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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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25.堕罪魔人

「……!?」


 暫くのこと。ギョクトの長耳がピクリと動き、僅かに眼が見開かれる。


 次いで双子鳥人の耳がそれを捉え、ロウラクの鼻が慣れることのない鉄の匂いを嗅ぎ取った。


「どうしたんだ、みんな?」


 唯一、人間で五感の強くないガラが疑問を発する。一行は、自然と足を止めていた。


「血の匂いだ」「奇妙な絶叫だ」


 ロウラクとギョクトが同時に答えた。


「スン……あぁ、俺でも感じ取れるな。濃い血の匂いだ。かなりの数が死んでやがる」


 ゴンズが集中して匂いを探れば、それは確かに感じ取れた。まだ、遠い。だが、あからさまになるほどに濃厚な血臭だった。


「おかしい。魔獣同士の争いは、縄張り争いがほとんどだ。ここまで濃密になるような激しい殺戮劇は演じない」


「「殲滅者は、魔に堕ちて〜♪かの英雄に刃、未だ届かず〜♪」」


「やめろ、レンレン、レイレイ。悪い冗談だ」


 恐怖を紛らわせるように、双子鳥人は、とある詩の一節を唄う。嗜めるロウラクの脳裏にも、しかし、その可能性は浮上していた。


 詩の中で殲滅者と呼ばれる男の名は、オルランド。


 かの冒険王と同時代に生まれ、かの英雄の影を追いかけ続けた力の求道者。


 遂に、超克は果たされぬまま冒険王は引退した。


 オルランドは、唯一の好敵手()の不在を受け入れず、その姿を求めて各地の迷宮を彷徨い歩き、多くの魔獣を殲滅し続けた。


 だが、そこに友の姿はなく、強くなるためにあらゆる人間性を削ぎ落とした彼にとって唯一の楔であった英雄の不在は、彼を狂わせるに充分だった。


 堕罪魔人。魔に堕ちた罪深き人となったのだ。


 人の願いは基本的に雑多だ。一つの方向性に純化されることはなく、故に、魔獣のように魔力的変質によって最適化されることがない。


 だが、何事も例外がある。


 オルランドの場合、ただひたすらに強さを求めた結果なのだ。


 強さとは、剛力であり、頑強であり、俊敏であることだった。その最適化は、鎧というカタチで現れた。


 鋭利な爪や棘を所々に生やした頑強にして軽量な装甲、否、甲殻。


 禍々しく惨たらしい漆黒の鎧へと、彼の身は変身したのだ。


「はぁ、あのお嬢さんの予言は当たりだな。『狂えるオルランド』、危険度指定A暫定の化け物だ」

「撤退は?」

「無理だ。もう捕捉されてるよ。そろそろガラにも聞こえてくる筈だ。奴の悲痛な絶叫がな」


 ロウラクとゴンズのやり取りの直後。確かに、それはガラにも聞き取れた。


「Aaaaaadooooooo!!」


 それは友を呼ぶ絶叫だ。


「構えろ。一瞬の油断が命を落とすぞ」


 ロウラクの警告とほぼ同時、漆黒の影が木々の間から飛び出した。


「一発くらいは防いでやるさ」


 そう言ってゴンズが前に出た。握る大盾を構え、狂人の振るう剣に合わせる。


 激突。鳴り響くのは甲高い金属音かに思われた。


「ぐぁああ!?」


 響いたのはゴンズの悲鳴だ。


 見れば、その腕が盾ごと引き裂かれていた。僅かな幸運は、狂人が駆け抜けていたことだ。


「あの剣は!?」


 狂人の握る蒼き大剣。その煌めきのみでモノを斬り裂いてしまうかのような圧倒的な剣気。


 経験豊富なロウラクをして確信を持つことはできなかったが、それでも頭に浮かぶ正体があった。


 だが、今それを言葉にする余裕はない。


「「風よ、優しく包み込め、雨よ、恵みとなって降り注げ、森よ、命を育み護れ」」


 双子鳥人により癒しの呪歌が奏でられる。ゴンズの傷が見る見るうちに塞がり、激痛を抑制する。


 同時に、ガラとギョクトが牽制のための全力の一撃を放ちに行く。


「Aaaadoooo!!」


 二人の放つ強烈な敵意と殺気を感じ取れた筈の狂人は、しかし、怯む様子なく迎え撃つために自らも突撃した。


「マズい!?」


 ロウラクの呻きにも似た焦燥の声。


 獣人は、十二の支族があり、狼の耳と尾を生やすロウラクは狼人族である。支族には、それぞれに特徴があり、双子の属する鳥人族が音楽的才能に優れることは人間の間にも知られた一例だ。


 実のところ、狼人族は、獣人の中では戦闘に不向きな特徴を有する。


 彼らは、冷徹な思考と慎重な気質をして、基本的に理詰めで行動する傾向にあるのだ。文官気質とも言える。事実として、エト獣王国における文官の多くを狼人が担っている。

 戦闘においてこの気質は、遊びのない柔軟に欠ける組立てと後手に回る消極性を生んでしまう。


 ロウラクもその例に漏れぬ気質を有する。


 まず、策を考える。自身の経験を精査し、いかにして今の状況を切り抜けるべきか。


 それは明確な隙となって、血気盛んな若人たちの自由行動を許した。


 狂人の疾走は、ガラがギリギリ認識できるほどの速度だった。気を抜けば何もできずに一方的に攻撃を叩き込まれかねない。


 ガラの身体に力が入り、狂人を凝視する。


 互いの顔をはっきりと認識できる距離にきて、狂人は宙を跳んだ。


(ガラを避けた?)


 ロウラクにはそのように見えた。


 動きの唐突な変更に、狂人の動きが僅かに鈍る。


 ギョクトはその隙を逃さず捉えにいった。


「舞闘流【車輪脚】!」


 ギョクトもまた宙へ跳び、魔力の推進を得て縦に回転する。


 遠心力の乗った兎人の強力な蹴撃を、狂人は無防備な頭部にくらった。

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