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心を知る事と偽善と欲望

 戸田と大木が教室で朝練を待ってると3分遅刻し勝利がやってきた。

息をかなり切らしている。

遅刻しそうになり急いで走ってきたのが誰の目にもわかった。

勝利は言い訳はしなかった。

「ごめん。遅刻した」


 戸田は表情を変えず答えた。あえて低いトーンでポーカーフェイスで怒っているのがわかる冷たい言い方をした。

「ああ、いいよ」


(目の下にクマがある上に髪がぼさぼさだ。どうも何かあったっぽいな)


 戸田はいつもと違う様子を察しそれ以上勝利を追及しなかった。言い訳をせずすまなそうなかつ辛そうな見てとれたためかもしれない。

 大木はムードを変えるように切り出した。

「じゃあランニングはじめよう。俺は少しでも多く走って早く減量しないと」


 勝利は昨日のホームレスの男性の言葉を思い出した。

「君は友達はおおいかね」

なぜかホームレスの言葉は勝利の心にひびき黙って聞くことに疑問がなくなっていた。


 声と言うより男が出す雰囲気に。好意的な雰囲気にいつの間にか飲み込まれたような気持で不思議な信頼も生まれていた。


 変に男の話を興味深く聞くことができきちんと答えようとする義務感すら生まれた。


「うーん、普通です」

「友達はなくしてはいかんよ。儂はもういないが。今つらくとも支えになってくれるはずだ」


 男はなぜか勝利の悩みを見透かしたようだった。


 見透かすと言うより感じ取り大体の事が分かっているような雰囲気だった。


 ランニング中勝利は思い出すと共に急にボクシングをやる事になった事を思いかえした。


(そういえば成り行きで椿を助けるとか思っていっちゃったけど、おれ本当はどこまで本気だったんだろうか、戸田に良い人ぶってるっていわれたのもあながち間違いじゃないのかもしれない)


 眠いのを我慢しランニングについて行ったがやはり昨日の体力消耗は大きかった。


 戸田は時々振り返り様子を見たがあえてなにも言わなかった。


「よし、休憩にしよう」

3人は息を切らしながら公園に入った。しかし大木はすぐスクワットを始めた。勝利は驚いた。


「何やってるの?」

「俺は少しでも体重落とさなきゃいけないんだ」

寒いのに汗がにじみ出ていた。勝利は決意した。


「よし、俺も!」

身体を引きずり勝利もスクワットを始めた。


 ランニングが終わり3人は学校に戻ってきた。戸田は言った。

「ところで、試合が終わったら日向は今後ボクシングをどうするんだ?」


 勝利は完全に意表を突かれ落し物や忘れ物をしたようにぼーっとあんぐり口を開けた。

「あ・・試合の事ばっかりでその後の事考えてなかった」


さらにぼーっとして頭をぽりぽり掻いていた。その様子に戸田は煮え切らなさを感じ若干呆れていた。


「うーん、それは本当の意味で本気になってないって事じゃないかと思う。」


 苦言を呈されても勝利はボーっとしている。

「……」

「大木君は自主的にスクワットをはじめたろ?それは勝ちたい気持ちがあるからだ。」

しかし戸田は内心思っていた。


(後先考えずに椿君を助けようとするなんてなかなかやるじゃないか)



 2人と離れ勝利は戸田に言われた事を思い出した。家で怒鳴られ慣れている勝利も少しきつい1言に少々しょげ反省していた。


(確かに、俺ボクシングが好きなのか本当に自分と向き合ってなかった。別にボクシングがすきなわけでもないし、椿を助けようとして後戻り出来なくなっちゃった感じだ。今さら後には引けないけど。確かに大木程頑張ってなかったなあ)


 偽善的と言う言葉が突き刺さった。

それを言われると自分に嫌な部分がある事を認めざるを得ないからだ。


 確かに勝利は真澄を助けるため無我夢中であった事を自分は良い人だと思っている部分がある事をしり認めたくないが嫌悪感を産んだ。


 2時限目が始まる前、国木田未来が真澄に話しかけて来た。彼女らしくゆっくり突然現れる。

「もう学校は慣れた?」


「国木田さん。」

真澄には1対1で話す女生徒としては国木田がもっとも近かった。しかし微妙に何の用かと言う危惧もあった。


 顔はやや細目で、目はりりしさとのんきさが同居しているが口元は余計な事を言わないで黙っているような賢さが見て取れる。


 口元に漂う自信と面倒見のいいのんきさが同居した雰囲気だ。

微妙に知性も感じる。


 国木田は面倒見がいい。

だから真澄の話し相手としては自分が最も近いと言う自負が何となく自信につながっているのかもしれない。


「前の学校より勉強は難しい?」

「うん、結構難しいね。だけど僕はこの学校で良かったと思ってる。国木田さんをはじめみんないい人だ。」


「椿君はすごくもてるし。だって綺麗で清潔だし。何かうるわしい。」

「あ、全然そんなことないよ!僕は結構ずぼらで……」

真澄は思った。


(この子、私が女の子に囲まれてた時はたしか離れてた。でも時々話しかけてくれるいい人)


「今年のバレンタインデーはすごくもらえると思う。転校してきた王子様って感じ」

「そんな事……」


「だけどこういうのもなんだけど、私椿君のことあまり男として意識しないで話せるんだよね、なんていうかあんまり男っぽくないっていうか、こういうと変だけど女同士で話してる感覚がする。あ、男装の麗人ってイメージ」

(け、結構するどいな)


「男装の麗人かあ、うれしいな。僕も宝塚見に行くんだよね」

「あたしも!」

(本当は、男装の参考にするためでもあるんだけど)



 国木田が真澄に話しかけた。

「椿君が来てから日向君すごく生き生きしてる。前は悩ましげだったけど」


「僕がきてから」

「彼家に門限があるの。でそれを知った人からはかなり変人扱いされて、話さなくなった人もいるけど。今は目が輝いてる。あんなきつい練習できるんだ。」


「練習みたの?」

「うん朝からランニングしたてさらに公園で筋トレ」


「もしかして日向君は私のために。私は助けてもらって当然みたいに思ってるいやな部分がある。女だって事から抜けられてないからだ。それにいつかは打ち明けないと。」


 勝利は父に殴られた。

「家から脱走するとは何事だ!」

更にかえす手で母を殴った。

「お前らなんかのために働いていると思うと吐き気がする。」


(あいついつか思い切り殴ってやる。でも俺は前より変われた。今までならやになってたかもしれないけど、今は辛い事があっても目の前の事をやろう。)


「友達思いのフリしたかったんじゃないのか?」

戸田の事を思い出した。

(確かにそうだったと思う、俺良い人ですねって良く言われた事があったからそうしないといけないみたい、いそう思われたいのがあったんだ。それに打ち込むものが欲しくてボクシングをすごく好きだと思おうとしていたんだ。でもそれがわかったから今は大丈夫だ。)


 翌日も勝利は朝早く来てランニングをした。

(今はこれがやるべき事なんだ。)

黙々と筋トレもした。10kgのダンベルを両手に持ち上げ下げする地味なトレーニングもやった。


 35kgのペンチプレスもやった。

そして頃合いをみて。戸田が言った。

「じゃあそろそろパンチを始める」


 勝利は言われていよいよかと言う気になり緊張しながらグローブを初めて付けた。

(これがボクシンググローブ)

そして見よう見まねのように構えた。

「まず構えから、ディフェンスのポーズをまずしっかり取って」

「ああ。」

「こう、もっと脇をしめて」

「……」

数分間構えチェックが始まった。


「で僕がゆるーくパンチするからかわすんだ」


 戸田のゆるい、100人中100人が避けられるスローモーション撮影の様なパンチを同じく隙だらけの動きで勝利はかわした。戸田は言った。

「その隙をだんだんなくして行こう。」


 乾はボクシング部に電話していた。あいかわらず陰湿な声と話し方である。

「どう?あいつらぼこすかにしてやってくれ」


 乾は特に真澄が殴られる事を想像していた。その顔は陰湿で嫌らしかった。しかしボクシング部は少し警戒していた。

「それがな・・あいつらすごい特訓してるらしいんだ」

「素人だろどうせ」


「それはそうだが、戸田ってやつが元選手ですごいメニューを組んでるらしい。それになんとかって初心者が取り組んでるらしい。何でも初めてとは思えないほどすごい気迫らしい」


「うーん……もしかして場合によっては妨害工作も考えるよ」

電話を切り乾は考え込んだ。少しだけ笑いが消え不安が生まれた。

(椿の秘密をあの日向は知ってるのか?あの女の為にやってるのか?でないとそこまで必死になる理由がない。) 


 戸田は公園で同級生らしき少年を連れて来た。 

「中学時代の同級生を紹介する」

「火野勝です、よろしく!」

勝利が悩ましげなのとは違い、とても明るくはきはきした口調だった。髪の毛は立っている。


「ちょっと3人だと練習が張りあいないと思って呼んだんだ。すごくポシティブで明るいから皆をけん引してくれると思う。」


「じゃあ今日から宜しく!」

「ああ、よろしく」

勝利はやや押され挨拶をした。しかし悪い気配は感じなかったにこにこと元気に笑う快活な少年だった。




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