ゲーム内の「惣火ゆま」についての裏話 増糖編
製作陣:どっちかというと同好会的なノリの妙にスペックが高い変人さんたち。「ノリで作っちゃった子たちだし、幸せにならないのもなぁ…」というよくわからないテンションでリメイク版製作を決断。趣味で作った作品だったためか、最終結論さえも基本ノリで決められる。
差別が広まったのは「教会」の所為。
「教会」は「獣人」の敵。
あとファンタジックな異世界らしく、獣人と、あとは教会側でも信仰心もちの何人かは魔法が使えちゃったりとか。
教会内部でも魔法の腕の優劣により実は派閥とかなんとかできちゃったりとか。
攻略対象者は前作でもいたキャラクター五人を引き継ぎつつ、教会陣営の三人を新たに加入。シナリオは個別のバッド・ハッピーの十六種、各陣営でのバッド・ハッピーの四種、トゥルーのバッド・ハッピーの二種、ノーマル、逆ハーレム、の計二十四にものぼるエンド数になった。
そして、揉めたのはヒロインについてだった。
当初、ヒロインは惣火郡の血縁者にあたる惣火ゆまにする予定であった。ちなみに提案者の後押しをしていた人物は軽く郡厨である。
が、シナリオ進行上ここで問題が発生。
設定的に、そもそも教会陣営に関われなくないか?
といった問題である。
惣火郡は自らが獣人であるというただそれだけの理由で頑なに人との深いかかわりを拒み続けるキャラクターで、前作で何気に一番難易度の高い攻略対象者だった。
そのため、惣火ゆまは「惣火郡が獣人である」という告白を聞いてなお惣火郡を慕い続け、真っ直ぐなその想いに絆され惣火郡も惣火ゆまを大切な存在であると認識するようになった、―という流れに沿い惣火郡は惣火ゆまに攻略されるはずだった。
勿論、初期からヒロインである惣火ゆまに対する好感度は他の攻略者たちとは比べ物にならないくらい高いので前作に比べ攻略も容易である。
だがそこで問題である。
無邪気で人懐っこく、妹属性の敬語キャラな可憐系ヒロイン惣火ゆま。
一度慕った人間は何があろうと信じぬく健気系ヒロイン惣火ゆま。
幼少期から惣火郡大好きな、惣火ゆま。
同じ境遇であるという繋がりで多少ガードが低くなる獣人勢ならまだマシかもしれない。何故なら惣火郡に対する感情は真っ直ぐな憧れであったと割り切り、新たに恋をする可能性があるからだ。
が、教会陣営は、憧れだか恋情だかは知らないがとにかく慕っている相手であるには違いない惣火郡を傷つけかねない輩だ。警戒して近づきすらしない、という展開しか思いつかない。
ラブハプニングで万万が一お互いの立ち位置を知らずに巡り合ったとしても、ロミオとジュリエット的な展開にはならず、惣火ゆまが最終的には惣火郡を選んでしまう未来しか考えられない。
総括して、―提案者が生み出したキャラクター、惣火ゆまは惣火郡が好きすぎた。
「これはもう、ライバルキャラだろ」
製作陣の一人であるシナリオライターが、深く頷きながら言った。
彼は主にキャラクターの性格や過去の体験などから想定される、個々の心理状態の移り変わりとシナリオ展開との間に矛盾が見られないかどうか吟味する役割を担っていた。ゲームで在る以上ご都合主義といったものは存在するが、あまり現実に有り得そうな展開から剝離しても面白くない、という考えをもっている。
「そうですね。惣火ゆま、惣火郡好きすぎますしね」
「獣人勢なら辛うじて恋愛にもってけるか?ってことは獣人勢の個別ルートに出てくるライバルキャラってことで」
会話しながら、惣火ゆまの設定ががりがりと付け足されていく。
「ヒロインは教会側の縁者ってことにした方がいい気がします。獣人勢スタートだとたぶん教会陣営にわざわざ近寄ってくれなくなっちゃうんじゃないかと」
「あー、なるなる」
「教会側の魔法使えるけど初期ではコントロール悪くて、でも一生懸命頑張る様子に絆された教会側攻略者と特訓、―とか?」
「唐突に能力発現!で中途編入!!みたいな?王道でしょー」
意見を出し合っているのは社会的因子に基づく周囲の感情の移り変わりをチェックする担当のシナリオライターと、王道展開についての分析を得意としどの程度のご都合主義であれば許されるか、といった斟酌をくだす調整役だった。
ちなみに前作のゲームの制作案を出したのは調整役であったりする。
飲み会の席で「既存概念打ちこわしたいっていうかぁあー、たまには趣味に走って仕事のこと忘れたいぃい~っ!!」と酔っぱらってばたばたしていたところ、悪ふざけ半分で様々な変人が集まった結果があの有様であったりする。
と、そこで今までぷるぷる震えていた郡厨が声をあげた。
「ウチのゆまは最初から完璧だもん!魔法とか余裕だもん!!」
彼女は作画担当、というか色塗り担当者だが、配色に関してのプロフェッショナルである。が、キャラクターの彩色に関してキャラクター愛を拗らせてイラストレーターと口論になることもままあったクセの強い人物で、今回描きあげられた可憐系美少女も郡に続いてドストライクだったらしい。
ちなみに彼女、仕事時においてはキャラクター萌えによるあからさまな贔屓をいれてしまうことを怖れて世界観に応じた背景づくりに勤しんでいる。そのため、巷では背景整備士として名を馳せているイラストレーターであったりする。
「まぁ郡のイトコだしねー。それぐらいじゃなきゃ傍にはいられない気もする」
「逆に不器用なゆまを郡が守ってあげてる、って感じでも良い気がするけどねー」
ほら、可憐系美少女だし、とくすくす笑うのは主にキャラクターデザインをしたイラストレーター。
イケメンを書くことに定評があるが何気に正統派美少女をデザインする方が好きで、仕事時はついついライバルキャラに熱が入りすぎ「下手したらイケメンより偏差値高いから却下」と女の子だけ別のイラストレーターが書くという結果に陥ることの多い変人である。
今回は攻略対象者たちの救済を含んだゲームにするべく動くため、美少女に描いたらたぶんキャラ萌えの背景整備士が「この子たちだけは幸せに!」と食い下がってくれるだろうと見越してゴーサインが出た。ちなみに前作では背景整備士がヒロインに萌えなかったので「私の理想のヒロインと郡たんをくっつける!」とむしろ二次創作に走っていたとかは秘密である。
閑話休題。
「ばっか、ンな設定にしたら設定上郡とゆまの間にもう介入する余地なくなっちまうだろ。アイツは狙った獲物は逃がさねぇヤツとみた」
「あー…。確かに身内で恋情自覚してたらたぶんあの手この手使って婚約ぐらいはしてそうだわー、郡なら」
「心配する要素がないからこそ、大事ではあるけどある程度は自由にしてあげよう、って思えるのでは?そうなると、ゆまはある程度ハイスペックにしとかないと」
「逆にダメな子を『危ないから』って過保護に甘やかすの好きっぽいよね、獣人勢」
うんうんと腕を組んで頭を捻っている他製作陣を尻目に、背景整備士はうっとりと一枚のスチル(仮)を見つめていた。
郡の過去回想で使う予定の、初めて心が通い合ってはにかみながら微笑みあっているショタ郡とロリゆまの絵である。
安定のキャラ馬鹿だ、と一周回ってもはやほのぼのし始める周囲。
背景整備士は、オフではアホの子なのである。
「じゃあ惣火ゆまは精神的な幼さ、ヒロインの方は警戒心分勘案して、隙のある性格とある程度の低スペック、ってことで。そこに惹かれるー、的展開?」
王道展開調整役のシメの一言で方向性が決まり、最終的に、なんか惜しいヒロインと限りなく高スペックで完璧なライバルキャラが生まれることとなった。
しかし本物のゲームに細部にわたる裏設定が詳細に書かれるハズもなく、ヒロインの残念さと惣火ゆまの凄さは後に販売されるキャラクターガイドブックでのみ明かされることとなった。
幸か不幸か、ガイドブックの販売は、少女が生贄を捧げトリップを果たした後だった。
とりあえず「ちゃんとしたゲームじゃなかったんですよー」ってことをお伝えしたかっただけです。レナが「ちょっと!原作と違うじゃない!!」っていうときは大体彼らの裏設定絡み。しかも大体がその場のノリで決められたものなのでガイドブックならともかくゲームの説明書とかに乗せるわけがないという。楽しいので本編の補足的な感じでまた書くかもしれない。