↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

My Name Is... / 俺の名前は…

ノクスラ LT がお届けする――。

日本のライトノベルに影響を受け、英語で書かれた完全オリジナルのコメディ作品。

主人公は、デイビッド・カーター。

騒がしくて、個性的で、何かと問題を起こす家族。

面倒な学校生活。

そして――なぜか毎日のように巻き込まれていく、とんでもない騒動。

そんな日々を生き抜こうとする、どこにでもいる高校生……のはずだった。

魔法もない。

異世界もない。

ファンタジーもない。

あるのは――

家族。

学校。

アクション。

ドラマ。

そして、なぜかデイビッドの周りにだけ集まってくる、どうしようもない日常のカオス。

これは、そんな少年――デイビッド・カーターの、

騒がしくて、くだらなくて、ときどき大事件になる。

そんな毎日の物語。

ようこそ。

デイビッドのカオスとドラマに満ちた人生へ。

俺の名前は、デイビッド・カーター。


高校生だ。


エドモントンで家族と暮らしている。


……まあ、家族と言っても。


とにかく、うるさい。


騒がしい。


そして、ドラマが多い。


普通の日常系の物語とは、少し違うかもしれない。


俺たちは黒人家族だ。


だからというわけじゃないが――うちの朝は、とにかく騒がしい。


意見は飛び交う。


声も飛び交う。


そして、家族の中で「敬意を払ってください」なんて交渉するような余地はない。


……そんな我が家で。


今朝、ちょっとした事件が起きた。


まあ。


俺にとっては、別に珍しいことでもないんだけど。


これは、そんな俺の日常と。


その日常に何故か毎回ついてくる、意味不明な騒動の物語。


それでは――


ようこそ。


うん……これが俺の人生だ。


---


その日の朝。


俺は目覚ましより先に目を覚ました。


スマホを確認する。


午前六時二分。


「ふぁ~~……」


大きなあくびが出た。


「十三分も早い……? これ、絶対いいことじゃないよな……?」


ため息。


俺はゆっくりと上体を起こした。


……学校、サボろうかな。


一瞬、本気でそう思った。


そして部屋を見回す。


「…………」


何かがおかしい。


静かすぎる。


「……」


妙に静かだ。


「……怪しい」


うん。


やっぱり――


「今日は学校行こう」


何か嫌な予感がした。


俺はベッドから出ると、歯を磨き、顔を洗い、学校へ行くために着替えた。


ちなみに、ここはカナダ。


制服なんてものはない。


……少なくとも、俺の学校には。


そんなことを考えながら、最後の仕上げをして階下へ向かおうとした。


その時だった。


「…………ん?」


何かがない。


「……俺のパーカーは!?」


その瞬間。


犯人が誰なのか、俺には分かった。


この家でこんなことをする奴は、一人しかいない。


「あのクソガキ!」


「リズィィィィィィィ!!」


俺は部屋を飛び出した。


そのまま妹の部屋へ一直線。


ドアの前まで来ると――


バンッ!


勢いよくドアを開け放った。


「どこだぁぁぁぁ!!」


……。


誰もいない。


「…………あれ?」


部屋は空っぽだった。


「いない……?」


少し考える。


「……下か!」


俺はそのまま階段を駆け下りた。


「リズィ! 捕まえたらどうなるか分かってるんだろうな!」


「覚悟しとけよぉぉぉ!!」


そして、階段を下りきった俺の目に入ってきたものは――


いた。


キッチンに。


しかも。


ホットチョコレートを飲んでいた。


めちゃくちゃくつろいでいる。


俺があれだけ騒いでいるというのに。


本人は何事もなかったかのように、マグカップを口に運んでいた。


やがて、リズィはこちらに気づいた。


マグカップを下ろす。


「あ、おはよー、お兄ちゃん。よく眠れた?」


「白々しいこと言ってないで、俺のパーカー返せ」


「パーカー?」


リズィは不思議そうに首を傾げた。


「何のこと?」


「…………」


こいつ。


まさか――


「とぼけんな」


「何のことでしょう?」


「お前が着てるそれだよ!!」


「これ?」


「そうだよ!!」


「…………」


リズィは自分の服を見下ろした。


そして、平然と言った。


「大げさだなぁ。パーカーくらいで」


俺を見る。


「ただのパーカーじゃん」


「――――」


「ただの……パーカー……?」


俺は愕然とした。


「今……こいつ……」


「『ただのパーカー』って言った……」


「俺が持ってる唯一のパーカーだぞ!?」


俺はリズィを指差した。


「いいか! お前は何も分かってない!」


「このパーカーはな!」


「ノクスラ謹製――」


「人類史上最高峰の生地を使い!」


「何代にもわたって受け継がれてきた――」


「……わけでもないが!」


「俺にとっては、お前の意見なんかより百倍……いや、千倍は価値がある!」


俺は胸を張った。


「これはな――」


「聖なる遺物なんだよ!!」


「…………」


リズィは無言でパーカーを見下ろした。


そしてタグを確認する。


「……」


「……」


「『MADE IN CHINA』って書いてあるけど」


「…………」


「そこは重要じゃねぇ!!」


俺は即座にツッコんだ。


「はぁ……」


ため息をつく。


「もういいから返せ。学校行くんだから」


「おい、落ち着いて」


リズィは肩をすくめた。


「それに、もう返せないよ。だって、これめっちゃ着心地いいんだもん」


「…………」


「……は?」


リズィは何でもないことのように続ける。


「もう家族みんなのパーカーってことでよくない?」


「家族みんなのパーカーって何だよ!?」


「おい、これ私のだから!」


リズィはニヤッと笑った。


「で?」


「……何?」


「お兄ちゃん、どうするの?」


そして――


彼女はパーカーの袖を掴んだ。


ズルズル。


袖をさらに引っ張る。


両手が完全に隠れるくらいまで。


「…………」


俺は固まった。


リズィは俺から目を逸らさない。


そして。


何事もなかったかのようにマグカップを持ち上げる。


ゴクッ。


ホットチョコレートを一口。


カップを下ろす。


そして――


ニヤッ。


「何?」


首を傾げる。


「お兄ちゃん、私とケンカする?」


「…………」


俺は歯を食いしばった。


こいつ。


……。


ただのケンカじゃ済まさない。


ぶっ殺してやる。


――その時だった。


「朝っぱらから何の騒ぎだ?」


「…………!」


父さんがキッチンに入ってきた。


コーヒーの入ったマグカップを片手に、すでに仕事へ行く準備も終えている。


この人の名前は、クリス・カーター。


俺の父親。


そして――


この家の頂点に立つ男だ。


父さんは、あまり怒鳴らない。


イライラしている時も。


怒っている時も。


だいたい同じだ。


必要以上に声を荒らげたりはしない。


ただ――


見る。


こっちを見る。


いや。


正確には――


魂の奥まで見透かすような目で。


そして不思議なことに。


その瞬間。


自然と姿勢が正しくなる。


口調も丁寧になる。


礼儀まで思い出す。


……まあ、普段は普通に優しくて、冗談好きな父親なんだけどな。


ただし。


怒らせなければ、の話だ。


「父さん!」


俺はすぐにリズィを指差した。


「リズィが俺のパーカー取った!」


「取ってない!」


リズィは父さんを見る。


「お兄ちゃんが今日着ていいって言ったもん。ね?」


「えぇ!?」


今度はリズィが俺を見る。


「家族なんだから、共有でしょ?」


「い、言ってねぇよ、この寄生虫!」


「言ったもん、泣き虫!」


「この――!」


「はいはい。そこまで」


父さんがコーヒーを一口飲む。


「ケンカするのは構わない」


「ただし、静かにやれ」


父さんは俺たちを横目で見る。


「それ以上騒いだら、お前ら……」


一拍。


「……お母さんに怒られるぞ」


「…………」


ゴクリ。


「…………」


俺とリズィの動きが止まった。


母さん。


メアリー・カーター。


この家における――


最終兵器。


いや。


違う。


最終ボス。


この家で最も恐れられている存在。


そして、この家で彼女を止められる唯一の人間が――


父さん。


……まあ。


母さんが止めさせてくれれば、だけど。


「だから、二人とも大人しくしろ」


父さんはコーヒーをもう一口飲んだ。


そしてリズィを見る。


「それから、リズィ。兄ちゃんにパーカーを返しなさい」


「イヤ」


「…………」


俺の中で。


何かが止まった。


「…………」


今。


何て?


「…………」


イヤ?


「…………」


「…………」


その二文字が、頭の中で何度も反響する。


嫌な予感がする。


ものすごく。


「…………え?」


顔から血の気が引いていく。


「い、今……」


「父さんに……」


「普通に『イヤ』って言った……?」


十三歳。


まだ十三歳なのに。


こいつ。


何も分かっていない。


この家のルールを。


父さんの「あの目」が何を意味するのかを。


そして――


やってはいけないことを。


リズィは父さんを見る。


父さんもリズィを見る。


「…………」


「…………」


「…………」


……。


リズィも。


見返した。


「…………」


「…………」


「…………」


え。


待って。


これ、本当にやるの?


まだ朝だぞ?


太陽すらまともに出てないんだけど!?


「…………」


父さんは、ゆっくりと口元を緩めた。


笑った。


「なるほど」


小さく頷く。


「……分かった」


「俺も考えた」


「え?」


何を?


何を考えた!?


父さんはコーヒーをもう一口飲んだ。


そして、マグカップを持った手をゆっくり下ろす。


「…………」


嫌な予感がする。


ものすごく嫌な予感がする。


そして――


父さんは。


マグカップから手を離した。


「…………」


え。


「…………」


時間が。


止まったように感じた。


マグカップが落ちていく。


ゆっくり。


ゆっくりと。


俺の目が見開かれる。


「……まさか」


分かった。


父さんが何をするつもりなのか。


「やめろぉぉぉぉぉ!!」


俺は床を蹴った。


滑るように前へ飛び出す。


手を伸ばす。


「間に合えぇぇぇぇ!!」


届く。


あと少し――!


あと――


「――っ!」


届かなかった。


そして。


俺は見てしまった。


父さんの顔を。


そこには――


ものすごく意地の悪い笑顔が浮かんでいた。


父さんは俺をまっすぐ見つめる。


そして。


「……楽しめ」


ガシャァァァン!!


マグカップが床に叩きつけられた。


破片が飛び散る。


コーヒーが床いっぱいに広がる。


「…………」


静寂。


数秒。


そして――


二階から。


「今の何の音だぁぁぁぁ!?」


俺は目を閉じた。


……来た。


ついに。


召喚されてしまった。


この家における――


最終ボスが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。