――
このまま、朽ちていくのだと思っていた。
希望も救いも無く、光すら失われた部屋で、ゆっくりと。
終ぞ人間らしい扱いはされぬまま、使い古された道具のように錆びていくのをただ待つだけ。
悲しくはなかった。そんな感情は遠い昔に置いてきてしまったから。
ただ、闇ばかりが蔓延るここは、冷たくて寒いから。一秒でも早く命の灯が尽きてくれたらいいと、それだけを願っていたのだ。
「なあ、逃げたいか?」
――この時までは。
真っ暗闇に包まれていた世界を、突如閃光が吹き飛ばした。
人外めいた美貌の男が、呆然とする少女に手を差し伸べる。
まるで、異国の御伽噺のように。
「生きたいなら、私の手を掴め。必ず助けてやるから」
後光を背負う男の、なんと神々しいことだろう。
新雪を思わせる純白の長い髪。血のように赤い瞳を持つ、どこか色っぽい三白眼。
その容貌は、遠い異国に棲むという血を喰らう妖の姿を想起させた。陽光知らずの白く滑らかな陶器肌がまた、なんともそれらしくて。
けれども、日のもとがよく似合う男だった。
男の背負う陽りの眩しさが沁みて、つと瞬いた瞳から温かな雫がこぼれ落ちる。
数年ぶりに頬を濡らした水の球は、記憶の中のそれよりほんのり甘く、堰を切ったように溢れて止まない涙の雨が、少女の思考を混乱で浸して、染めて――目を、逸らせなくて。
「ほら」
差し伸べられた指先が、微かに揺らされる。
優しく、そして少しだけ呆れた声で誘われて、少女はようやく自覚した。
自身の内にもまだ、救われたい、死にたくない――そんな望みが、浅ましくも残っていたのだと。
「――――――」
目の前の男は、少女を救ってくれるのだという。
理由は知らない。都合のいい夢を見ているのかもしれない。
――それでも。
今なら、赦されるのだろうか。人生の終わり、垂らされた一縷に縋る。それを。
少女は乱れた呼吸を飲み込んで、力の入らない指先を必死に伸ばした。光に向かって、懸命に。
「よし」
男が嬉しそうに呟いて、少女の手を救う。
そうして重なった手は、広く、温かく――触れた瞬間に強く手首を掴まれて、少女は水底から引き上げられるように立たされた。
「よく頑張ったな」
男の衒いの無い微笑みに、少女の瞳から新たな雫が溢れ出る。
頑張ったな、なんて。そんな言葉を掛けられたのは、たぶん、生まれて初めてだった。
男の手を、ぎゅっと握り返す。
ひくりと喉を引き攣らせる少女を、真紅の双眸が静かに見つめていた。
好きな設定を好きなだけ詰め込んだ和風恋愛ファンタジーです。よろしくお願いします。




