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死と、少し不思議な現象  作者: 夜月 緋楼
不思議な現象
9/9

来世でも

 私は、プロポーズされたときの写真を眺めていた。指輪を嵌めてもらってから、彼がカメラを向けた。私の顔はボロボロだった。涙が溢れて、全く止まらなくなって。

「ふふ」

 思わず笑いが零れた。そんな彼は、私よりも少し先で、愛娘と走っている。

「真音(まこね)!そんなに走るな!危ないぞ!」

「大丈夫だよー、お父さんが追い付いてくれるもん!」

 彼は、娘の為に怒ってくれるようになった。もちろん、愛娘に対してだけではない。妊娠中だった私が無理をしようとしたときも、義母が私に変な扱いをしようとしたときも。あのときの、カラオケ屋で初めて会った彼とは、大違いだった。

 それがなんだか、悲しくも思えた。あのときの彼とは全然違くて、成長と思いたくても、やっぱり戻って欲しいなとも思って涙が出る。

「亜弥?どうした、置いて行ったから寂しくなったのか?」

「え?」

 いつの間にか、真音を捕まえて息を切らした零合が目の前にいた。私は涙を拭って、違うと微笑んだ。彼は口を突き出して、真音に何か呟いた。すると、真音が笑顔になって。

「まま!ほんね、いわなきゃ!」

 私はぽかんとした。真音には、私の体質は分かっていない。ただ、涙が出るのは悲しいからという認識なだけ。私は零合にだけ本音を耳打ちで話した。つーっと、温かいものが頬を伝う。拭ってくれたのは、真音だった。

 真音という名前は、彼がつけてあげたいと言った名前だった。真実の音と書いて、真音。私のような、本音を隠さないで、真っ直ぐな子に育って欲しいという願いからだった。私は、断るわけは無かった。彼が一方的に決めたわけでもない。私も、そんな名前が良いと思っていたから。

「真音、ちゃんとママとパパと歩いて行こうね」

「うん!」

 私は真音の左手を優しく包み込んだ。零合も、もう片方をぎゅっと握る。これからも、彼と歩んでいく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 月に一回、僕は教会に足を運ぶ。決まって誰もいないけれど、僕はそっちの方がよかった。ふと、不器用に指を絡めて祈る。

「お父さん、今日も来ました」

 僕はそう伝えると、膝立ちから立ち上がる。向かうのは、教会の裏にあるお墓が並ぶ場所だ。そこには、父と母の墓がある。今時珍しい、土葬の僕の家。最近掘り起こされた痕跡がある。近々、母が亡くなった。会社で忙しくて帰れなくて、そんな理由を盾に母が危篤という現実から逃げてしまった。

「…お母さん、ごめん。お父さんと、二人きりで良かったね」

 その言葉に、きっとお母さんは微笑んでくれない。お父さんは、優しく笑うだろうけど。お父さんは、僕がいるときは機嫌が悪かった。リビングで宿題をしていれば、自分の部屋に戻れと言われて。一緒に料理をしていれば、そんなことお父さんに任せればいいと言って。お母さんに触れようとすると、僕を引き剥がした。

 お父さんは、お母さんが大好きだった。そのことを、学校で作文にしたこともあった。でも、周りの親はひそひそと声を立てて。僕は、異常なことに全く気付いていなかった。

「お父さん、僕は当分、そちらに行かないので」

 僕はそう言って、花を添えて手を合わせた。まだ、行くところがある。お墓に一礼してから、少しだけ奥に進む。あるのは、こじんまりとしたお墓。

「大剛さん、来たよ」

 僕はほんの少し豪勢な花束を添えた。こじんまりとした墓には似合わないくらいの、花束を。

 大剛さんは、僕が退院してから数週間後にこの世を去った。久々に休暇が取れて会いに行けば、現場に立ち会ってしまった。女房がいないと言っていた大剛さんのベッドには、看護師と医師だけが、立っていた。僕は思わず進んでベッドの縁に立った。彼は、まだ生きているように見えた。でも、電子音は途切れず、時報のような音を出していて。

「大剛さん」

 そう呟いたとき、僕はもう、支えてくれる人が、返事をしてくれる人がいないことを、酷く痛感した。仕事をしていないと気が済まなくて、相談に乗っていないと、不真面目な自分が出てきてしまいそうで。良い意味でも、悪い意味でも、前の自分にはどんどん、戻れなくなっていった。

「僕、ちょっとは大人になれましたよ。全部、大剛さんのおかげです」

 お墓をそっと撫でると、返事をくれた気がした。彼はまだ生きている。そう思いたい、そんな心を自覚するたびに、僕は、まだ子供だと思わざるを得なかった。

「また来ますね」

 お墓に背を向けた僕は、背中に温かいものを感じた。きっと、大剛さんが抱きしめてくれていた。

これで完結となります。

最後は駆け足になってしまい、「この伏線は?」「同じこと何回も言い過ぎてわけわからん」そんな文章もあったと思います。

この作品は、僕が初めて最後まで仕上げた作品です。今まではアイデアが思い浮かんでも、途中まで話を書いて、諦めてしまっていました。

これは、その怠惰から抜け出した第一号の作品です。これからも全く更新をしないこともあれば、急に書くことがあるかもしれませんが、良かったらまた目を通してくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
 面白く拝見しました。  特に「不思議な現象」の章については、それぞれの日常的なエピソードの中で起きたほんのきっかけによって(少年がひったくり犯を追っかけるのはやや非日常的ですが)、登場人物たちがほ…
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