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100年の休暇  作者: 十月猫熊
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次の日、まかないの出ないカティアが家に帰って一人で昼食を食べていると、モナが血相を変えて駆けこんできた。


「サラ様から、あなたを領主様にお目通りさせるから、準備するようにって…」


昨日の今日だ。


使用人の最下層にいるカティアに領主様が興味を持つとしたら、何か昨日のことに関係があるに違いない。


特に決まったお仕着せのないカティアは、普段、別館で働くことを意味しているお仕着せの、色んなお下がりを着ていた。


奉公に上がった子たちは成長していくので、数カ月でそのお仕着せでは小さくなって着られなくなる。

それをサラ様からもお許しを得て、貰って着ていた。

お仕着せも、僅かばかりとはいえお金がかかるのだ。

でも、お下がりは、無料だった。


そんなわけで、どのお仕着せを着るかモナと悩み、結局別館の掃除係のお仕着せを選んだ。


身支度を素早く整えると、大急ぎで本館へと向かう。


モナの案内で、後ろをついて歩いているだけなのに、あまりに立派な建物と調度品に、自分は場違いであるとしか思えず、エプロンの端をぎゅっと握りしめながらついて行った。


サラ様のお部屋だという、本や書類の詰まった棚と書き物机、応接セットのある部屋にモナと一緒に通された。


でも、「私も詳しい事情は知らないのです。モナはここでカティアが戻るまで待機していなさい」とサラ様から言われてしまった。


モナの心配そうに揺れる瞳に見送られながら、今度はサラ様の後ろをついて歩く。


掃除係のお仕着せは失敗だったかもしれない…すれ違う人たちの、なぜここに?という視線が刺さる気がする。私服の方が良かったのだろうか。


背の高いサラ様は滑るように歩いているのに、カティアは小走りにならないとついていけなかった。


なので途中からははぐれてしまわないように、という方に気を取られて、緊張がそれ以上高まらなかったのは幸いだったと言えるかもしれない。


息が切れてきたころに、サラ様がひときわ大きく立派な扉の前で立ち止まった。

扉の脇に控えていた男の人がカティア達の到着を大きな声で部屋の中に伝えた。


すると、中から扉が開かれて、カティアはサラ様に押されるようにして、先にその部屋の中に足を踏み入れた。


大きな窓を背に、初めて見る領主様は逆光なこともあり、キラキラ光っていて良く見えなかった。


とりあえず、ここにきて教わった、目上の人に対しての礼をとる。


すると、領主様が人払いをした。


「顔を上げるように」と言われた時には、領主様とカティアと領主様の脇に立っている男の人しかいなくなっていた。


知っている人が誰一人いないこの場で、領主様に対応せねばならないというのか…。

カティアは気が遠くなりそうだった。


「これは…本当に、カティア様ではないか…」


領主様が呟いた言葉は、幸か不幸か、カティアの耳にまでは届かなかった。


ただ、脇に控えた側近の耳には届いており、彼は頷くと、カティアのために小ぶりの椅子を持ってきて、そこに座るように促した。


びくびくしながら座るカティアに、領主様は微笑んだ。


目が慣れてきて、よく見えるようになった領主様は、さらさらした金色の髪に、薄い水色の目をした、現実離れした美しい顔立ちの若い男性だった。


金の髪にお日様が反射して眩しい。


「大丈夫、私との受け答えで何か咎められたりすることが無いよう、人払いをしたのだよ。あなたの思う通りに受け答えしてくれて構わない」


カティアはおずおずと頷いた。


「さて…カティア嬢は、私に見覚えは?」


カティアはぶんぶんと首を振った。


絵姿が領都で売られているのは知っていたが、それすらも見たことがなかった。


こんなに麗しい方であるなら、家に飾りたくなる気持ちが分かる。


「……では、自身について知っていることを教えてくれるかな?」


随分変なことを聞くものだと思いながら、孤児院の前に捨てられていたこと、出自に関しては名前とペンダントくらいの手がかりしかないこと、13歳でここに奉公に上がったこと、色々あってマイクたちの家に厄介になっていて、別棟の雑用係として5年働いてきたこと…。


書き物机に肘をついて、微動だにせず、たまに先を促す声を上げながらじっと聞き入る領主様は美しい彫像のようだった。


これ以上の情報はなく、どうしようかと思ったカティアは、最後に「なぜかここ5、6年成長がとまっています…」と小さな声で付け加えた。


領主様は側近の人に何か言うと、カティアにペンダントを見せてほしい、と頼んできた。


肌身離さず持ってきたものであるけれど、領主様がカティアのような者にお願いをするなど、と飛び上がるほど驚き、大急ぎでペンダントを外した。


側近の人がトレーをもってきて差し出したので、そこに乗せる。


領主様はトレーの上でオレンジ色に輝く結晶の詰まった小瓶を見て、絶句した。


それからそっと手に取って、じっくりと眺めて、その後、両手のひらで包む様にして持つと目を閉じた。


何がどうなるのかとカティアが見つめる先で、領主様はふう、と息をつくと目を開いた。


「やはり…私程度の手には負えないな。素晴らしい封印だ。……さて。どうしたものか」


できれば巻き込まれたくないものだが、と続いた言葉も、側近の耳にしか届かず、側近の人も心底困ったような顔で領主様を見返した。


「カティア嬢。あなたには、とある国の王から、あなたの身を貰い受けたい、という話が来ています。事情があるので、国同士の話にはせず、あくまでも私との交渉で済ませたいというのが先方のお望みです。それについては私も同意しているのですが…。」


よその国の王様が?


は?

何を言っているの?


そう思っているカティアの内心が思いっきり表情か何かに出ていたのだろう。


領主様は、え?という顔をした後に、くくくっと楽しそうに笑った。


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