【探りあい、騙しあい】
「ちょっと、起きなさい。」
夜勤明けに眠っていたら、たたき起こされた。そこには、明らかに不機嫌な表情の妻がいる。寝ぼけながら窓を見ると、夜だと分かる。
「今日は休みだよ。」
そう答えて再びかぶろうとした布団を、引き剥がされた。妻の様子に、ただならぬ事態を想像する。こう言うときは、逆らわずに言われた通りにするのが正解だと、俺は知っている。
リビングの椅子に座る。テーブルを挟んだ正面、鬼の形相の妻に、とりあえず質問をする。
「子供達は?」
様子見の質問に対し、妻は苛立ってる時の低い口調で答えた。
「私の実家に行かせた。とぼけないで素直に答えなさい。隆司、私に何か隠し事してるでしょ?」
「隠し事なんてしてねーよ。けど、夜勤の俺と日勤の美樹とでは、知らないうちに言い忘れたことがあったかな?」
妻は、かまをかけてきているだけかもしれない。俺は余裕の表情で模範解答だと確信してる言葉で返した。
しかし、妻はほくそ笑む。
「なにそれ。それで納得すると思う?」
俺の受け答えに、むしろ妻は確信を持ったと言い出す。妻が怒っている時、俺はいつも、怯える様子をしているらしい。今の俺は、堂々と受け答えしているので、隠しごとがバレそうになった時の臨戦態勢が出来ていると、悟ったそうだ。
「隆司、毎日仕事の後どこに立ち寄ってるの? 」
家事で出勤が遅れる日に、俺が頼道2丁目の交差点を左折するのを何度も見たらしい。
なるほど、それで予想してかまをかけてきたのだろう。確かに、あの裏道の先は、未成年お断りの施設が立ち並ぶ雑居ビル街へ続いている。憶測で俺を問い詰める気なのだろう。
「あぁ、脇道の先にあるスーパーに行ってるんだよ。」
慌てたり悪びれたりもせずしれっと答える俺に、妻は更に怒りがこみ上げてきた様子だ。
遠回しに問い詰めるのを止め、一気に核心についてくる。俺の浮気を疑っていると。証拠などあるはずがないのに。
「高橋さん、って誰?」
突然の一言に、俺は焦る。しかし、仮に妻が何かを知っていたとしても、証拠などあるはずがない。
しかし、俺が焦っていることに気づいたのだろう。妻はここぞとばかりに畳みかける。
「隆司、夜勤になってしばらくはずっとイライラしてたよね。でもいつからか、急に機嫌が良くなった。寝言で、高橋さんって言うようになった頃から。どこかの高橋さんに、心と身体を満たしてもらってるのかしら?」
妻が言い終えても、その威圧感は沈まない。なんと答えるべきか考える。しかし、時間をかけすぎるのも良くない。時計の秒針の音が聞こえて、俺は冷静さを取り戻す。俺の出した答えは…
「ごめん。」




