人魚の石
「まぁ、元々は人魚がこれを常に持っておかないと死んでしまう。まぁ、一心同体みたいな物だよ」
「へぇ~。でもぼく持ってないよ? それになんでその石が人間の手に?」
「あんたさ~、一応人魚なんでしょ? だったら、それくらい知っとけよ」
「え~! 教えてくんないの?」
「教えるよ!」
さっきの伝説。実は本当のことで、生物=人魚なのだ。
あの石は本来その人魚の命の綱だったのだが、その人魚は知っていた。
その『人魚の石』に力を注ぎこめばこの石との契約が切れ、
石を他人に渡しても問題がなくなることを。
そして、その石は所有者の身を守ったり、本気で願う願い事を叶えてくれるのだと。
あるものを引き換えに……。
それは、その世界では禁忌とされて来たことだ。
禁忌を犯せば大切なものを失うのは当然だ。その、大切なものは―――――。
自分自身の命だった。
数週間後。人魚姫は死んでいった。
「ふ~ん。可哀そうに。って言うかさ、なんで千珠がそんなことを?」
「昔、って言ってもあっちで5、6年前のことだけど、聞いたのよねぇ~。知り合いに」
「へぇ~。じゃぁ、この石は持ち主のもとに帰って来たみたいなもんなんだ!」
そう言いながら、机の上にある石を指でコロコロ回した。
机に突っ伏していたから目の高さでコロコロ遊んでいたら、鐘の音がした。
その音に驚いてあたりを見回すと、
昼間電気をつけていないこの部屋は真っ赤に染まっていた。
「夕方の鐘だ。帰らなきゃ。心配されちゃう……」
「送っていくかい?」
「ううん。大丈夫。今日はありがとう! また来るね」
「ああ。こっちに誰も知り合いいないから暇なんだ。また来ておくれよ!」
そう言って手を振ってくれる千珠を見ながらゆっくり、ドアを閉めた。
帰り道、ついでなのであたりを見ることにした。って言っても帰ってるので
あまりゆっくり見れるわけじゃないけどね。
街の小さな女の子が私の服の袖を引っ張ってきた。
「?」
「……知らない子だ」
「??」
「マンク兄ちゃんが言ってた、人魚さん?」
「……まぁ、ね」
そう答えると、女の子の顔色が一気にパァっと明るくなった。
「あたし、スイラ。マンク兄ちゃんによろしくって言っておいて!」
「マンク様のお友達?」
「ううん。お兄ちゃんがお友達。同じ武術の稽古場に通ってるの」
「そうなの? じゃぁ、言っておくね」
「うん!」
「その必要はないぞ!」
後ろから聞いたことがある声がして、振り返ると
「な……?」
「あ! マンク兄ちゃんだぁ~!」
その声に街の住民たちが一斉に反応して振り返った。そして
「よぉ! 久しぶりだな。マンク! 元気してたか?」
「元気だよ!」
「これ、この前頼まれた帽子だよ。サイズは合うかい?」
「……うん! ピッタリ。流石、街一番の帽子屋だな」
「シャルネのところしかないんだけどね~」
などと、笑いながら話してた。それを見て、あ……本当に、あの人は一人じゃないんだって思った。
その様子をただただ茫然と見てたら
「何してるんだ? リロス、お前もこっちに来い!」
そう言ってマンクは手を差し伸べてきた。
一瞬……本当に一瞬だけだったけど、大人っぽく……王子様らしく見えた。(本当に王子なんだけど)
若干震え気味の手を軽く置いたら、その手をしっかり握り、その握った手をそのまま上に突き上げ
「皆の衆! よく聞け! この少女がこの国を救う救世主様だー!」
と、大声で叫んだ。
「ぅえ!? ちょ、ま……」
「名をリロス・アントアネットという! みんな仲良くしてやってくれ!」
とまた大声で言った。一瞬にして、顔が熱くなった。それ以上に握られた手が熱かった。
手を下した直後、さっきの勢いで周りに街の人々が一斉に集まり
「ねぇねぇ、今度綺麗なドレスを仕立ててあげようか? 君に似合うやつ!」
「稽古場に遊びにおいでよ!」「帽子をおひとついかが?」
「これ、この世界のリンゴ! よかったら、後で食べて」
「これはうちが育てた花なんだ。良かったら貰って!」
などなど……色んなものをもらったり、色々話しかけたりで大変だった。
お城に帰れたのは、千珠の家を出て約2時間後(本来なら10分程度)のことだった。
「あれ? マンク様、お部屋に戻られないのですか?」
お城に帰って、ぼくの部屋にずっといるのを疑問に思って聞いてみた。
「え? なんで? だって、ココ俺の部屋だもん♪」
「……え? ぼ、ぼく部屋を間違えましたか!?」
「ううん。ここは、リロス。お前の部屋だよ。だけど、俺の部屋でもある。それだけ~」
そう言いながら笑ってこっちに向けてブイサインをしてきた。
それに呼応するかのように、顔が熱くなるのを感じた。
「で、でも……ここって部屋数かなり多いじゃないですか。なのに……相部屋って」
「え~! いいじゃん。ここって、使用人たちにも個室部屋があるから、結構限界迎えてんだよ」
「だ、だったら、せめて使用人様たちの部屋を……」
「でもさ、個人部屋って契約内容にあるしね。俺は相部屋でもいいんだけど。嫌だったか?」
「め! ……滅相もございません」
「よかった!」
また、笑った。
なんだろう……? あの人が笑うたびに、顔がどんどん熱くなった。
―――――――――深夜。窓を開けると、海風に煽られて長い髪が揺れた。
王子はもう眠った。静かに、誰にも気づかれないように、小さなバルコニーから飛び降りた。




