【暴食】
武は朝7時からテレビの前に座っていた。武は膝の上に、パンクな兎の縫いぐるみを抱えていた。日曜の朝は、決まって異魔人と一緒に子供番組を見るのが習慣になっていた。
子供番組が終わる頃に母の智美が起きて来て「おはよう」と言った。日曜の朝は、朝ご飯を作っても武は見たい番組が終わるまで食べないので、智美もゆっくり寝るのが習慣となっていた。
智美は「また縫いぐるみと一緒に見てたの? 最近何処へ行くのにも一緒ね」と言った。武が「やっぱ縫いぐるみ持ち歩くなんて変かな?」と言うと、智美は「側から見たら変かも知れないけど…… 自分が良いなら構わないんじゃない!?」と言った。武は「息子が縫いぐるみ持ち歩いていて、母さんは恥ずかしくないの?」と聞くと、智美は「何で恥ずかしいの? そんな事よりご飯作るね」と言ってキッチンに向かった。
武が食事が出来るのを待ちながらテレビを見ていると、シグマ家具の社長である健太郎が株主総会での出来事についてインタビューを受けていた。武が「気を失っていてaliveの姿は見てなかったのか…… 良かった」と言うと、異魔人が「良かったと言う割に残念そうだな」と頭の中に話しかけて来た。武は「aliveの存在は知られちゃ困るけど、aliveの活躍を誰も知らないのも……」と言った。異魔人は「複雑な気持ちも分からないでは無いが、人知れず平和を守るのがヒーローなんだよ」と言った。
武と異魔人がそんな話しをしていると、テレビでは浮浪者が次々と姿を消しているとの話題に変わっていた。武が「熊の悪意に取り憑かれた人は大丈夫かな?」と言うと、異魔人は「また悪意の仕業じゃなければ良いが」と言った。そこへ智美が「ご飯出来たわよ」と食事を運んで来た。武と智美が食事をしながらテレビを見ていると、養豚業を営む女性がインタビューを受けていた。インタビュアーが「どんな餌を与えてるんですか?」と聞くと、女性は「それは企業秘密です」と答えていた。智美は「あら! 岩崎さんとこの奥さんだわ!」と言った。武が「知ってるの?」と聞くと、智美は「ご近所さんよ! そう言えば最近旦那さん見ないわね……」と言った。
それから数日が経ち、武が何時もの様にパトロールで河原を通り掛かると、見覚えのあるロゴの付いたトラックを見かけた。武は「あの豚のマークって、この前テレビで見たやつだよね!?」と言った。異魔人は「武の母さんの知り合いとか言ってたやつか」と言った。武が河原の方を見ると、テレビで見た岩崎信恵と男性が何やら話しをしていた。武が「やっぱり岩崎さんて人のトラックだ!」と言うと、異魔人が「一緒に居るのは悪意に取り憑かれた男じゃないか!?」と言った。良く見ると信恵の向かいに居るのは、あの熊の化け物になった斉藤和也だった。
2人はトラックの方に歩きながら、和也が「本当に雇って頂けるんですか?」と聞くと、信恵は「人手が足りなくて困ってるのよ、3Kだけど大丈夫?」と言った。和也が「3Kって?」と聞くと、信恵は「臭い、汚い、キツイって意味」と言った。和也は「雇って頂けるならそれくらい! 結婚したい人がいるので頑張ります!」と言った。
武が「あの人岩崎さんの所で働かせて貰えるんだ」と言うと、異魔人が「匂うぞ!」と言った。武は慌てた様子で「僕じゃないよ! 多分あの豚運ぶトラックからだよ!」と言った。異魔人は「その臭いじゃない! 悪意の事だ!」と言った。武が「悪意がいるの? 近い?」と言うと、異魔人は「あのトラックの方だ!」と言った。武は「あのトラックの方には2人しか…… 熊の悪意は倒したし……」と言った。武と異魔人が話している間に、信恵と和也はトラックに乗り込んでいた。異魔人が「2人の他に誰かトラックに乗っているかも知れない」と言うと、武は「とにかくトラックを追いかけよう!」と言った。
武は自転車で走り出したトラックの後を追った。やがて肥料の様な臭いが鼻につくと、トラックは門の中へと入って行った。武は門の所で自転車を降りて中を覗くと、広い敷地に倉庫の様な大きい建物が見えた。信恵と和也の乗ったトラックは、その建物の前に止まった。信恵がトラックから降りて建物の大きな扉を横へとスライドさせると、中からへ豚の鳴き声が聞こえて来た。和也もトラックから降り、信恵と和也は倉庫の中へと入って行った。
和也は倉庫へ入ると「それで俺は何をすれば良いんですか?」と言った。信恵は「豚の餌が足りなくて困ってるの」と言った。和也が「豚に餌をあげれば良いんですね? 餌は何処ですか?」と聞くと、信恵は「眼の前に有るわよ」と言った。和也が「眼の前って…… ?」と言うと、信恵は「私の眼の前よ!」と言った。和也は「岩崎さんの眼の前には俺しか……」と言った。信恵は「あんたみたいのが生きてたって何の役にも立たないんだから、死んで人の役に立ちなさい」と言った。和也が「岩崎さん冗談キツイですよ……」と引きつった笑顔で言うと、信恵は「冗談なんかじゃないわ! あんたを食べて育った豚を皆んなが美味しいと言ってくれるのよ! 最後に人の役に立てるんだから感謝しなさい!」と言った。
遡ること半年前、信恵と旦那の弘志も豚小屋の同じ場所に立っていた。弘志は豚の世話は信恵に任せ、自分は毎日パチンコ屋へ通っていた。その日弘志は豚小屋に顔を出し「パチンコ負けちゃってさ〜」と言って信恵に小遣いをねだりに来た。すると信恵は恐い顔でパンツの後ろポケットから督促状を取り出すと「これは何!?」と言った。弘志が「それは……」と言葉を詰まらせていると、信恵は「200万も借金して返せるの!?」と言った。弘志が「いやぁ……」と言うと、信恵は「何回同じ事繰り返せば気が済むのよ!」と言った。弘志がその場に土下座して「すまん!」と言うと、信恵は「そうやって謝れば済むと思って…… 200万稼ぐのにどんだけ働けば良いか分かってるの!?」と言った。弘志が「本当にすまん!」と言うと、信恵は「自分は働きもしないで!」と言った。
信恵は近くに有ったスコップを握ると、弘志の頭目掛け思い切り振り下ろした。弘志は頭から血を流し、土下座の姿勢から崩れる様に横倒しになった。信恵は我に返り「あんた!」と弘志の体を揺さぶるが、既に息絶えていた。信恵は暫く放心状態だったが「死体を隠さなきゃ……」と呟いた。信恵は弘志の死体を動かそうと立ちあがり「でも何処に隠せば……」と呟いた。信恵はまた怒りが込み上げ「死んでまで迷惑掛けないでよ!」と言って弘志の死体を蹴った。
信恵は「運び出すにしても夜まで待たないと、それまでは……」と呟くと弘志の死体を隠す為、豚が居る柵の中へと引きずり込んだ。信恵は「こんな重い物1人で運べるかしら…… 何処に埋めるにしてもトラックが必要ね……」と言うと、ふらふらと豚小屋を出て行った。信恵はトラックの運転席に乗り、暫くは呆然としていた。やがて落ち着きを取り戻した信恵は「埋めるのにスコップは豚小屋に有るから、ブルーシートとロープ、それに台車も必要ね!」と言うと、トラックから一旦降りて必要な物を取りに行った。
信恵は台車にブルーシートとロープを乗せトラックまで戻ると、それをトラックに乗せ、トラックを豚小屋まで動かした。豚小屋の入り口にトラックを止め、弘志の遺体の側に居たくなかったのか、夜が更けるまで運転席で過ごした。弘志との生活を振り返っていた信恵だったが、夜も更けたころ重い腰を上げトラックを降りた。豚小屋の扉を開け、豚が居る柵へと近づくと、信恵は「なんて事……」と言った。そこに有った弘志の死体は原形を留めておらず、豚が弘志の死体を漁っているのを見て、信恵は我慢出来ずにその場で吐いた。信恵は吐きながら「死体を捨てる危険を冒さなくても、このまま放って置けば豚が綺麗に片付けてくれるかもしれない!」と思った。信恵の考えは的中し、弘志の死体は豚が綺麗に片付けてくれた。信恵は警察で弘志の失踪届けを出し、何事も無く4ヶ月が過ぎた。弘志の死体を食べた豚の出荷が終わると、信恵の罪悪感も消えていた。
信恵が何時もの様に仕事をしていると携帯に着信が有り、信恵は「問屋さんだわ! もしもし……」と電話に出た。電話の向こうで問屋の男性が「もしもし、この前納品された豚の件なんだけど……」と言った。信恵は弘志の死体を食べて育った豚だとピンと来て「何か有りました…… ?」と恐る恐る聞いた。問屋の男性が「餌とか変えた? この前の肉が偉い評判が良くて!」と言った。信恵は弘志の殺害が暴露たのでは無いと分かると「試験的に餌を変えてみたんです」と問屋の男性に話しを合わせた。
信恵にとって嬉しい誤算だったが、問屋の男性は信恵を訪れると「今後もあの豚をお願いしたいんだが……」と依頼した。信恵は「あれは餌代が高くてコストが…… あれと同じ物は今後も厳しくて」と断った。問屋の男性は「だったらブランドポークとしてコストに見合う価格で売り出そう!」と言った。信恵は「少し考えさせて下さい」と言った。問屋の男性が帰ってから信恵は「あれは旦那を餌に育った豚、どうしたら……」と言って暫く考え込んだ。信恵は「あんな生きてる価値も無い旦那ならまだしも人を豚の餌にするなんて……」と呟いて、はっとした様に項垂れていた頭を上げると「そうよ! 生きてる価値の無い人間なら!」と言った。
それから信恵は、浮浪者に「仕事を手伝ってくれない? 手伝ってくれたらご馳走するから」等と言って騙しては豚小屋に誘い込み殺害を繰り返していた。そして運が悪い事に和也が今回のターゲットとなってしまった。安定した仕事が有れば恋人の美保を迎えに行けると、期待に胸を膨らませていた和也だったが、信恵に罵倒され「何を言い出すんだ!? 仕事じゃないなら俺は帰る!」と言った。信恵は「あんたには豚の餌になってもらわなきゃ困るのよ!」と言うと、信恵の体はモコモコと膨らみ豚の化け物へと変化した。化け物を目にした和也は「うわぁー!」と叫び声を上げると、情け無い事にその場で意識を失った。
叫び声を聞いた異魔人は「不味い、悪意の気配が強くなった! 武、変身だ!」と言った。叫び声を聞いたと同時に走り出していた武は「imageing alive」と叫んだ。aliveへと変身した武が豚小屋の扉を開けると、化け物が和也に襲いかかろうとしていた。入り口から化け物の方へと走り、そのままの勢いでaliveは化け物にキックをお見舞いした。化け物は「誰だ! 勝手に入って来て!」と言ってaliveに襲い掛かり、化け物とaliveの格闘が始まった。化け物との格闘を繰り広げ、化け物が怯んだ瞬間「wrath of heaven」と叫びながら必殺技を放つと化け物は光りに包まれ、次の瞬間細かい光りの泡が宙を舞い、その光の中から信恵の姿が現れた。
武が「終わったね! なんか悪意が弱くなってる様な…… aliveが強くなったのかな!?」と言うと、異魔人は「俺が元の力を取り戻してるせいか…… ?」と言った。すると背後から和也の「馬鹿にしやがって!」と言う声が聞こえた。武が振り向くと、いつの間にか気が付いた和也が信恵に向かってスコップを振り下ろしていた。和也の振り下ろしたスコップは信恵の頭に突き刺さり、和也はガクッと膝をついた。
異魔人は「これであの男も刑務所行きか…… これで良かったのかも知れないな」と言った。武が「何で!?」と聞くと、異魔人は「河原で飯の心配して暮らすより、刑務所なら飯の心配もしなくて済むだろ」と答えた。武は「刑務所入ったら出て来れないかも知れないんだよ! やっぱり人殺しは駄目だよ!」と言った。




