛美は「お父さん病気で、あまり良くないみたいなの……」と言った。美希が「死んじうって事?」と聞くと、愛美は「もうそんなに長くないみたいなの……」と言った。美希が「子供の頃に遊んだきりだし、分からないよ……」と言うと、愛美は「お父さんは死ぬ前に美希に会いたいって言ってるみたい」と言った。美希が「そんな事急に言われたって……」と言うと、愛美は「死んじゃったらもう二度と会えなくなるから、良く考えて」と言った。


 美希は「お父さんてどんな人?」と聞くと、愛美は「美希にはお父さんの事話してないもんね」と言って美希の父親との出会いから話し始めた。愛美は懐かしそうに「美希の事も目に入れても痛くないってくらい可愛いがって、本当優しい人だったのよ……」と言った。それから父親には他に家庭が有る事、美希の他にに成人した娘がいる事、事業に成功してかなりの資産家になっている事などを話した。美希は黙って聞いていたが「私にお姉ちゃんが……」と呟くと、暫く考え込んだ様子だった。それから急に美希は「資産家って!?」と言った。愛美が「お金持ちって事よ」と言うと、美希は「それは分かるけど、私がお金持ちの娘って事?」と言った。愛美が「そうなるわね……」と言うと、美希は「もしかしたら……」と言った。


 美希は「心配掛けたくなかったから言わなかったけど……」と、知らない車に無理やり乗せられそうになった事を話した。愛美は「何でそんな大事なこと言わないの!」と言うと、美希は「クラスの新井君が助けてくれ無事だったし、お父さんがお金持ちなんて知らないもん!」と言った。愛美は「でも美希のお父さんの事は、極一部ごくいちぶの人しか知らないのに……」と言った。美希は「きっと間違えたんだよ! あれから新井君が毎日送り迎えしてくれてるけど、それらしい車見掛けないし」と言った。愛美は「間違えなら良いけど……」と言うと、美希は「暫くは新井君に送り迎えしてもらうから大丈夫、新井君強いんだよ!」と言った。愛美は「何か有ったら直ぐに警察呼ぶんだよ! それと、お父さんの事ちゃんと考えといてね!」と言った。美希は「お母さんが嫌じゃないなら会いたい、出来ればお姉ちゃんにも会ってみたいな……」と言った。愛美は「分かった、だったら先方にそう伝えておく」と言った。


 翌日の朝、武が何時もの様に迎えに行くと美希は家の前で待っていた。武と美希は「おはよ」と挨拶を交わし学校へ向かう途中、美希が「あのね…… 昨日お母さんに、お父さん会ってみたい? って聞かれたんだけど、どう思う?」と言った。武が「俺は子供の頃に父ちゃん死んじゃったからな…」と言うと、美希は「私も子供の頃に遊んでもらった記憶しかないんだけど、お父さん病気らしいんだ……」と言った。武が「病気って悪いの?」と聞くと、美希は「多分……」と答えた。武が「橘は父ちゃんの事恨んでるの?」と聞くと、美希は「お父さんがいたらなと思う事は有るけど、子供の頃に数回会った記憶しかないし、恨んだりはしてないよ」と言った。武は「俺は父ちゃん死んじゃったから二度と会えないし、会わないで後悔する位なら会った方が良いと思う」と言った。美希は「そっか…… そうだよね! ありがと、お父さんと会ってみるね!」と言った。


 その日の夜、美希は早速「お父さんに会ってみようと思うんだけど……」と愛美に言った。愛美が「じゃぁ先方に話すわよ、会うって言って良いのね!?」と念を押すと、美希は「うん」と言って頷いた。愛美はバッグから手帳を取り出すと、携帯で「夜分遅くにすいません……」と電話を掛けた。美希は電話の間、じっと愛美を見つめていた。暫くすると愛美が「では、宜しくお願いします」と言って電話を切ると「日曜は何も予定無いわよね!? 日曜日に会う様にしたから」と言った。美希が「分かった」と言うと、愛美は手帳を破ると「この病院にお父さん入院してるから」と言ってメモを渡した。美希が「お母さんは一緒に行かないの?」と言うと、愛美は「1人でも行けるでしょ!? お母さんはその日用事が有るから」と言った。美希が「でも1人じゃ……」と言うと、愛美は「心細いなら友達に付き合ってもらえば!?」と言った。美希は「お母さんはお父さんに会いたくないのかな…… ?」と思い、それ以上は言わなかった。


 美希は部屋に戻ると「子供の頃に会ったっきりの父親に会うのに、誰誘えって言うのよ……」と呟いた。美希はベッドに横になり、天井を仰ぎながら「友達に母子家庭の理由とか詮索されたくないし……」と考えていた。そして美希は「1人で出歩いて、また誘拐とかされそうになったら…… そうだ! 新井君にお願いしてみよう!」と思った。


 美希は翌朝、武に「日曜日にお父さんに会う事になったんだ……」と言うと、武は「良かったじゃん」と言った。美希は「それでね、新井君一緒に来てくれない?」と言った。武が驚いた様子で「俺が!?」と言うと、美希は「1人じゃ心細いし…… それに、また誘拐されるかもしれないし……」と言った。武が「そっか、狙うのは通学途中とは限らないもんな」と言うと、美希は嬉しそうに「じゃぁ一緒に行ってくれるの!」と言った。武は「肝心な時に助けられないんじゃ、ヒーロー失格だからな!」と答えた。それから武が「でも出掛けるのは10時以降が良いんだけど……」と付け加えると、美希は「お昼過ぎの約束だから大丈夫だけど、何で?」と言った。武が「見たいテレビが……」と恥ずかしそうに言うと、美希は「……なるほどね」と呆れた顔で言った。


 日曜日の朝11時に武は美希の家の前にいた。11時の待ち合わせの筈が、美希はなかなか出て来ない。待ち合わせから5分程待って、武は「時間間違えたかな?」と思いつつも呼び鈴を押すのはなんだか恥ずかし気がして呼び鈴が押せずにいた。すると玄関のドアが開き美希が顔を出した。武が「時間間違えた?」と聞くと、美希は「ごめん! もうちょっと待ってて」と言った。それから10分程して「お待たせ! ごめんね遅くなって」と美希が勢い良く玄関から出てきた。武が「11時で良かったんだよね?」と言うと、美希は「ごめんね、テレビ見てたら用意が遅くなっちゃって」と言った。武が「テレビって?」と聞くと、美希は「アニメ…… 新井君のこと笑えないね」と言った。武が「もしかしてムンプリ?」と聞くと、美希は「うん、もしかして新井君も見てるの?」と言った。武は自慢気に「あの時間帯のアニメは毎週欠かさず見てるよ! ムンプリも最初からSSまで全部」と言った。


 武と美希の2人は、大学病院へ行く間中、歩いている時もバスの中でもアニメの話しで盛り上がった。バス停から病院まで行く途中に公園が有り、美希が「まだ早いし、ちょっと寄って行こう」と言った。武は携帯を見ると「まだ12時過ぎだね、こんな早く着くなら待ち合わせもっと遅くすれば良かったね」と言った。美希は「新井君にはお世話になってるからお弁当作って来たんだ、一緒に食べよ」と言った。武がちょっと驚いた表情で「お弁当作って来たの!?」と言うと、美希は「アニメ見たせいで、これ作るの遅くなっちゃって」と言って公園のベンチに座り弁当を広げて見せた。


 弁当の中身は、おにぎらずにタコさんウインナー、卵焼きにほうれん草のバターソテー等で彩られていた。武が「うまそ〜 !」と言っておにぎらずに手を伸ばすと、美希が武の目の前にウェットティッシュを差し出し「手を拭いてからね!」と言った。武は手を拭いてから、改めて「いただきま〜 す!」と言って、おにぎらずを1口食べると「美味い! これ全部橘が作ったの!?」と言った。美希は「お母さんが忙しい時とか自分でお弁当作るから、これ位なら作れるよ」と言った。武が卵焼きを1口で頬張ると「これも美味! 料理上手なんだね」と言うと、武の頭の中で「良いお嫁さんになりそうだな」と異魔神の声がした。美希は「ありがと、美味しいなら良かった」とちょっと照れくさそうに言った。そして誉められた美希より誉めた武の顔の方が真っ赤になっている事に気付き「暑いの? 顔赤いよ!?」と言って美希は武の顔を覗き込んだ。武の顔は余計に赤くなり、武は「ちょっとね……」と言って美希から視線を逸らした。


 お弁当を食べ終え、武が「ご馳走さまでした」と言うと、美希は「こんな御礼しか思い浮かばなくて」と言った。武が「好きでやってるんだから御礼なんて! でも美味しかった、本当に橘なら将来良いお嫁さんになれるね」と異魔神の言葉を思い出しながら言うと、弁当を片付けていた美希が顔を真っ赤にして「お口に合って良かったです……」と言った。その美希の様子を見て、武は自分の言った台詞を思い出し顔を赤らめた。美希は武から視線を逸らし公園の時計に目をやると「そろそろ行かなくちゃ」と言った。武は「お父さん待たせちゃ悪いよね、橘に早く会いたいだろうし」と言ってベンチから腰を上げた。


 2人は大学病院へ着くとナースステーションへと行き、美希が「すいません、宇賀神さんにお見舞いなんですけど」と言うと、看護婦が「宇賀神さんですか、少々お待ちください」と言って何処かへ電話を掛けた。美希が「名字だけで大丈夫かな? 宇賀神なんて珍しいから他に同じ名字の人なんて入院してないか……」等と考えていると、看護婦が電話を終え「案内しますね」と言った。案内してくれる看護婦の後を歩きながら武は美希に小声で「病室まで案内してくれるなんて、親切な病院だね」と言った。美希も小声で「そうだね」と答えると、病院だから気を遣ってなのか、これから父親に会う緊張からなのか、それから2人は病室に着くまで無言で看護婦の後を付いて行った。


 看護婦はドアの前で止まると、コンコンとノックをしてからドアを開けると「お客様をお連れしました」と言った。美希は「ずいぶん丁寧な人だな……」と思ったが、病室を見て一瞬でその理由が分かった。病室を見て、武は思わず「スゲ〜 !」と言って、慌てて口を抑えた。病室は武の部屋の何倍も広さが有り、大型のテレビに冷蔵庫、ソファーにテーブルも有り、テーブルの上には箱に入った高価なメロンやお菓子が並んでいた。すると車椅子に座った男性が「美希か、良く来てくれたね」と言った。美希が「お父さん!? ですか?」と言うと、男性は「そうだよ、見ない間に大きくなって……」と言った。武が「お爺ちゃん?」と思う程、美希が想像していた父親とは掛け離れていたが、宇賀神から美希の子供の頃の話しを聞くうちに、美希は次第に打ち解けて行った。


 宇賀神が「お母さんは元気かい?」と聞くと、美希は「はい、お母さんとは何処で知り合ったの?」と言った。宇賀神は「お母さんとは……」と話し出すと、愛美との出会いから突然愛美が姿を消した事、後になって妻が愛美に別れる様に頼んだ事等を話した。宇賀神は「お母さんにも会いたかったんだが、きっと妻に遠慮したんだろう…… お母さんに宜しく伝えてくれ」と言った。そこで付き添いの女性が「そろそろ休まれた方が」と言うと、宇賀神は「あぁ、少し疲れたな」と言った。美希は武の方へ振り返ると「じゃぁ、そろそろ帰ろう」と言った。すると宇賀神は「話しに夢中で何のお構いもできなくてすまないね、お友達はメロン好きかな?」と言った。武は病室に入ってから全く声を掛けられず「自分の事に気付いて無いのかな……」と思っていた所へ突然声を掛けられ「あ、はい……」と驚いた様に返事した。宇賀神は「良かったらそこに有る物、欲しいだけ持って行きなさい」と言った。武と美希は、メロンと高級そうな箱に入ったチョコやクッキーをお土産に貰い病室を後にした。


 武と美希が病室を出ると、ドアの前で香水のキツイ女性と出くわした。美希が軽く会釈をして女性の横を通り過ぎ様とすると、女性は「もしかして美希さん?」と声を掛けて来た。美希は立ち止まり振り返ると「何処かで会ったかな?」と女性の顔を確認しながら「はい、そうですが……」と返事をした。女性は「やっぱり! 私は宇賀神の娘の深雪みゆき、貴方とは腹違いの姉妹になるわね」と言った。美希は「あ! 初めまして、橘美希です」と緊張した面持ちで言った。深雪が「お父さんのお見舞い?」と聞くと、美希は「はい」と答えた。深雪が「良く来るの?」と聞くと、美希は「いえ、今日が初めてです」と答えた。深雪は「そうなんだ…… 立ち話もなんだし中に入らない!?」と言った。美希が「お父さん疲れたみたいなので……」と言うと、深雪は一瞬眉間みけんしわを寄せ「そうなんだ…… じゃぁ送って行くわ」と笑顔で言った。美希が「そんな悪いです、それにお父さんのお見舞いに来たんですよね…… ?」と言うと、深雪は「疲れてるなら休ませてあげたいし、遠慮しないで」と言った。


 美希が「友達も一緒なので、私達はバスで……」と言うと、深雪は武の方を見ると「そうだ! 君はこの後何か用事ある?」と聞いた。武は急に話しを振られ焦りながら「これと言って……」と答えると、深雪が「美希さんは?」と言った。美希も「特に用事は無いけど……」と答えると、深雪は「じゃぁお茶しよう!」と言った。美希が武を見て「どうする?」と言うと、武は「橘が行くなら俺も付き合うよ」と言った。すると深雪が「じゃぁ決まりね!」と言って何処かへ電話を掛けた。


 武と美希は、深雪の後について病院を出ると、病院の前にはボンネットに羽の飾りの着いた白い車が止まっていた。その車の運転手は深雪の姿を見ると、車を降りて後部座席のドアを開けた。すると深雪が美希達に「どうぞ、乗って」と言った。武は深雪が運転する車で送ってくれるのだと思っていたので「この車に!?」と言った。深雪は「そうよ、さぁ乗って乗って!」と言った。美希が車に乗り込むと、ソファーの様なシートがL字型になっており「これって何処に座れば……」と言うと、深雪は「好きなとこに座って」と言った。とりあえず美希は奥のシートに運転手に背を向ける型で座り、武は後部ドア側に背を向ける型で座った。深雪は後部ドアを入ると右手にも有るシートにトランク側を背に座ると「出して」と言った。美希は「これってシートベルトしなくて良いのかな…… ?」と思ったが、深雪がシートベルトをしないのを見て聞かない事にした。


 車が走り出し病院の出口を武達が来た方とは反対方向に曲がったのを見て、武は「これって駅とは反対方向じゃ!?」と言った。すると深雪は「ちゃんと送って行くから大丈夫よ! 私のマンションが直ぐ近くだから、そこでお茶しましょ! その方がゆっくり話せるし」と言った。美希が「あまり遅くなるとお母さんが心配するので……」と言うと、深雪は「そうよね、あんまり遅くならない様にしなくちゃね」と言った。


 車がマンションへの前に着き、武達が車を降りると、深雪が運転手に何やら話し車はそのまま何処かへ走って言った。武が「車行っちゃったけど……」と言うと、深雪は「マンションの駐車場じゃリムジンだと大き過ぎて止まれないのよ」と言った。武と美希は「なるほど……」と納得し、深雪の後に着いてマンションに入ると中には広々としたエントランスが有り、そこを抜けエレベーターホールへと歩いた。エレベーターが到着し武と美希がエレベーターに乗ると、後から乗った深雪が最上階のポタンを押した。そのエレベーターは武と美希が今迄に乗ったどのエレベーターよりも静かだった。エレベーターは直ぐに最上階へと到着し、深雪に案内されるまま着いて行くと、まるで一戸建ての様な門を抜け玄関へとたどり着いた。武と美希は珍しい物でも見る様にキョロキョロと見回した。それは深雪が「どうぞ入って」と言って中に入ってからも続いた。


 深雪に通されたリビングは、武の家と同じ位の広さに感じられ、武は思わず「キャッチボール出来そう」と言った。深雪は笑いながら「遠慮しないで適当に座って」と言った。しかし深雪が笑顔だったのはここまでだった。深雪は美希と武がダイニングテーブルに座るのを待つと「美希さん、貴女にはパパに会って欲しく無かったのよね!」と言った。美希は豹変した深雪に驚き言葉を失なっていると、深雪は「今更になってパパの娘ですなんて言われても、こっちとしては良い迷惑なのよ!」と言った。すると武の頭の中で異魔神が「この女から悪意の臭いがプンプンする! とりあえず橘を逃がせ!」と言った。武が「橘、帰ろう!」と言って立ち上がると、深雪は「それは駄目よ! これにサインする迄帰さないんだから!」と言って持っていた紙の上からテーブルを叩いた。その紙には誓約書とあり、相続する全ての財産を放棄するとの内容だった。


 美希が「そんな事急に言われても……」と言うと、武は「良いから帰ろう!」と言って美希の手を引っ張った。玄関へと向かう2人の前に「あんたは関係ないんだから引っ込んでな!」と言って、包丁を持った深雪が立ちはだかった。武が美希を背に庇いながら「とりあえず落ち着いて」と言うと、深雪は「邪魔すると容赦しないよ!」と言った。深雪が「大体あの馬鹿が拉致に失敗しなければ、私がこんな事しなくても良かったのに……」と言うと、武は「まさか橘を誘拐しようとした……」と言った。深雪が「まさかあの時邪魔に入った男ってのは、お前だったのか!?」と言うと、武は「あれはあんたの差し金だったのか!」と言った。深雪は「こんな中学生に邪魔されるなんて、本当使えない男ね」と呆れた顔で言った。美希が「でも何の為にそんな事……」と言うと、深雪は「パパが弁護士に50億の資産の半分以上を遺産としてあんたに譲渡するなんて言い出したからよ!」と言った。美希が「そんな話し……」と言うと、深雪は「本当迷惑な話しよね! 10年近くも放ったらかしにしてたんだから、そのまま放って置けば良いのに、病気して気が弱くなったのか急に親心なんか出しちゃって」と言った。


 武が「そんな事の為に……」と言うと、深雪は「良いからあんたはそこ退きな!」と突き出した包丁を左に降り「あんたはそれにサインして!」と包丁で美希に指図し2人に詰め寄った。武と包丁の距離が短くなり、武は目の前に差し出された包丁を一気に蹴り上げた。包丁は宙を舞い床へと転げ落ち、深雪は腕を抑え「糞ガキが!」と言って、武を睨み付けた。その隙に、武は美希の手を引き深雪の横を走り抜け様とすると、深雪は美希の手を掴み「逃がさないわよ!」と言った。武は直ぐさま深雪に体当たりをすると、床へと倒れ込んだ深雪の顔は見る見る赤くなり、徐々に狐の化け物へと変化して行った。美希は深雪の毛むくじゃらの姿を見て「キャ〜!」と悲鳴を上るとほぼ同時、武の頭の中で「aliveに変身だ!」と異魔神の声がした。


 武は「imageingイメージング aliveアライブ」と叫ぶとユニコーンが現れ、ユニコーンの角から放たれた光が武を包むと、次の瞬間武はaliveへと変身した。体を丸め怯えている美希に襲い掛かろうとする化け物に「お前の相手は俺だ!」と言ってaliveの放った飛び蹴りが炸裂した。その声を聞いた美希は「新井君なの…… !?」と言ってaliveを見た。aliveは化け物と格闘しながら、美希に「橘! ここは危ないから逃げて!」と言った。aliveは化け物と格闘を繰り広げ、優勢になった所で必死技wrath of heavenラス オブヘブンを放つと化け物は光りに包まれ、次の瞬間細かい光りの泡が宙を舞い、その光の中から深雪の姿が現れた。


 武がaliveの変身を解くと、深雪が我に返り辺りを見回していた。武が「成功したみたいだな」と言うと、異魔神は「何が成功なんだ?」と聞いた。武は「必死技の威力が強すぎるみたいだから、威力を弱めるイメージしてみたんだ」と答えた。異魔神が「悪意を倒して人間の姿に戻っても病院送りだったからな」と言うと、武は「養豚場のおばさんも意識が有れば死なずに済んだかもしれないし……」と言った。異魔神は「本当に武は優しい奴だな」と言った。武は思い出した様に「橘は!?」と言って美希を探すと、美希はキッチンの方でうずくまっていた。武が美希に駆け寄ろうとすると、後ろから体当たりされる様な衝撃があった。武が前のめりに倒れ込むと、そこには包丁を持った深雪が立っていた。意識を取り戻した深雪が包丁を拾い、武を背中から襲ったのだ。異魔神はその光景を目の当たりにし、月読を失った時の事が頭を過り深雪への怒りに我を忘れた。異魔神は思わず武のDバッグから飛び出し武に駆け寄ろうとした時、異魔神の意に反してユニコーンが出現した。異魔神は武に気を取られその事に気付かずにいたが、現れたユニコーンの角は黒く染まっていた。その黒色が角から徐々に全身へと浸食し、やがて真っ白だったユニコーンの体が真っ黒へと変わった。黒くなったユニコーンは苦しそうにいななくと、黒い煙りの様な物を吐き出した。

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