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【隠し事】

 仕事を終えて、眠い目を擦りながら明るい道を走行する。あと10分ほど直進すると自宅のアパートに到着するというところで、左にウィンカーを出して脇道へ。

 裏路地1本超えた先にある建物。そこに、俺の1日を締めくくる楽しみがある。


 夜勤業務の俺は、朝9時に仕事が終わる。無意味に俺を嫌う高校生の長女と、姉に右習えで俺に反発する中学生の次女は学校に行っている。俺は元気で留守がいいと思っている妻も仕事に出ている。

 俺が仕事の合間にどこに立ち寄ろうと、家族に気づかれることはない。


 雑居ビルの合間にあるパーキングに車を停めて、店の中に入る。店内のすぐ左手、並んでいる笑顔の女性を見て、今日も出勤していることを確認する。この時間は客が少ないので、待つことは少ない。

 稀に待つこともあり、空いている女性店員から声をかけられるが、俺はどの女性店員から接客(・・)を受けるかは、決まっている。


 あの店に通うようになって半年。今日も、いつもの女性店員に接客してもらってから帰宅。車から降りた時に、スマホが鳴った。

 電話の先は、さっきまでいたお店。そして、通話しているのは、あの女性店員。

 10分後、店に戻った俺に、あの女性店員が声をかけてきた。

 「しっかりしてると思ってたけど、意外とおっちょこちょいなんですね。覚えやすい番号ですね。電話番号知っちゃいました。」

 言い終えて意味ありげに笑う彼女と同じように、俺も笑いながら返す。

 「かまいませんよ。ぜひ、いつでも連絡下さい。」

 

 俺は冗談に本気を隠して言ったが、彼女の真意がどちらなのかは分からない。



 帰宅して、家事を終えたらもう昼過ぎ、さすがに眠い。布団に入ろうと思った時に、スマホが鳴った。メッセージが届いている。


 『今日もありがとうございました♪ 本当に連絡しちゃったけど、ご迷惑ではないですか?』


 興奮しながらすぐに返信する。

 『こちらこそありがとうございました。そして、ご連絡ありがとうございます。とても嬉しいです。俺は、これからどこかでランチでもしようかなって考えていたところです。』


 →『あら、羨ましい。今日はもう上がりなんで、お昼をどうしようか考えてたところです』

 ←『良かったらご一緒します? 笑』


 →『わぉ、嬉しい♪ 笑』

 ←『パスタなんかどうですか? 笑』


 →『あの、本当に?』

 ←『あ、えっと。俺とが嫌じゃなければ、OKです。お店まで迎えに行きましょうか?』


 →『嬉しいです。でも店まで来てもらうのはまずいので、裏道を少し行ったところにある公園で待ってます』


 これが、彼女との初デート。二人で楽しくイタリアンを食べた、それだけだ。そう、それだけだ。

 彼女にとって、俺は単なるお客さん。それに、俺は既婚者。それ以上があってはいけない。


 だから、どんなに接客(・・)してもらっても、毎日メッセージを交換しても、時々一緒に食事をしても、彼女と俺はそれだけでなくてはいけないのだ。


 「隆司さん、もうこんなに大きくなってる。」

 「高橋さん、いい、いいです。」


 そう、僕は高橋さんと、浮気は(・・・)していない。


 「あっ、ぅんっ、あぁぁぁ。」


 僕が彼女からしてもらってるのは、接客(・・)だけだ。


 「高橋さん、い、く…。」

 「あぁん、隆司さん、まだダァメェェェ」


 僕と高橋(・・) 由香(・・)さんとは、浮気はしていない。

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