作戦会議
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ここは翠玉の森から遠く離れた
狭くて暗い、コウモリすら寄り付かない洞窟の中、灯りの乏しい蝋燭の周りに五人の人物が座っていた。
「まあ一応二人とも無事だったわけだけど……」
話を切りだしたのは一人の白いパーカーを着た男だった。目にかかる前髪を少し邪魔そうに持ち上げ話を続ける。
「次どうするのかはもう決めているのかい? ユーリッド君?」
蝋燭を挟んで向かいに座るユーリッドは目線を落としてやや考えた後、顔を上げた。
「奴らが今どこにいるのか分かるのか?」
それに対して「もちろんさ」と言って再び口を開くパーカーの男。
「ルーブ村というかなり小規模な村にいるよ。多分今頃治療していると思うな」
「よし、じゃあ今からそこに行くぞ!」
と吠えるなり勢いよく立ち上がったのはツンツン頭が特徴のコフ。
「行ってどうするんだ。あそこにはあの‘光速移動’やろうもいるんだぞ」
ユーリッドが呆れた表情を浮かべながらコフを睨みつける。
「そこが問題なんだよね。ゼロ君を傷つけたら出てくるっていう都市伝説が本当だったとは……。まあでも大丈夫。あの人は僕に任せて。何とかしておくから」
軽いのりでヒラヒラと手をあげる男にユーリッドは思わず反論する。
「おいおい、本気で言っているのか。俺は別にあんたの実力を疑うわけではないが、あれはもう別次元の強さだぞ」
ユーリッドに言われるまでもなく白パーカーの男は理解していた。先刻の【光速移動】を使う男の実力は記録――否、記憶通りのものだと。
まともにやりあったところで結果は見えている。
「別に戦うわけではないって。こっちにはちゃんとした作戦があるから、ね? アミハル君?」
笑いながらユーリッドの右に座る男の肩に手を伸ばしてポンと叩く。
「へっ?」
肩を叩かれた男は耳に吊すクローバー形のイヤリングを上下に揺らして身体を震わせた。
一体何のことだかさっぱりといった顔でパーカー男を見やるが、その顔はやはり笑っていた。
「じゃたあたしはどうすればいいの?」
と、今まで沈黙を貫いていた、この中で唯一の女の声が洞窟の中に高々く響いた。
「レイミンちゃんはコフ君、ユーリッド君と一緒にルーブ村で暴れておいで。向こうも三人だし丁度いいでしょ」
りょうかーいと言って軽く頷いたレイミンは、ユーリッドの視線を感じて「何?」と首を傾げる。
「奴らの中に一人、お前と似たような女がいた……」
ユーリッドの呟きに、コフも「あーっ!」と地面を叩きながら大声をあげた。今までにないハイテンションだ。
「いたいた、何かすげー性格きつそうなやつ! 確かにあれはレイミンの相手にピッタリだな!」
「コフ……ちょっとそれどういう意味よ」
「ん? 別にそのままの意味だけど?」
二人の間に赤い火花が飛び散った。それを間で受けるパーカー男がため息を吐きながら「はいはいそこまで」と言って両手を広げ落ち着かせる。
「とりあえず作戦をまとめると、僕とアミハル君で光速移動君を村からおびき出す。それからコフ君、ユーリッド君、レイミンちゃんであの三人を潰す」
全員が概要を把握し、誰も意見する者もいなかったので、それぞれ立ち上がろうとすると、
「最後に言っておくけど、みんな僕達の目的を見失わないようにね。特にユーリッド君、きみは多分ゼロ君の相手をすることになると思うから、ちゃんと肝に命じておくように。みんなも僕が何のために君達にその力を与えているか忘れないでね」
やっと真剣な表情を見せた白パーカーの男は蝋燭に息を吹きかけ消すと、四人に背を向けて最初に洞窟から出た。
外に出た男は月の光を浴びて眩しそうに目を細める。
その時の男の口が裂けそうなぐらいにんまりとした笑みを見た者は誰もいないーー。




