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100年の休暇  作者: 十月猫熊
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国境に2週間後には居なくてはならないということで、それからは大忙しだった。


自分のことを愛してくれた家族、そして親しくしてくれた皆さんに、それぞれに手紙とプレゼントを用意した。


孤児院に手紙をかいて、事情があってもう仕送りはできなくなったけど、みんな元気で、と残りの貯金の全部を送った。


モナに買ってもらったものは持っていくことにしても、誰も咎めなかった。


領主様のお針子達が大急ぎでカティアの服を何枚も縫ってくれた。


領主様からも、ヒト族の国からくる姫として恥ずかしくないように、と宝飾品や身の回りの小物を用意してもらった。


そうして、一週間後には旅立つことになった。


使用人仲間は、詳しい事情は知らされなかったけど、人身御供のようなものであるという噂…あながち間違いでもない…に憤慨して別れを心底惜しんでくれた。


ここで働く人たちはみないい人だった。

竜王の国もそうであるといいな、とカティアは願った。


出発までの間に、モナはみるみる痩せてしまい、マイクもやつれてしまった。


カイトの顔も青白くて、三人の顔を見ていられない。


犬の獣人は、特に情が深いことで有名だ。


カティアをこの家族に引き合わせてくれた、そしてカティアも懐いていたテリーおじさんの目の下にも、くっきりとクマがあった。


私を忘れないで、とプレゼントをしたのは失敗だったかと後悔した。


数年暮らしただけのカティアのことなどすぐに忘れて、笑顔を取り戻してほしい。


そういうと、ばか!とモナに怒られて、抱きしめられて声を上げて泣かれた。



出発の時、三人と抱き合うカティアのことを見て、たくさんの人が涙をぬぐっていた。


領主様も恐れ多くもお見送りに出て来てくださったので、ぐずぐずしていられない。


涙が止まらないまま、馬車に乗り込んだ。


ラルフは騎士として、カティアを国境まで送っていく一団のメンバーだった。


動き出した馬車の窓から、家族の姿が見えなくなるまで、窓枠を手が白くなるほど強く握りしめながら見ていたカティアは、家族の姿が見えなくなっても、そのまま固まってそうしていた。


ラルフは隊列を外れて、馬車の窓のそばに馬を寄せて、何か言いたげな顔で懐から出した何かをひょい、とカティアに投げてよこした。

上手くカティアの膝に落ちたそれは、飴玉の詰まった袋だった。


顔を上げてみると、もうラルフは自分の位置に馬をもどして、無表情で進んでいる。


飴玉を受け取って金縛りからとけたようになったカティアは、何も考えずにその飴玉を一つ口に入れた。

甘酸っぱくて、何故かまた涙が出た。



領主様の私設騎士団の護衛を受けながら、領主様の紋章入りの馬車で、その領地内を進んでいくのだから、問題が起こるはずもなかった。

領主様は領民から慕われているのだ。


雨に降られることもなく、順調に進んだ一行は、無事に約束の日の前日には、国境の砦にたどり着いた。


旅の間、カティアの身の回りの世話をするためについてきてくれたメイドもいて、カティアはそのメイドから付け焼刃程度の行儀作法を習いながら来たのだけど、明日以降は、カティアはたった一人で竜王のもとを目指すことになる。


ときどき視界に入るラルフとも、もうお別れなのだ。


打ちのめされるような絶望感が襲う。


砦の中に用意されたカティアのための部屋で、何をするでもなく、窓際に置かれた椅子に座って、ただ外を眺めていた。


メイドにも、今は休んでもらっている。


窓の外の森は深い。


「退屈なの?」


不意に後ろから声をかけられて飛び上がった。


人の出入りする気配を感じなかったのだ。


振り返ると、かなり近いところに銀色の髪をフードで隠した、すらりとした長身の男が立っていた。


「カティア?」


知らない人に名を呼ばれ、そしていきなり姿を現したその不可解さに、思わず椅子を蹴立てて立ち上がった。


「失礼します!何事ですか」


カティアの部屋の前で護衛として立ってくれていたらしい二人の騎士が、椅子の倒れた音に、慌てたようにドアを開けた。


その一人は、ラルフだった。


気が付かなかっただけで、ほんの目と鼻の先にラルフがいたなんて。


安堵のような、拗ねてしまいたいような気持ちでラルフを見るカティアと違って、騎士の顔をしたままのラルフともう一人の騎士は固い顔で、不審者を睨む。


「誰だ?どこから入った」


「もう着いたって聞いて、様子を見に来ただけだ。明日改めてご挨拶するよ」


そういってフードを外し、良く見えるようになった男の目は金色だった。

その目を見た途端、カティアの体の中をなんとも言えない感覚が走り抜けた。


その感覚にぞくり、と身を震わせたのを見て、にんまりと笑ったその男は、音もなくかき消すように消えた。


「何だったんだ…」


騎士の一人が窓の外を確認して、しっかりと窓を閉じて鍵をかけた。


「きっと今のが竜王なのね…」


ラルフはカティアが倒した椅子を起こして、震えるカティアを座らせてくれた。



あまりに怖がるカティアのために、狭い部屋ではあったのだけど、護衛の騎士はカティアの部屋の中にいることになり、そしてそれは兄であるラルフに任されることになった。


夜、カティアの懇願に負けて、ラルフはカティアが眠りにつくまで、ベッドの脇の椅子に座って手を握っていてくれた。


久しぶりに包まれたその手は記憶よりも大きく、剣だこが固くなっていた。


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