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RELACION 〜有力貴族の居候となった少年とその数奇な人生を〜  作者: 紺色わさび
聖王国の学び舎 編
30/74

最後の放課後①

 時はさかのぼり、スリージ聖王国せいおうこくネサラ。言わずと知れた、学習院がくしゅういんのある古き大都市。

 煉瓦れんが石畳いしだたみの街を抜ける風は歴史の香りを乗せて北へ北へと駆け上がる。若者に人気のお洒落な店が立ち並ぶ大通りに、ちょっぴり渋くて煙管きせるの臭いの染み付いた創業うん十年の看板が目印の商店街。どこもかしこも人だらけ。人の往来でごった返しだ。


 ———人、多いなぁ。


 本日、スリージ聖王国は建国記念の日らしく、国全域が軽いお祭りモードとなっているらしい。とは、今朝方ルーンが自慢げに教えてくれた話。

 この国、そして学習院がくしゅういんにやってきて早くも三年目。これまでは慣れない料理だとか街並みだとか言語だとかで、周りにあまり目を向けられずにいたが、卒業が見えてきたこの頃は、単位を殆ど取り終えた為に受ける講義の数も極端に減り、こうして暇を持て余して街を出歩いては、なるほどあれがそれでこれがそうで……とネサラの色々な良いところにも視線がいくような余裕が出来つつあった。


 ちなみに、単位を殆ど取り終えたとはいっても、それは登笈とおいやスイヨなどの比較的真面目な生徒にのみ当てはまること。サボりがちなライアや眠り姫のルーンなんかは、今年も鬼のようにスケジュールが埋まっているようだ。想像したくもなかった。


 当然といえば当然だが、見慣れた景色が広がっている。目の前の十字路を右に行けばあの店があって、左にまっすぐ進めば行き止まり。この食欲をそそる油の香りは学習院生がくしゅういんせいに大人気の揚げ物料理の店で、微かに聴こえてくるメロディは領主の家からのもの。三年も経てば、どれだけ広い街でもなんとなく構造が見えてきて、入り組んだ路地でもあそこに繋がっているかもと予想が出来るくらいになるものだった。


 とはいえ、知らない場所や入ったことのない店はまだまだ多いので、そういったところは今日のような手の空いた日に散策をして目星をつけておき、後から予定の合った数人で遊びに行ったりして楽しんだり、または一人でこそこそ遊びにいったりしている。


 何を気にすることもなく、ただ楽しく遊んでいられる時間はあと僅か。ここを卒業してしまえば、貴族の子であるライアやスイヨとは個人的な用事では会いにくくなるだろう。だからこそ、出来る限りこの時間を謳歌おうかしていたかった。

 これから先の長い人生で、ふと思い返して笑えるような、そんな記憶を一つでも多く作っておきたかった。


 ので、登笈は本日も知らない道、知らない景色を目指して邁進まいしんする。流石に見るからに誘拐されそうな暗くて汚い道は入らないが、直感に任せてぐいぐいと歩く。歩き続ける。真昼間から騒ぐ酒飲み達の間をすり抜け、優雅なランチの時間を過ごす貴婦人の横を通って、街の南の方を目指して進んだ結果。


「迷った」


 行き着いた先は狭くて細い裏路地だった。どうしてこんな場所に辿り着いたのかは委細不明だが、眼前に広が———広がりも何もあったものではない道が奥へ続いている。それはもう、壁と壁の間隔がかなり近くて、人が一人通るのが限界で、すれ違う時は背中と背中を擦り付け合わないといけなさそうなくらいには道と思えない道だった。左右は民家の壁に阻まれ、上を見てもその壁が高いせいで見通しが悪い。唯一見える青空は気休めにもならない。自分はまだ異世界に行ったわけではないんだな、というどうでもいい指針にしかならない。


「……どうしたもんかなぁ」


 そんな人一人分の道を占有したまま、登笈とおいは腕を組んで少し考える。

 一旦、ここを行かずに後ろへ下がって知ってる道まで出れば知っている道に出られるのは確かだ。しかし、それだと開拓の趣旨しゅしからは外れてしまう。


 ここは意を決して進むべきか。

 それとも下がるべきか。


 と、しかしそんなに深く考えることもなく、まぁ昼だし変なところに出ても夜には帰れるだろうくらいの感覚で登笈とおいは先へ進んでいった。

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