22 実体なき
一時のきらめきをもって大上段から降り注いだ太刀筋が、観測者の足元まで達すると、彼は、いや彼だったものは、正中線より左右に落ちた。
が、目の前で行われた惨劇に目をつぶる間もなく、その異変は顕現する。
切り口には一滴の血もにじまず、代わりに黒ずんだ銀の光沢をもった鋼材、赤青のケーブル、その他見てもよくわからない機器が所せましと詰まっていた。
「一体……?」
将軍も私も戸惑いを隠せないでいたが、精神的余裕に一日の長がある将軍雪が、表面化した異変によってかすんだもう一つの小変をかぎつける。
「これは…危ないッ!」
瞬時、私を突き飛ばして数メートルを跳ねた。
切り倒されたその機械片から、散弾銃よろしく弾丸が見境なく発射されているのが見える。
一時の戸惑いののちに惨事に気圧された。
「ッ……!」
声も出ない。
無抵抗の人間から見る銃弾とはこれほどに恐ろしいものだったか。
刹那、一閃。
将軍雪は、逆手に持った刀を、常人には残像すらもつかめぬ速度で振り回す。
私は向かってくる凶弾数百発を寸分の狂いなくたたき落とすさまを目の当たりにしたことはない。ましてそのようなハイパー超人じみた行為は到底あり得るとも思わない。
が、今やそれを眼前の外見JKが実行するではないか。
ガガガガガガガガガガガガガッッッ!!
全弾を打ち尽くした機械辺から立ち上る硝煙の匂いでそこは満たされ、鼻をつく嫌な香と共にうずくまる雪将軍を見る。
ええと、ええと、とりあえずなんて呼んだらいいか、ああいや今はそれどころではない!
「雪!大丈夫?!」
同名への呼びかけは非常にむず痒い。
「あ、ああ、大丈夫だ。しかし……」
見ると、先ほどまで刀を振るった腕が血で真紅に染まっていた。
「これは……」
方で息をする将軍。
「術耐性の弱い者の躰で少々無茶をした。ふ、負荷を掛けすぎてしまったようだ。すまない」
腕から滴る血が一層不安をあおる。
「さて、デコイを切って返り討ちにあった気分はどうかね、古人?」
どこからか、かの腹立たしい声が。
「き、貴様ッ、よくもこんな!」
「だから言ったのだ、『できるものなら』と。第一、私は何もしてはいないぞ?勝手にそこの機械を斬ったじゃないか。少し煽るだけですぐに火が付く。まったく、頭が旧式の人間は扱いやすいというものだ。はっはっは……」
「黙れ!」
実体のない声に叫ぶ。久々に感じる強い脈動と視野狭窄。そう、俗称『プッツン』というやつである。
「さっきから黙って聞いてりゃあ?古人だの旧式だの扱いやすいだの!人を煽んのもいい加減にしろ!」
「やめろ!」
将軍雪が腕を引きずって止めようとする。が、私の耳には届かない。
ただ、純粋に腹が立った。深い思惑など一切なく、眼の前の怒りのみを原動力としている。
身体のパンプアップを感じ、周囲の塵がピクリと震えた。
「大体あんたどこにいんのよ!出てこい!」
この猛烈な怒りなどよそに、観測者のクソ野郎は嫌味ったらしいしゃべり方を続けた。
「私はそこにはいないよ。いくら怒ろうとも、声を張り上げて術を放とうとも、この私には届かない。君の力では、まだここにたどり着くことはできないさ」
大体どんなストーリーでもそうだ。序盤に出てくる中ボス的立ち位置の輩は、入門者には物理的もしくは経験値的に手が出せないものなんだ。畜生F●CKING観測者め!
「しかし、ここでただ眺めているだけでは少々つまらない。どれ、ひとつ君にヒントをあげよう」
「何のヒントだ!」
「君は私に会いたいのだろう?これはそのためのヒントだ」
「『巨星墜つる時、神息に依りて天岩戸開く。即ち今世一に見えん』まあ、せいぜい気張りたまえよ」
声が途切れた。
「畜生どこに消えた!卑怯者ォ!!」
「落ち着け!馬鹿者!!」
奴の姿を探ろうと踏み出した時、将軍雪が怒声を発した。




