ディランVSサウス
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【雷鎧】の動きに反応できる者にはもう何人も出会った──とディランは頭の中でこれまで経験した戦闘を再現してみた。
電気を纏い、基礎能力を上昇させた状態で主に体術のみの接近戦で戦う。これがディランのバトルスタイルだ。
それに有効な対処法は大きく分けて二通り。
一つはコフのように遠距離系の技でひたすら攻め続け、燃費の悪い雷鎧のガス欠を待つこと。
もう一つはマルコ兄弟みたく、それ以上のスピード、パワーを出して無理矢理力でねじ伏せるかである。
当初のディランの予想通りサウスは前者だった。
「こりゃあ油断して近づくと一気に焼け焦がれちまうな」
地面を割って飛び出してくる電気の刃。サウスに接近すればするほどその数が増え、しまいにはサウス自体が見えなくなるほど強大な防御壁へと化す恐ろしい技だ。
それはまるで空からの──ではなく、地中からの落雷そのもの。
ここからどう戦いを展開していくか、ディランは様々なシチュエーションを想定しながら作戦を練っていた。
その表情には悩んでいる様子など見受けられない。今この瞬間を楽しんでいるかのような純粋な瞳でサウスを見据える。
「──よし」
ディランが自分の手で太股をバシッと叩き、気合いを入れ直した時だった──。
サウスが右手をふらっと上げ、五本の指先を伸ばしたままディランに向けた。
──何だあの構え、あいつにあんな技あったか?
手首から指にかけて白く発行した電気が音を立てて帯びていく。
──あれはヤバい……!
電網
迅雷剣
刹那の光が拡散する輝きと共に、サウスの指先から白い電気だけが光のごとく刀に形を変え、ディランに届く範囲まで延びると一直線に振り下ろされた。
目の前で何重にも張り巡らせた【電網】は最早時間稼ぎにすらならなかった。
「ぐっ……!」
【雷鎧】を使用していたというのに、迫りくる切っ先を目で捉えることは不可能だった。
思いっきり横に跳んで地面に転がり、何とか直撃だけは免れたようだ。
それでも左半身の一部は制服が電気によって破れ落ち、腕から鮮血が流れ出ている。痛みを痛みで誤魔化すかのように、ディランは自分の左肩を力強く握った。
「サウス……もし今の避け切れていなかったら、俺は確実に死んでいたぞ」
全力といっても限度があるだろう──とディランはサウスに訴えかける。ディランにとってはこれは手合わせの延長線のようなもの。何よりも、驚きを隠しきれなかった。
「そうか……それだけの傷ですんだか。どんな反射神経してんだよ全く…………」
ディランの声が届いていないのか、サウスは苦笑しながらブルブルと身体を震わせていた。それは驚愕というより焦りに近かった。
「……お前何か変だぞ。本当にサウスか……?」
普段と様子が異なる友人に不信感を抱き始めたディラン。
少なくともディランの知るサウスは先を考えずに無茶なことをするほど頭が悪いやつではない。
「今回は俺の勝ちでいいだろ。またいつでも相手してやるからよ、今はゆっくり休んだ方がいいと思うぜ」
集中が途絶えたディランが心配そうな面持ちで、滝のように流れ出ている汗を拭いながら短い呼吸を繰り返すサウスに近づいて行った。
──やっぱりあの技は元の体力の限界を超えていたのか。
さっきのような大技は体力の消費量が並大抵ではない。恐らく自分でも放てないと、ディランは小さく首を横に振った。
「ほら、立てるか?」
そしてサウスに歩み寄ったディランが、手を差しだそうとすると──
「悪いなディラン……俺はどうしても……」
【迅雷剣】
──何が起きたのか全く分からなかった。
ディランが最後に目にしたのは、口から血を吐いて憎悪の瞳を宿したサウスの顔だった。




