焼けた記憶
「かなりの数が死んだ。村は焼けて、帰る場所ももう無い。これでは……」
酷く狼狽した顔で、父さんは誰かと話し込んでいる。
あれから、あの火事の日からどれくらい経ったかは分からない。身体中のあちこちが針を刺されたような痛みを訴え続けていることを考えると、そう時間は経過していないのかもしれなかった。
「白虎と招船の二人が向こう側についていたのは誤算だった」
「七門臣とて一枚岩ではないですから。我らが協力するのは他国の侵略を受けた時のみ……内紛では、こうなるのも致し方なしかと」
父さんは、生成色の髪の女性とため息をつきながら会話を続けていた。周りにはまだ他に二人の話し声が聞こえる。集団で動いているのだろう。動けない僕を連れて。
涼やかな風が吹いている。ほどよくひんやりしていて肌触りのいい風だ。火傷と打撲まみれの肌にも優しい、撫で上げるような柔らかな風。
ふと、目を凝らしてから気付く。ここは村近くの竹林だ。よくかさぎくんやひめちゃんと遊んだ、とても大きな竹林。同じような竹が並んでいて、奥に進めば進むほど光も届かなくなるけれど、この近辺で育った子供は目印となる竹を何十本も知っているから、家出したりした時や親と喧嘩した時はよくここに隠れて遊んでいた。
「今この時代に内輪揉めをしている暇などないというのに、恨むぜ将軍殿」
父さんが吐き捨てるようにそう言うと、生成色の髪の女性はそれを鼻で笑った。
「あの色ボケ将軍、今は大森林の猫人族の猫耳にお熱だって聞きましたけど? 笑っちゃいますよねぇ。あんなお飾り、さっさと死んで神威様に席を譲ればこの内紛だってすぐに———ッ」
「……」
「———……すぐに、終わらせてくれるはずなのに」
「将軍は将軍だ。何があろうと、俺たちはそれを信じるだけだ。一時の感情の発散は民の一生の苦しみに繋がる」
何を言うでもなく、父さんは堂々とそう告げて、生成色の髪の女性の肩に手を置いた。
二人が話していると、父さんの仲間らしき男性がこちらに近付いてくる。彼の左肩は真っ赤に染まっていた。おそらくその下は。
こんな想像、いや、現実を見せられても落ち着いていられるのは、僕の意識が朦朧としているからだろうか。きっとそうだ。
「千里様、走薇様。血の臭いです」
「———ッ。そうか、近いか」
隻腕の男性にそう告げられると、父さんは腰の刀の柄に手をかける。
それを合図に、弛緩していた空気に再度の帯が締められた。それぞれが四方に目を向けて、子供でもわかるくらいに警戒を固めている。
緊張感が高まる中、走薇と呼ばれた生成色の髪の女性は、二振りの刀を鞘から抜き、一歩前へ出た。
「致し方無し、ってやつです。私が殿を務めるので、三人は子供くんを連れて遠くへ」
が、彼女の言葉を父さんがはっきりと否定する。他の二人はそういう立場にないのか、納得のいっていない顔はしているものの、言葉には出さずにいた。
「駄目だ。理由は二つ。一つは俺が嫌だから」
「うっわ」
「もう一つ。さっきも言ったが、黒桜側には俺やお前と同じ七門臣が二人ついている。単純な話、追っ手が誰か分からん以上はお前の手に余る」
父さんが指を立てて説明をすると、走薇———さんは露骨に嫌そうな表情をしたが、途中からは、特に七門臣というワードが出てからは一風変わって神妙な面持ちで頷いていた。
「……そりゃ、そーですけど。でもじゃあどうするってんですか」
そう言って、走薇さんはそれぞれの顔に目を向ける。
「怪我人が二人と、子供が一人。ただでさえ湖都城まで逃げ切れるか怪しいっていうのに、その上で追っ手までどうこうなんてのは流石に無茶が過ぎませんか?」
「ああ、その通りだな」
「だったら、私が一人で残った方が全員の生存確率は上がるでしょ」
「———だから、俺が」




