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男対女の無茶な戦い

 真澄はついに入場を終えリングに上がった。入場時から心臓はばくばくしていた。


 体と心に緊張がほとばしる。


 唱える様に自分に言い聞かせた。

「スパーリング何回かしたけど本当の試合は初めてで何と言うか怖い。本当にやれるんだろうか。女の私が。だけど日向君を救うためには」



 真澄が見つめるコーナーの向こう側には葛西がいる。


 筋肉質でねむたそうだが獰猛さも感じる目でコーナーにもたれながら葛西は思った。


 少々真澄の風貌にあざけりも感じていた。

(なんだこいつ華奢な体して本当に男か? しかもどぎまぎしてる)


 勝利は真澄を気遣い心配ながら叫んだ。

「椿頑張れ!」

明石も呼応した。


「道場破りを倒してやれ!」

しかし完全にはその声は届かず、むしろ緊張の方が大きかった。歓声がむしろ敵だった。


(みんなが私を見てる……)

真澄は自分を追い込んだ。

(勝たないと、勝たないと……)


 グローブをごわごわ合わせた。

そしてボディチェック後、ついにアナウンサーが名前を読み上げた。


「青コーナー、葛西真作」

「赤コーナー、椿真澄」


 真澄は大歓声を浴びた。


 果たして強いのかという期待が会場を支配した。


 しかし真澄の不安は解消されなかった。


 真澄には何もかも初めてだった。向こう側には自分よりはるかに強い男がいる。怖くて当然だった。


 葛西もなんだこいつと言う目で見ていた。


 2人は目があったりそらしたりした。


 館内のボルテージは上がった。そしてついにゴングがなった。両者は構え向き合った。


 真澄はこわごわ構えた。腰もひけていた。


 恐怖は隠しきれなかった。怯えながら後方に下がりながらもガードを崩さず防衛本能で距離を取り相手のパンチを警戒した。


 葛西はもしかして真澄が強いのかと思いすぐに前には出なかった。真ん中で構えながら立ち止まり睨み付けた。真澄は怯えた。


「怖がってるのが見え見えだ」

少しにやりとして葛西は回り込みながら攻めようとしてきた。


 その迫力に真澄は怯えた。

「きゃあ!」

と声を出して防衛本能から真澄は思わず反応で一発パンチを打ったが軽く受け止められた。


「あっ」

と思わずパンチを出した事に気付き後悔した。防御がおざなりになっていた。

(女みたいな声出す奴だな)

と葛西は思った。


 真澄は恐怖で後ろに2、3歩下がった。


その下がりかたが完全に素人のフットワークだったため、葛西は本当に真澄が強いのか確かめようとした。


 真澄は必死に練習で学んだ事を思い出そうとしたが実戦の恐怖と緊張は思った以上にすごく彼女を戸惑わせた。


「弱いやつをおれに当てがってるのか」

疑念に対する怒りや反撃と牽制で葛西は軽くジャブを打ちかすったように見えたが真澄はギリギリかわしていた。


 もろに食らったと見え場内は戦慄したが自分の思いもよらぬ素早い反応に真澄自身も驚いていた。

(気がつかず反射的に後ろに下がっていたんだ)


 次の2発目のジャブも真澄はかわした。

「上手いじゃないか!」

と場内はどよめいた。


(少しはやるようだな)

と葛西は思い攻めるため前にぐっと出てきた。いきなり驚くべき速さで真澄のふところに潜った。


 真澄はしまったと思った。

しかしそれはフェイントでパンチは打たなかった。

(怯えるか確かめるためだ!)


 しかし前に出てこられて真澄は怯えた。


 その真澄をおどすように葛西は小刻みにジャブを打った。しかしそれを何とか真澄はブロックして見せた。


 周りからみるといたぶっているようにも真澄の真の力を引き出すためにも見えた。

(ほう、防御がうまいな)

と葛西は思った。


 さらにジャブを打って言ったが跳ねるようなフットワークで後方にスウェ―しかわして見せた。


 本人は思わず必死と言う感じだった。

「足のばねが素晴らしい」

と戸田は評した。

真澄は怖さをごまかすため、見られたくないためおもむろに弱いジャブを何発か打ったが全て簡単に防がれた。


 カウンターで弱いパンチをボディーに受け真澄はのけぞった。ボディーを押さえ顔を歪めた。葛西は思った。

(ボディーのガードは下手みたいだな)

少しだけまずいと思った。


 葛西は前に出てパンチを打つと真澄にかすった。真澄は弱気になり勝利に相談した事を思い出した。

「戦うの怖いんだよね」

「相手も緊張してるんだ」

と勝利は言っていた。


 それを思いだし真澄の動きに切れが出てきた。

(速くなった)

葛西もそれに気がついた。

(まだっ!)


 と真澄は思いパンチを打った。防がれても次を打って行った。

(ほう、急に攻めてきたな)

ここで1ラウンドが終わった。


 前日、大士は会社で噂されていた。

「課長って人あたりの好い人よね。」

「本当、家庭でも優しそう」


 しかし試合の前の日の夜大士は光子に怒鳴った。まったく相手を傷つけている自覚はないまさしくサイコパスの様であった。


「昔の男とあうだとふざけるな!」

光子は半泣きしながら強く自己の権利を主張した。今日だけは譲れないと言う気持ちだった。


「違います同窓会に行くだけです!私にも行く権利はあるはずです。」

しかし大士は光子をなぐった。


「女に権利などない! 昔の女はみな姑の世話をしていたんだそれを貴様は!」

それ以上光子は言い返さなかった。しばらくして電話をかけた。

「優馬さん・・」


 悲しみに暮れる様子を優馬は感じ取った。

「何かあったのかい……」

「あたし、同窓会に行けそうにない。主人が……」

「もしあれなら僕が文句を言ってやる。」


 その声は怒りと頼もしさに満ちていた。そして光子は弱い自分が頼れるのは優馬しかいないと思っていた。


 そして第2ラウンドに備えセコンドの勝利と戸田が真澄を励ました。戸田は

「1戦目にしてはすごくいいよ。ディフェンス上手いじゃないか。」

「その調子、でも無理するな。」


 勝利の励ましに気丈に真澄は答えたがやはり恐怖は消えなかった。そして2ラウンドは開始された。


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