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31 レイモンドの想い

 くそっ。

 どうしてこんなことになったんだ。


 暇つぶしに馬を走らせていたら、自分でも気がつかないうちにお社の辺りまで来ていた。

 何やら騒がしいと思ったら、聖協会の奴らがこの世の終わりみたいな顔をして、我先にと聖殿の方へ走っていやがる。

 尋常でない雰囲気に胸騒ぎがした。




 そのまま馬で聖殿に駆けつけてみれば、泣き腫らしたベスが扉の前に立っていた。

 その隣にはエシルがいる。


 ベスを泣かしたのは絶対にエシルだ。あの女の企みに違いない。ちくしょう!

 あいつがベスに嫉妬していたことはわかっていた。

 王女という身分に。当代に選ばれたことに。


 ベスを取り囲むように聖協会の奴らがいる。どうしてベスを怖がらせるような真似をしているんだ。

 ……っ! 扉の模様が変わっている!

 そうか。だからベスが連れて来られたのか。

 ベスが心を乱したということなんだな。だが、それがどうした! 人間なんだぞ! 心が乱れることくらいあるだろうが!

 


 聖母様に言いたい。

 ベスが心を乱したことを自分に対する裏切りだと思うなら、その怒りは全部オレに向けてくれ。

 約束を違えた王族が憎いんだろ?


 それなら当代の近くにいたオレにも責任があるはずだ。

 オレが対応を間違えたんだ。

 ベスは何かを悩んでいるみたいだった。

 オレには話したくないようだったから、そっと距離を取って見守ることにしたのに。


 オレみたいな男が純真無垢なベスの側にいるのはよくないと思ったし、聖協会の人間がベスをいいように操ろうとしていたのも許せなかった。


 いつものオレのように、言葉巧みに話を引き出すべきだったのか?

 そうすれば、こんなことにはならなかったのか?




 当代は、何でも思い通りになるようにみえて、その実、何一つ思い通りにはならない。

 ベスは母親の手紙一つ手に入れられなかった。


 ああ、ちくしょう。こんな時に何をぐだぐだ考えているんだ。




 ベスが触れていないのに、聖殿の扉が勝手に開いた。

 ベスに入れと言っているのか?

 中にある特別な聖母像がベスを罰するのか?


 エシルまでもがベスに続いて聖殿に入って行った。

 当代以外は入れないと聞いていたが、王族と同じ血が流れていれば入れるのか?

 この体に流れる血のせいで――おそらく、いざという時の切り札とするために――オレは聖協会に目をつけられ監視下に置かれた。


 オレは自分が、自分の血が大嫌いだったが、初めてこの血に感謝した。

 案の定、オレも聖殿に入れた。




 エシルは自分が当代になると勝手に宣言して高笑いをしている。

 ベスは――聖母像のところか。


「ベス!」


 オレがいくら呼んでもベスは振り向かない。

 オレの呼ぶ声は、もう彼女には届かないのか?


「ベス!」




 突然、部屋全体が揺れ始めた。

 ベスを助けに行こうとしたが、彼女の体は眩しい光に包まれている。

 何だ? 何が起こっているんだ?

 ベスの側に行きたいのに、揺れが激しくて立ち上がれない。


 どうなっているんだ?

 ベスは無事なのか?


「ベス! ベス!」


 ちくしょう!

 聖母の仕業か? 何てことしやがる!


 光の中のベスが――ベスの体が見る見るうちに透明になっていく。

 嘘だろ!


「おい! 聖母! 聞こえてるんだろ! ベスを元に戻してくれ! このオレの命をやるから! オレの中にも初代王と同じ血が流れてるんだ! 気に入らないならオレに当たれよ!」



『残念ながら人間の体というものは一度失われると修復はできないものなのです。それに、これは彼女が望んだことです』


 ――誰だ? オレの頭の中に直接話しかけてきてんのか?


『当代という役目を負った少女がこの地に住まわされていることは感じていたのですが。私を慰めるためなどと……初代とはそんな約束などしていなかったのに。可哀想なことをしました。彼とは人間の生について、よく話をしたものです』


 ――まさか、聖母なのか?


『あなたたちの望みを叶えましょう』


――オレたちの望み?


『真っさらな心で大勢に囲まれた暮らしを』


 ――そういえば……そんな話を……していたな。ベスは……覚えているかな……?



 ――あぁぁ。何だ? 猫の声が聞こえる……。

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