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冒険王ー世界最強の称号ー  作者: 龍崎 明
一章 盾の誓い
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26.座長権限

 大地の揺れを錯覚させる轟音とともに、狂人の頭部は大地に叩きつけられた。


 宙空よりそれを見下ろすギョクトの瞳に驚愕が宿る。


 狂人は全くダメージを感じさせない様子で、叩きつけられた勢いのままに逆立ちの姿勢になる。


 そして、片腕で大地を押した。


 狂人の身体は再び宙空へと跳び上がり、正確にギョクトを狙う。


「立ち塞がれ!【巨壁ランパート】!」


 ガラの叫びが、魔力を凝らせる。


 それは魔力の障壁によって盾の範囲を超えて攻撃を塞ぐ魔闘術だ。


 横への展開を削り、縦へと延ばすことで狂人とギョクトの間に割って入る。


 だが、ゴンズの盾を割った狂人の大剣を塞げるとは思えない。事実、狂人は今まさに大剣を振るおうとしていた。


「降りろ!」

「おう!」


 ただ、それよりも一瞬早く、ガラの言葉に応じてギョクトが魔力の壁を駆け降りる。


「AaaaaaAAA……DoooooOOO!!」


 苛立ちか、狂喜か。障壁を斬り裂くのみに終わった狂人が絶叫する。


 狂人は、宙空を踏んだ。


 魔闘術【空歩】。


 魔力によって形成した足場で、空を駆けることができる高等魔術だ。


 ガラは、その魔術の存在を知らなかった。驚愕に彩られる思考の空白の中。


 咄嗟にとった、いや、とれた行動は二つ。


 ギョクトを押し退け、盾を構えた。


「こんのバカ!」


 ギョクトの罵声が遠く聞こえる。


 ガラの脳裏に過るのは、先程のゴンズの姿だ。


「Aaaaaa!」


 狂人が絶叫とともに、蒼き大剣を振り下ろした。


「ぐっ!?」


 響いたのは()()()


 狂人の圧倒的な膂力に押されながらも、ガラの漆黒の盾は蒼き大剣を塞いでいた。


「ぐっ……ぁぁぁああ!!報いを受けろ!【応武返し】!」


 防いだ攻撃をそのまま撥ね返すカウンター魔闘術。


 ガラが現在、使用可能な魔闘術の中で唯一、攻撃的な代物だ。


 だが、不発に終わる。


「ぐっ、あ!?」


 魔力は願いを叶える力であり、それはより強い願いを叶えることを優先する。


 ガラの願いは、狂人の願いを超えることはできなかったのだ。


 ガラの脚が大地に沈む。


 魔力によって頑強になった肉体が、それでも軋みを上げる。今にも砕け散りそうな重圧だった。


「狼牙流棒術【急襲ショット】」


 そこに飛び込む一人の男。『放蕩一座』座長ロウラクだ。


 その手に握るのはステッキだ。


 伸ばした片手で狙いをつけるようにしながら、打突を放つ。


 それは玉突きの如く、狂人の体を突き飛ばした。


「全く無茶をする」


 油断なく狂人を見据えながら、ロウラクが言葉を紡ぐ。


「犠牲になるのは俺一人で充分だ。ゴンズ、ギョクト、レンレン、レイレイ、ガラ」


「座長?何を言って……」


 ギョクトが思わず問い掛けるも、言葉は続く。


「逃げろ!」


 その言葉に、『放蕩一座』全員が硬直した。


 真っ先に我に帰ったのは、ギョクトだった。


「ふざけんな!?俺はあんたにまだ何も返せちゃいねぇんだぞ!」


「返す必要はない。次に託すのが、生命の在り方だ」


 激昂するギョクトに対して、余りに淡々とロウラクが返す。


「勝手なことを!」


「座長権限だ。こんな美味しい場面、逃してたまるか」


 食い下がるギョクトに、ロウラクは芝居掛かって笑みを浮かべる。ギョクトは二の句を告げることができなくなった。


「行くよ、ギョクト」「行かなきゃ、ギョクト」


 普段の明るさは何処へやら鳥人双子が悲壮な表情で、それでも座長の言葉に従った。


「任せろ」


 ゴンズはただ一言。


「あぁ、任せた」


 ロウラクも気負うことなく言った。


「Aaaadooo!!」


 時間切れだ。狂人が迫り来る。


「ふぅ、獣術奥義【獣装(ベルセルク)】」


 獣術とは、獣人の高い身体能力に合わせた専用魔闘術の総称だ。


 そして、その奥義たる【獣装】は、獣人の獣の因子を呼び覚ます強化魔術だ。


 ロウラクの容貌が、二足歩行の狼へと変身する。


「スゥ……アォォオオオン!!」


 遠吠え一つ。ロウラクは、踏み出した。


「逃げるぞ、お前ら」


 ギョクトは渋々と、鳥人双子も後ろ髪を引かれながら、それでもこうするしかないのだという理性で、ゴンズの言葉に頷いた。


 ただ、ガラだけが反応がなかった。


「ガラ?」


「守るんだ、護らなきゃ、もう誰も傷つけない、死なせない、守るんだ、護るんだ、守るんだ、護るんだ……」


 ガラは大人しかったわけじゃない。理性で納得してしまったわけでもなかった。


 呪いにも等しい覚悟が、思考を止めていただけだった。


「逃げるぞ、ガラ」


 残った片腕で、ゴンズがガラの肩を叩く。それと同時に、ロウラクと狂人のぶつかり合う金属音が響き渡った。


 顔を跳ね上げるガラ。


 その瞳は定まらぬまま、跳び出した。


「やめろ!」


 ギョクトの蹴撃が容赦無く、ガラの頭部を襲った。


 ガラの意識が、絶たれた。


「こいつは……いや、今、思うことじゃねぇ。逃げるぞ」


 ゴンズは、気絶したガラを担ぎ上げた。


 『放蕩一座』の面々は、一度だけ激闘を見詰めて、逆方向に駆け出した。

一先ず書き溜めたのはここまで。後は、ゆっくり書いていきます!

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