2話 異形の化け物
「────グオオオオォォォォォォォン!!」
二回目の咆哮によって、弱った鼓膜に再度衝撃が加わる。耳の痛みと威圧感は、焦る俺を委縮させるには十分な強さだった。
ゲームで見た『人食いトロール』をグロテスクにしたような見た目の化け物は、木の棒を片手に持っている。木の棒というよりは、木の幹だな・・・。
森の守り神とかだったら謝れば許してもらえるだろうか。まあ森の守り神なら動物が逃げるのは不自然だし、こちらを向いてよだれを垂れ流しているアレがそうならここは地獄か何かだろう。
思考する俺を眺めながら、トロールは片手で木の幹を振り上げ───
──俺のほうに振り下ろす───!!
「あっっぶねえ!!」
───ドゴオォォォォン!!
地面から体に衝撃が伝わる。
俺の身体も頑なに死を拒んだようでギリギリ避けられたが、委縮して動かない体にかじかんだ手、視界もかなり悪い。
(こいつはシャレにならないぞ・・・・・・だぁぁ畜生!!)
再度木の幹を振り上げたトロールに顔を歪めつつ、今度は振り下ろす少し前に横に走りだす。
すぐにトロールの目がこちらをギョロリと睨み、木の幹を振り下ろす!
(なんとなくだが・・・ここだ!!)
大きく踏み込んだ足で即座に方向転換、走ってきた道のりに飛び込む──
────!!
地面をバターのようにえぐる幹、衝撃波と音は、二度目であろうと慣れるわけがなかったが、生憎あの痛みは二度と味わいたくないものだ。俺は感覚を研ぎ澄ませ、攻撃の回避に全神経を注ぐ。
もう一発も───避けれたか・・・!
こいつは振り下ろす直前までの動きを予想して幹を振り下ろすようだ。振り下ろすのを確認してから避ければ、安全に避けれる!・・・が、
「こんの野郎、一撃食らったらお陀仏の攻撃をポンポン打ちやがって・・・!」
なにかイレギュラーがあれば死んでしまうわけで、当然怖いし、ゲーム感覚では戦えない。
ドオォォン!ドゴオォォン!と森に轟音がこだまする中で、俺は化け物やら恐怖やらから全力で逃げていた。
「静まりかえった森の中でこんな大きな音立てて!!近所迷惑でしょぉが!!」
非現実的な状況でハイになって、意味不明なことを叫んでしまった。叫んだら俺も近所迷惑だろう。まあ一応威嚇の意味もあったんだが、よほどお腹がすいているのか、あきらめて帰る気配はない。
と思った矢先、俺の言葉に反応した化け物は興奮し、新しい攻撃をくりだしたようだ。
「いや、近所迷惑って言ったけども!!」
大ぶりの横なぎ。
ブオォン、と幹が空を切る。トロールが横向きに幹を振った風圧で大きめの石が吹き飛んでいったのを、映画で習った避け方をしながらも確かに見た。
森を抜ければ動きやすくなると思い、さっきから(多分)平原のほうに逃げながら戦っているが、まだ抜けないみたいだ。横なぎは非常に避けずらいので、開けた場所には行かないようにしているが、必然的に、木が多く足場が悪いところを進まざるをえないわけで、かなり神経をつかう。
しばらく無我夢中で木々の隙間を駆け抜けていると、小動物の姿がぽつぽつと見え始めた。森の動物が森から出られないとすると、動き方的に、もうすぐ平原につく可能性が高いと考えられる。
次の攻撃を避けたあたりで、森の出口がみえた。
希望が見えたぞ!このまま突っ切る!
俺は一気に走る速度をあげ──
「嘘だろぉ!?」
盛大に躓き、顔から転倒する。
畜生・・・ここにきてズッコケとか冗談じゃないぞ!誰もこんな展開期待してな───
「──いや、悪いのは俺か・・・。」
コンディションは元々良くなかったのに、油断してしまった。
トロールは立ち止まり、不気味な笑みを浮かべた。
たまたま避けれていただけなのに、自分は強いと思い込んだ。
トロールは舌なめずりをしながら木の幹を振り上げ──
「はぁ、自惚れ癖。こっちに来ても変わんなかったなぁ。」
──目の前が真っ白になり、思わず目を閉じる。
ってか、眩しっっ!?これ、光!?
光が収まっていく中で俺が見たのは、宙に浮かび飛んでいくトロールの首と、
細い剣を振りぬき、淡い茶髪を風になびかせた、
一人の少女だった。




