7話
ダンジョンから持ち帰った『最高級濃縮プレミアム極上出汁』
その日の夕方、5人の家々では、いつもと一味違う夕飯の時間が訪れていた。
【佐藤家】シズエ(65)の家
夕食のメインは、プレミアム出汁を極限まで吸わせた「大根とがんもどきの煮物」と「お味噌汁」。
「あら、お父さん、おかわりは?」
「……シズエ、お前、料亭に弟子入りでもしたのか?」
普段は無口で、出されたものを黙々と食べるだけの夫・タカシが、椀を両手で抱え込みながら目を見開いていた。汁を一滴も残さず飲み干し、まだ湯気が立つ鍋を凝視している。
「出汁が……身体の隅々にまで染み渡るようだ。大根の芯まで旨味が詰まっていて、箸が止まらん。明日もこれがいい」
「ふふ、明日も明後日も、たっぷりあるから大丈夫よ」
シズエはニンマリと頬を緩め、ペティナイフを握る手に密かに力を込めたのだった。
【田中家】のぶ子(67)の家
のぶ子が作ったのは、プレミアム出汁をベースにした「特製おでん」。
「おふくろ……これ、マジでどうしたの!?」
かつて猛烈な反抗期で部屋の壁に穴を開けたこともある同居の息子が、出汁の染み込んだ牛すじをつまみ、声をひっくり返した。
「お店の味どころじゃないよ! なんか飲むだけで日頃の疲れが吹き飛ぶっていうか、元気になる感じがする! おい、親父も飲んでみなよ!」
「ん? どれどれ……うおっ、うまい! のぶ子、お前すごいな!」
夫と息子が争うように鍋を突き、あっという間に完食。
「トングで叩いた甲斐があったわね」と、のぶ子はトングを愛おしそうに眺めたのだった。
【渡辺家】カズエ(63)の家
カズエは念願だった「プレミアム出汁仕立ての和風あんかけオムライス」を孫の前に差し出した。
「ばあば、これなーに?」
一口食べた途端、小学生の孫の目がまん丸になった。
「おいしいーーっ! ばあばのオムライス、世界一好き! おかわり! おかわりちょうだい!」
「まあまあ、焦らなくてもたくさんあるわよ〜」
カズエの目頭が思わず熱くなる。
「あの泡立て器でシャカシャカほぐした甲斐があったわ……明日もあのおばちゃんたちと頑張っちゃおうかしら」
【小林家】マサコ(68)の家
目利き通のマサコが挑んだのは、出汁の旨味をストレートに味わう「出汁巻き卵」と「お吸い物」。
「母さん、今日の出汁、どこで買ったんだ? 築地の専門業者か?」
グルメ気取りの長男が、一口食べた瞬間に箸を止めて尋ねてきた。
「ふふん、近所の『スーパーふじの』の近くで仕入れてきたのよ。無添加で最高級のやつね」
「これ、料亭で出したら一杯千円は取れるぞ……。母さん、また買ってきてくれよ!」
サンバイザーの奥で、マサコの目がキラリと光る。
「買いに行くんじゃなくて、一狩り行ってくるのよ」とは言わず、心の中でほくそ笑んだ。
【鈴木家】カヨコ(61)の家
ラーメン屋を営む実家から戻り、夕飯に「プレミアム出汁の特製醤油ラーメン」を家族振舞ったカヨコ。
「おいカヨコ……! このスープ、何を使ったんだ!?」
長年頑固にスープを仕込んできた店主の夫が、レンゲを握りしめたまま震えていた。
「雑味が一切なくて、豚骨と鶏ガラを極限まで引き立てる深みがある……! カヨコ、これうちの店の看板メニューにできないか!?」
「だーめ。これは私の『家事の合間』の極秘ルートなんだから。お店に使いたかったら、明日の朝、中華鍋を持って私について来なさい!」
「ええっ!?」と驚く夫を横目に、カヨコは中華鍋をピカピカに磨き上げるのだった。
黄金の出汁は、ただ料理を美味しくしただけではない。
熟練主婦たちの家庭に、とびきりの笑顔と敬意をもたらしたのだ。




